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波乱のお披露目会へ

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 見守っていた侍女たちの、わぁと甲高い歓声も続きます。
 ステキだわぁ、お似合いだわぁ、さすがだわぁの賞賛が鳴り止まない中、キリンエットだけは呆然として立っていました。

(えぇ~っ…)

 心が置いてきぼりを食らうとはこういう状態を言うのでしょうか。
 確かに大胆なまでに開いてしまって実に頼りなかった胸元はキリン柄のストールで隠されています。
 懐かしの角だって耳の飾りだって、髪が美しく整えられた後にしっかりと装着させられています。
 けれども下衣がドレスと称される、やはり女性用の服装なのです。
 これでは部分模倣です、同じではありません。
 いわゆる似た雰囲気シミラールックです。
 目指していたのは双子コーデだというのにあんまりです。

「キリリン、とても綺麗だよ。
 まさにお披露目に相応しい美しさだ」

 王子の腕に横向きに抱えられて、ふわりと茶色の斑点模様の入った黄色いドレスが舞い上がりました。
 その足下へ、ささっとモブサンローランが近づきます。
 いつの間にか用意されていた蹄のように黒いピカピカの靴が素早く履かされました。

「さぁ、行こう」

 おばあさまと比べると遙かに心もとない化粧を施された身がカツーン、カツーンと大理石の通路を抱かれたまま運ばれていきます。

(ど、どこへ…行くんだろう…)

 昼過ぎになって起こされた時には、眠りについてからなんと二日以上が経っていました。
 その時に根回しは済んでいるから大丈夫だと告げられましたが、そもそもどういう話なのかの理解が追いついていません。
 何が大丈夫なのか。
 何が待ち受けているのか。
 キリンエットが見知っていることと言えば、今日が仮装舞踏会の最終日だということくらいです。
 そう、実は五日間に渡って仮装舞踏会が開催中だったのです。
 王子の回帰祝いに続いてです。
 どれほど、お祭り好きなのでしょうか。
 しかも、回帰祝いをしてくれてありがとうを仮装にこめてというお祝いのようなのです。
 よくわかりません。
 その場合は、ありがとうと気持ちをこめて言うだけでいいのではないでしょうか。
 それでお祝い化を逐一認めてしまうのなら、今度は仮装舞踏会をしてくれてありがとうをこめてのお祝いをしますと…なんだか無限ループに陥りそうな気すらしてしまいます。
 ですが、そうは思えてもキリンエットもお祭りは好きなのです。
 ましてや大好きなキリンオと大好きなキリンの格好で参加する初めてのイベント行事です。
 胸を秘かに高鳴らせていると、キィィと。
 かしずく衛兵たちによって扉が開かれました。

(わぁ…)

 途端に目に飛びこんできた煌びやかな光景といったら、まさに美術の成績がイチだった身には絵にも描けない美しさです。
 海ぶどうのように幾重にも垂れ下がる綺麗な照明器具シャンデリアの下で、鯛やヒラメのようにヒラヒラと色とりどりのドレス姿が麗しく舞っています。
 絵本で見た竜宮城みたいだとキリンエットは感動してしまいました。

「キリンオ殿下だ!!」

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