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正体がバラされてしまい、さようならと

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(そ、そんな…)

 キリンエットもまた激痛に耐えながら自身の現状を理解し、サーッと青ざめます。
 iPS竿棒がどうして無効化されてしまったのかわからないものの、魚体に戻り始めているのでです。
 このまま人目に晒してしまったら、まずいと震え上がりました。
 人魚の世界では人間に決して姿を見せてはならないという鉄の掟があるのです。
 正体を見られてしまった人魚を待ち受ける運命とは一体どんなものか。
 人間によってさんざん嬲られて、もしくは人魚仲間によってひどい制裁を与えられて、または自ずと泡となって―この世から消え失せてしまうのだよと。
 おばあさまから耳にたこができるほどに言い聞かせられて育ってきたのです。

(ど、どうしよう…)

 そんな目には遭いたくありません。
 苦痛の声を唇から漏らし続けながら、助けて、お願い、誰か助けてと心が叫びます。

「貴っ様らぁ、キリリンになんの呪いをかけたーっ!!」
「違います、呪いなんかではなく、この者は元々が魔物なのです!!」
「だまれ、だまれ、だまれ!! 卑怯者が下劣なことを!!」

(キリンオ…)

 バルコニーで呪いをかけられたと怒り狂っているキリンオを涙で滲む目で見下ろします。
 モブミにはなぜだか人間でないこともばれてしまっていますが、キリンオにはキリンエットが本当は人外だとは思えないのでしょう。

「殿下のために、このまま正体を暴いてやります!!」

 王女がキリンエットをギリギリと睨みつけると、だいたい人でもないくせに邪魔をするなんて許せないと吐き捨てました。

「モブーレ、早くやっておしまいなさい!!」
「θρχηναπεπα…ακγο…δδλσσαεーーλληνιτρ!!」
「あぁああぁっ!!」
「キリリンッ!!」

「ほら、ご覧なさい、だんだんと脚がくっついてきましたわよ。
 こんなのが聖女なわけがないですわよね、汚らわしい魔物でしてよ、そうでしょう、皆さん!!」

 高らかに笑うモブミの声とそれに呼応するかのようにざわっと動揺した気配が漂った中で、

(あぁ…もう…ダメ…だ…)

 とキリンエットは観念しました。
 脚が完全にくっついてしまったかのような感覚と。
 暗くなり始めた視界の先でキリンオの必死に自分を呼ぶ姿が遠ざかっていきます。
 どうやら人間に嬲られてではなく、人魚仲間に制裁を与えられてでもなく、自ずと泡となって、ここで終わる運命だったんだと。
 キリンエットは消滅を覚悟しました。
 自分はこのまま泡と化すのだと。
 脳裏に両親や祖父母、兄弟たち、そして最後にキリンオの姿がやはり浮かびました。
 あぁ、なんということでしょう。
 せっかくキリンオと結ばれようとしていたのに。
 死にたくなんてありません。
 けれども、さようなら――と邪気の鎖に拘束されていた手足が力を失ったその時です。

 ズォォオンッ…

 とどこかで何か音がしました。

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