それでも君を愛している

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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 私は名もなき、ただの桜の大木。
 築二十五年近い公営住宅の南側出口、その横の緑地公園に立つ木々の中の一本だ。
 忙しなく忙しなく日々を過ごす住民たちの風景を。
 仲間の木々たちと一緒に見守りながら、気のせいではなく確かにいる木の精。
 そんな聞き手のいない戯言を独りで言っては、独りで笑って過ごしている精霊。
 それが私だった、そう、あの日、君に話しかけられるまでは――

「あんたさ……前から思ってたんだけどさ、オレにしか見えてないだろ?」

 唐突な問いかけに視線を下に向ければ、目の大きい可愛い顔をした少年がじっとこちらを見上げて立っている。
 あぁ、そうか、とうとう声をかけてきたのだね。
 ふわりと彼のいる地面に舞い降りた。

「そうだね、私を見える人間はそうそういないからね……ずいぶんと久しぶりだよ、声をかけられるのは」

 百年は軽くたっているかもしれない。
 当時の男とはずいぶんと異なる服装をしている少年の姿を見つめていると物怖じもせずに、ペタペタと小さな手で私の身体を触ってきた。

「いつ見てもさ、花咲か爺さんの……といっても、爺さんっていうより、一寸法師の兄ちゃんって感じもしなくもないんだけど、絵本に出てくる服みたいなのを着て、ぼぉーっと木の上にいてさ、変な奴って思ってたけど……やっぱ、こうして触っても普通だし……ほんと不思議だよな、なんで、みんなには見えないんだろ?」

 そう言われると確かに奇妙で珍しい。
 まさか、少年に触られたところから熱を感じるなんて。
 まさか、強く握られたところから触感を覚えるなんて。
 一体どういうことなのだろう、互いにその存在を体感できている。
 これには私も少し驚いた顔で思わず触り返してしまった。
 通常ならば、すり抜けるところが、なぜか少年の身体だけはしっかりと掴めた。

「あんた、幽霊なの?」
「いや、私は木の精なんだ……といっても気のせいだよ、勘違いだよ~ではなくて、木にいる精霊のほうの木の精っていえば、わかるかな?」
「そんぐらいわかるに決まっているだろ……あんた、名前、なに?」

 あぁ、なんということだ。
 渾身こんしんの冗談だったのにあっさりと流されてしまった。悲しい。

「えっと、名前は……そうだね、特にないかな。誰かに呼ばれたりすることがないからね」

 正直に告げるとものすごく大きく目を見開いて、ものすごく驚いたとばかりの顔を見せられた。

「ないってことはないだろ、あんた、木の精っていうのなら、オレ、知ってるもん。あんたがいつもいるこの木、これ、ソメイヨシノだろ?」

 すかさず告げられたその名前を知らないわけじゃない。
 公園の外にいる仲間の存在や種類といったことはよくわからないが、緑地の管理を担う植木職人がよく口にする言葉だ。
 きっと私はその名称の木なのだろう。

「とにかく、これからヨシノって呼ぶから……で、オレは桜井まもる

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