それでも君を愛している

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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「知ってるよ、守くん、向かいの一号棟の一階の角部屋に住んでいる子だよね?」

 先ほどよりももっともっと目をまん丸くした少年に、ふふっと思わず笑みが零れた。
 言葉にしなくても、なぜ自分の住まいを知っているのかと瞳が雄弁に物語っている。

「私はここにずっといるからね」

 そう、だから私は君がお母さんのお腹にいる時から知っているんだよと心の中で付け加えた。
 生まれた後だって、君は乳母車にいる時からじっと私を見てたじゃないか。
 そして幼稚園に入った日にはお母さんに聞いてたじゃないか、あの木の上にいる人は誰って。
 お母さんから誰も木の上になんかいないわよと笑われて。
 それから君はその後も、何度も何度も友達に尋ねては笑われて。
 その度に私を複雑な顔で見上げていたよね。
 どうして私に声をかけてきたんだろうね、上級生になって勇気が出たのかな。
 このままずっと、あるはずのない存在として扱われるかと思っていたんだけどな。
 それにしても外装工事とやらの仕事をしているお父さんに口調がそっくりになったね。
 ちょっと前までは、ぼく、ぼくって言ってたのにね。

「オレさ、なんで、オレだけがあんたが見えるのだろってずっと考えてたんだけどさ、よくわからないから、ま、いっかと思ってさ。でさ……オレ、ちょっとあんたに聞きたいことがあるんだけど」

 愛らしい手が私の手を強引に引っ張って歩き出す。
 と木の下に置いてあるベンチに座った。

「ヨシノも座って」

 と口にしながら、ゴソゴソと肩にかけていた鞄の中から一冊の本を出してきた。

「これ、この本なんだけどさ、ヨシノ、知ってる? 世界で有名な本なんだってさ…母さんが好きな本なんだけど、オレさ、全然意味わからなくてさ」

 差し出された本を見つめたものの、私には字が読めない。
 人が本を読む姿を見守ってはいても本そのものを私が触ったことはない。

「本は読んだことないからわからないな……どんなお話なんだい?」
「リンゴの木と人間の話なんだけどさ、小さい頃はさ、木登りとかしたりさ、すごく仲良くてさ…」

 守くんが答えながらペラペラと本をめくり始めた。
 一緒になって覗きこむ。

「だけど、大きくなったら遊ばなくなってさ……なのに、大きくなったそいつに木はリンゴを取られたり、枝を取られたり、最後には切り株だけにさせられちゃってさ……けど、木は嬉しかった……って話でさ、おかしくない? なんで、そんなんで嬉しいわけ?」

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