アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

文字の大きさ
54 / 153
第6章 嫉妬したオルフェウスに…

2 抱っこされて

しおりを挟む
 続けて、バサッバサッと。
 天馬が大きく羽ばたいて宙へと駆け上がり、あるじを追って光の渦へと入る。
 や否や、スォンッと異界層への扉が閉められた。

(あっ…)

 それは独擅場どくせんじょうとも言える強引な幕引きだ。
 ただただ呆然として立ち竦むことしかできない。
 唐突に始まり、そして一方的に終わった。
 後に残されたのはありふれた神殿の無機質な天井で。
 壁に掛かった松明ダロスの明るさと燃える音だけとなった空間でスッと、オルフェウスが右手を降ろし、霊気の防御壁も形を消した。
 ズンッと重たかった空気の圧ももはや一切感じられない。
 けれども、どうにも意識が追いついていない。
 そんな当惑する背後でわずかなため息が漏れ聞こえた。

「身体は大丈夫か?」
「えっ…あっ、うん…」

 心配そうに見下ろしてきた青灰色の瞳にぎこちなく頷いて返す。
 今のはなんだったんだと口を開く前に、すまなかったと詫びられた。

「どうやら始めからこの場にいたようだ。わかっていたならば側を離れなかった…私の落ち度だな」
「えっ、いや、それは…」

 誰も予想ができなかったわけで、謝る必要なんてないのではと目で問いかける。

(でも…始めから…いたのか…)

 にわかには信じがたいが、あの出現の仕方を振り返るとおそらくは正しいだろう。
 だがそれならば、なぜ姿が見えなかったのか。
 凡人である自分だけが見えていなかったのか。

「ここまで束縛が強いとはな…しかし、考えてみれば当然か」

 オルフェウスが小首を傾げ、わからなくもないと何かの境地に至ったかのような顔つきをする。
 その姿におずおずと尋ねた。

「あのさ…オレだけ…じゃないよね、見えなかったのって…」
「あぁ、ハデスだけが操れる、不可視化した甲冑アエラス・パノプリアは誰にも見えない…あの様子じゃ、王妃にも黙ってついてきたのだろう」
「そっか…」

 アエラス・パノプリアと称する武具が果たしてどのような物なのかはよくわからないものの、自分だけでなくてよかったと。
 とりあえずあの場にいた、冥府の王以外の全員が見えていなかったことに奇妙な安心感を覚える。
 ぼんやりと天井を見上げて感慨に耽っていると――

「え…あっ…うわぁっ」

 前触れもなく身を屈めたオルフェウスによってスッと膝裏に手が入れられ、ひょいっとそのまま横向きに抱きかかえられた。

「えぇえっ、ちょ、ちょっと、な、なんでっ!?」
「黄金の羊を渡す使命は終わった。我々も獣車クーペに戻ろう」
「いや、それはそうなんだけど…」

 獣車に戻ること自体にはもちろん異論はない。
 けれども腕に抱かれて運ばれる理由には身に覚えがない。
 下ろしてくれと告げようとした矢先に、イオン、来いと呼ぶ声に割りこまれた。
 クゥィイッと応じてバサバサと小さな影が飛んでくる。
 とオルフェウスが叱咤した。

「情けないぞ…いかなる時もディケを守れと言ってあったはずだ」
「えっ」

 オルフェウスから魔鳥への初めて聞く指示を耳にしながら、そう言えば、いなかったと。
 肩に乗っているはずの存在が遠くから現れたことに驚いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

処理中です...