オメガの戦士はアルファに囚われる~ギリシャ神話オメガバース~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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1:囚人テセウス

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 そして白に近い灰色なのか、それとも薄暗い光の加減でそう見えるのか。上は二の腕までと腰を隠す長さの貫頭衣を、下はゆったりとしたズボンを身に着けていた。

 (オレは・・・誰なんだ・・・)

 裸ではない。服も着ている。その自由となった身体の感覚は――決して悪くはない。痛みもなければ不自由を感じる点も特にない。だが、全くもってして自分という存在が掴めていない。

 視野に入るモノから考えれば、目に少しかかる前髪は明るい色をしているようにも見える。指で引っ張ってみた。抜けない。ちゃんと生えている。

 他にも腕、胸、腹、脚と確かめるように触ってみる。姿形は男でそれなりに鍛えているようだ。実体はある。判断力もある。それなのに肝心の自分が理解できていない。

 (テセウス・・・)

 それが自分の名前だ。先ほどそう口にした。だからそうであるはずなのに、そのテセウスたる記憶が何一つ思い浮かばないのだ。

 ざあぁぁあぁぁぁぁーーーっ・・・・・・

 背後の大木の裂け目からはまだ水が出続けている。足下を濡らすその流れを目で自然と追った。出口だろうか。遠くにうっすらと輝く光が見えた。

 『水の道に沿って進むがいい』

 ふわっと先ほどの言葉が頭に蘇った。一体、誰だったのか。疑問は尽きない。

 けれども、その見知らぬ男の声が再び話しかけてくる気配はもう感じられない。このままここで立ち止まっていても何も変わらない。だとするならば――進むしかない。

 パシャン・・・パシャン・・・パシャン・・・

 男に言われた通りに。分厚い靴底のサンダルを履いていた足で歩み始めた。その流れの行く先を目指して。

 目に入る靴はおそらくは動物の皮で出来ているのだろう。足首やふくらはぎにしっかりと紐で括り付けられ、甲には厚みのあるプロテクターがあてられている。戦士が履く軍靴ぐんかだ。そういった常識はちゃんと頭に浮かぶ。なのに――

 (テセウス・・・テセウス・・・テセウス・・・)

 足下を見ながら前に進む。何度も何度も繰り返したところで、肝心の自分については空白のままなのはなぜなのか。

 答えがないまま、それでも、オレは誰なんだと。なぜ、名前以外思い出せないのかと問い続ける。そして最後には認めた。考えられる理由が一つ思い付くからだ――そう。それは自分が罪人であるという事実だ。

 恐怖の奈落タルタロス。穢れに穢れた不浄の地・・・・・・謎の声が告げていた名称はギリシャの者であれば誰もが知っているだろう。冥界だ。人々を始め神々でさえ忌み嫌うという・・・あの・・・

 (なぜ、オレがそのタルタロスにいるんだ・・・)

 冥界という知識はあっても第八監獄の具体的な実態は知らない。けれども自分は今、確実にそこにいるのだ。

 (オレは・・・・・・何をしたんだ?)

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