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10:ハデスの神殿と揺るがない求愛と
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顔を上げて、青みの増した紫色の瞳が探るようにして見つめてくる。そこに別の色合いが籠もった。
「あぁ・・・あの時か・・・」
今まで帯びていた熱っぽさとは打って変わって。冷ややかな空気をピシッとまとった理由はおそらく、自分をそう呼んだ者を思い出したに違いない。
「えっ・・・・・・あっ!!」
不機嫌さを漂わせながら身をかがめた。と思った途端に、脇と膝裏に手を素早く入れられて、横向きに抱きかかえられる。
「アトラス、な、なにを!!」
すぐさま、その腕の中から降りようとするが、ガシッと掴まれていてままならない。まるで子供を相手にするかのように易々と扱われている。
「外で話そう」
入ってきた場所とは異なる出入り口に向かって。ゆったりと歩き始めた逞しい胸に、ドクドクドクドク・・・と鼓動を乱しながらも。その歩みの振動が、その気が、あまりにも心地よくて。
(あぁ・・・)
歩けるというのに、拒むこともせずに。自分から甘えるように身を寄せて、うっとりと酔い痴れてしまう。
(アトラス・・・)
この雄々しい身体に二度も抱かれたのだ。我を忘れるほどに激しく。それほどまでに、この男は自分を愛しているのだ。ツガイにしたがっているのだ。
(あぁ・・・)
それはやはり、どうにも否定できない甘美な悦びで。
もう、いいじゃないかと。求められるままに、身を任せてしまえばいいじゃないかと。素直に愛されればいいじゃないかと心の隅で思う。自分だって好きなのだから。そう、好きなのだ。
「ハデス・エピクリオス神殿の庭はとりわけ美しい。お前も・・・気に入るだろう」
アトラスの声かけに、ハッと現実に意識を戻した。
(ハデス・エピクリオス神殿・・・だったのか・・・)
加護を与える神族ハデスよと称える、その名前の神殿を。耳にした途端に、なぜだか見知っていたかのような感覚があって。
(確か・・・変わった形の・・・)
と、つい周囲に視線を彷徨わせてしまう。
アトラスの腕の中に抱かれたまま通路を歩み進み、大理石で覆われた壁と屋根がその守りの終わりを告げると、天と左右が開けた空間へと出た。途端に――
ざぁっ…
と心地よい風が吹きつけてきて、目を見開く。
「あっ・・・」
石段の先に待ち受けているのは、広々とした緑地だ。空一面に輝く星々と月の光に照らされて、青々とした糸杉の木々が密集している。
その生い茂る、鹿の角のような葉が無数に付いた枝は、どれもどこか人間の形のようで。まるで緑の巨人の集団が敬意でも示しているかのように、サワサワと優しく揺れている。
そして、その足下には黄色い水仙が咲き誇っていてと。なんだか、夜に楽しげに踊る小さな精霊たちの姿にも見える。
(あぁ・・・美しいな・・・)
所々に焚かれている松明の明かりもまた情緒を増させ、その幻想的な光景に魅入ってしまう。
そのまま高さのある石段を一段ずつ、長い外套を翻しながら。風格すら感じさせる足取りでアトラスが降りると、水が溢れ流れる大きな噴水へと向かって、草地の地面を歩み続ける。
美しい白石で作られた憩いの場に着くと静かに腰掛けた。
「あぁ・・・あの時か・・・」
今まで帯びていた熱っぽさとは打って変わって。冷ややかな空気をピシッとまとった理由はおそらく、自分をそう呼んだ者を思い出したに違いない。
「えっ・・・・・・あっ!!」
不機嫌さを漂わせながら身をかがめた。と思った途端に、脇と膝裏に手を素早く入れられて、横向きに抱きかかえられる。
「アトラス、な、なにを!!」
すぐさま、その腕の中から降りようとするが、ガシッと掴まれていてままならない。まるで子供を相手にするかのように易々と扱われている。
「外で話そう」
入ってきた場所とは異なる出入り口に向かって。ゆったりと歩き始めた逞しい胸に、ドクドクドクドク・・・と鼓動を乱しながらも。その歩みの振動が、その気が、あまりにも心地よくて。
(あぁ・・・)
歩けるというのに、拒むこともせずに。自分から甘えるように身を寄せて、うっとりと酔い痴れてしまう。
(アトラス・・・)
この雄々しい身体に二度も抱かれたのだ。我を忘れるほどに激しく。それほどまでに、この男は自分を愛しているのだ。ツガイにしたがっているのだ。
(あぁ・・・)
それはやはり、どうにも否定できない甘美な悦びで。
もう、いいじゃないかと。求められるままに、身を任せてしまえばいいじゃないかと。素直に愛されればいいじゃないかと心の隅で思う。自分だって好きなのだから。そう、好きなのだ。
「ハデス・エピクリオス神殿の庭はとりわけ美しい。お前も・・・気に入るだろう」
アトラスの声かけに、ハッと現実に意識を戻した。
(ハデス・エピクリオス神殿・・・だったのか・・・)
加護を与える神族ハデスよと称える、その名前の神殿を。耳にした途端に、なぜだか見知っていたかのような感覚があって。
(確か・・・変わった形の・・・)
と、つい周囲に視線を彷徨わせてしまう。
アトラスの腕の中に抱かれたまま通路を歩み進み、大理石で覆われた壁と屋根がその守りの終わりを告げると、天と左右が開けた空間へと出た。途端に――
ざぁっ…
と心地よい風が吹きつけてきて、目を見開く。
「あっ・・・」
石段の先に待ち受けているのは、広々とした緑地だ。空一面に輝く星々と月の光に照らされて、青々とした糸杉の木々が密集している。
その生い茂る、鹿の角のような葉が無数に付いた枝は、どれもどこか人間の形のようで。まるで緑の巨人の集団が敬意でも示しているかのように、サワサワと優しく揺れている。
そして、その足下には黄色い水仙が咲き誇っていてと。なんだか、夜に楽しげに踊る小さな精霊たちの姿にも見える。
(あぁ・・・美しいな・・・)
所々に焚かれている松明の明かりもまた情緒を増させ、その幻想的な光景に魅入ってしまう。
そのまま高さのある石段を一段ずつ、長い外套を翻しながら。風格すら感じさせる足取りでアトラスが降りると、水が溢れ流れる大きな噴水へと向かって、草地の地面を歩み続ける。
美しい白石で作られた憩いの場に着くと静かに腰掛けた。
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