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13:スフィンクスの館と再生の泉と
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「もちろん、私の心を満たして下さるまで、何回でも挑戦して頂いても、または出直して、時間を取って考えて下さってもかまいません」
(ど、どうしよう・・・この際、時間をあえて設けた方がいいのか・・・)
スフィンクスの言葉に。二人で知恵を出し合えば、いい返答が思い付くかもしれない――そう考えた時、アトラスが口を開いた。
「その必要はない。オレが今、答えよう」
(えっ・・・)
驚きで見つめた視線の先で、青紫色の瞳が微笑んだ。
「妻は喉を痛めてる。よって、オレが応じる」
「えっ・・・でも・・・アトラス・・・だって・・・その・・・あの・・・」
自分とは違って。何か、既に考え浮かんでいることがあるのかと。だが、尋ねようとして遮られた。
「テセウス、それ以上、しゃべるな。お前の声を誰にも聞かせるな」
「んっ・・・ぁっ・・・」
発言するなとばかりに、素早く唇を重ねられて。驚愕する。まさか、スフィンクスの前でこんなことをするとは。
「その扇情的な声も、オレだけが知っていればいいことだ。いいな?」
いいなも何も。扇情的な声も何も。しゃがれてるだけじゃないか、誰かのせいで。睨みつけると、さらに笑みが深まった。
「では、お聞かせ下さい」
スフィンクスが楽しげに促し、アトラスが告げた。
「塩だ」
(えっ・・・)
「なぜ、塩なのでしょう?」
「入ってないと料理が味気なく不味くなるが、有り余るほどあっても、今度はしょっぱくて食べられたものじゃない。ないと困るが、有り余るほどあっても困る・・・だから、塩だ」
その内容に、そうか――と。思わず、感嘆した。屁理屈のように思えるが、有り余るほどという条件を付け加えれば、矛盾は生じない。
(なるほど・・・)
思いも寄らなかった発想で切り返したアトラスに感じ入る。と同時に、ふと違和感を覚えた。
(でも、塩って・・・なんか・・・)
どこかで聞いたことがあるようなその響きは。身に覚えのあるようなこの感覚は何なのか。だが、その疑問に意識を向けようとした途端に、スフィンクスが声を上げた。
「フフ・・・フフフ・・・実にいいですね。素晴らしい。とても満足しました」
パタパタと蛇の尾を振って、ピクピクと鼻先を動かして。スクッと身を起こすと、フワサッと翼を大きく広げた。
「アトラスさま、そして、奥方のテセウスさまを心より歓迎いたします」
すると、その言葉を合図にでもしたかのように。
ギィィイィィィ・・・・・・
と金色に光る、大きな扉が勢いよく左右に開いた。スタンッと、スフィンクスが地に降り立つ。
「どうぞ、お入り下さい。聖なる鏡の間まで、ご案内いたしましょう」
ヒュン、ヒュンッと尻尾をくねらして、三方向に分かれている通路の内の。左前方へと優雅に歩みだした異形に、アトラスが声をかけた。
「その前に・・・風呂を使いたい。あるか?」
(えっ・・・)
突然、何を言い出すかと思いきや。風呂だなんて。
間違いなく自分のためなのだろうが、意表を突く発言をした者を。その意図を確かめるようにじっと見つめる。
「これはこれは配慮が足りず、大変失礼いたしました。移動で、さぞかしお疲れでしょう。先に、客間にご案内します。どうぞ、こちらに」
スフィンクスがクルリと身体の向きを変え、大理石の床を右前方へと進み始めた。
(ど、どうしよう・・・この際、時間をあえて設けた方がいいのか・・・)
スフィンクスの言葉に。二人で知恵を出し合えば、いい返答が思い付くかもしれない――そう考えた時、アトラスが口を開いた。
「その必要はない。オレが今、答えよう」
(えっ・・・)
驚きで見つめた視線の先で、青紫色の瞳が微笑んだ。
「妻は喉を痛めてる。よって、オレが応じる」
「えっ・・・でも・・・アトラス・・・だって・・・その・・・あの・・・」
自分とは違って。何か、既に考え浮かんでいることがあるのかと。だが、尋ねようとして遮られた。
「テセウス、それ以上、しゃべるな。お前の声を誰にも聞かせるな」
「んっ・・・ぁっ・・・」
発言するなとばかりに、素早く唇を重ねられて。驚愕する。まさか、スフィンクスの前でこんなことをするとは。
「その扇情的な声も、オレだけが知っていればいいことだ。いいな?」
いいなも何も。扇情的な声も何も。しゃがれてるだけじゃないか、誰かのせいで。睨みつけると、さらに笑みが深まった。
「では、お聞かせ下さい」
スフィンクスが楽しげに促し、アトラスが告げた。
「塩だ」
(えっ・・・)
「なぜ、塩なのでしょう?」
「入ってないと料理が味気なく不味くなるが、有り余るほどあっても、今度はしょっぱくて食べられたものじゃない。ないと困るが、有り余るほどあっても困る・・・だから、塩だ」
その内容に、そうか――と。思わず、感嘆した。屁理屈のように思えるが、有り余るほどという条件を付け加えれば、矛盾は生じない。
(なるほど・・・)
思いも寄らなかった発想で切り返したアトラスに感じ入る。と同時に、ふと違和感を覚えた。
(でも、塩って・・・なんか・・・)
どこかで聞いたことがあるようなその響きは。身に覚えのあるようなこの感覚は何なのか。だが、その疑問に意識を向けようとした途端に、スフィンクスが声を上げた。
「フフ・・・フフフ・・・実にいいですね。素晴らしい。とても満足しました」
パタパタと蛇の尾を振って、ピクピクと鼻先を動かして。スクッと身を起こすと、フワサッと翼を大きく広げた。
「アトラスさま、そして、奥方のテセウスさまを心より歓迎いたします」
すると、その言葉を合図にでもしたかのように。
ギィィイィィィ・・・・・・
と金色に光る、大きな扉が勢いよく左右に開いた。スタンッと、スフィンクスが地に降り立つ。
「どうぞ、お入り下さい。聖なる鏡の間まで、ご案内いたしましょう」
ヒュン、ヒュンッと尻尾をくねらして、三方向に分かれている通路の内の。左前方へと優雅に歩みだした異形に、アトラスが声をかけた。
「その前に・・・風呂を使いたい。あるか?」
(えっ・・・)
突然、何を言い出すかと思いきや。風呂だなんて。
間違いなく自分のためなのだろうが、意表を突く発言をした者を。その意図を確かめるようにじっと見つめる。
「これはこれは配慮が足りず、大変失礼いたしました。移動で、さぞかしお疲れでしょう。先に、客間にご案内します。どうぞ、こちらに」
スフィンクスがクルリと身体の向きを変え、大理石の床を右前方へと進み始めた。
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