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1章:恋に落ちちゃいました~呪われたオメガの王カール・オージー・サンデス・メイ・ジセイカ~
心の中はくっそ~の嵐
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そうだ、だから体裁なんてどうでもいいじゃないか、今すぐ飛び出せと囁く声と。
待て、ダメだ、相手はカエルなんだぞ、少し冷静になれと反論する声と。
いや、もうこれほどまでの昂ぶり、どう考えたって運命の番だろとさらに返す声と。
なにを言ってるんだよ、番だったとしても絶対王者としての品位を損なうわけにはいかないだろとまた返す声とで。
もはや自分の中でも訳のわからない、独り激しく壁打ちでもしているかのようなラリー状態が続く。
最後の行進者が一番端の位置、地面に置かれた椅子の横になぜかちょこんと膝抱え座りをしたところで行進曲が止み、アナウンスが流れた。
「さぁ、皆さん。
これより本日の参加者五十五組による、ゴーゴー自分自慢大会となりまーす」
ドシラソ・ドシラソ・ドミレと楽しげな打楽器の音が流れ、ワァーと歓声が続く。
「いいですねぇ、この賑やかさ。
みなさま出身地を背負ってのご参加となります。
ですので陛下に向けて、ご自身の持ち味を思う存分、悔いのないように売りこんで下さいねー」
といつもの流れで総合司会者が鐘を叩く専用のハンマーを手に現れる。
その姿を目にしながら、
「宰相…あの者の入場を最後に持ってきたのは正しかったと思う。
だが、この際だ、自画自賛タイムは順番を一番にした方がいいのでは。
皆が集中できないだろう…いつもよりざわついているように感じるが」
と平静を装いながら口にする。
もちろん、ざわついているのは他でもない自分内だ。
一人の持ち時間がおよそ一分で、五十五番目となると最低でも五十四分はかかるわけで。
いや司会者からの紹介や引き継ぎの間を入れるとどう考えたって二時間は優にいつも越えているわけで。
こんなざわついた状態で一体誰がそんなに待てるかと。
秘かに鼻息を荒くする。
けれども、
「陛下、ご心配は要りません。
彼があの姿で実は生身であるということは私を含め、ごく一部の関係者しか把握しておりません。
他の者からすれば、王が仮装を好まないことを知らずに着ぐるみで出場した田舎者だとしか映っていないでしょう」
と返された。
彼…そうか、彼なのかと認識を深めながら、
「なるほど、その言葉はつまり彼はいま嘲笑に晒されているという意味か。
だったらなおさら考慮して、自賛タイムを早々に終わらせ、控え室かどこかに案内してやるべきなのでは」
とこちらも突き返す。
控え室どころか大至急この横に来てもらいたいのだがと思いながら。
すると、
「陛下、お言葉ですが既に自分自慢大会は始まっております。
この後突然、順番を変えることで周囲に与える印象がよいとも思えません。
それに他の者が自分の順番を意識してモチベーションを保っていることも踏まえますと、このまま予定通りがよろしいかと」
と見事に切り替えされた。
ごもっともだ。
さすがは古ダヌキとも古ギツネとも謳われるだけある。
一筋縄ではいかない。
確かに一人の者が優遇されることであからさまなしわ寄せが発生してはならないのだ。
君主たる者、いつだって万人に平等であれ精神だ。
「なるほど…では予定通りに」
と短く返事し、寛容さと聡明さを見せつける。
だが、心の中はくっそ~の嵐だ。
それはわかる、それはわかるんだよ。
徹底的に帝王学を叩きこまれている身なのだから、わかるものはわかる。
けれども、そうではないのだ。
(最速で親しくなりたい…)
今や彼のことしか考えられない。
待て、ダメだ、相手はカエルなんだぞ、少し冷静になれと反論する声と。
いや、もうこれほどまでの昂ぶり、どう考えたって運命の番だろとさらに返す声と。
なにを言ってるんだよ、番だったとしても絶対王者としての品位を損なうわけにはいかないだろとまた返す声とで。
もはや自分の中でも訳のわからない、独り激しく壁打ちでもしているかのようなラリー状態が続く。
最後の行進者が一番端の位置、地面に置かれた椅子の横になぜかちょこんと膝抱え座りをしたところで行進曲が止み、アナウンスが流れた。
「さぁ、皆さん。
これより本日の参加者五十五組による、ゴーゴー自分自慢大会となりまーす」
ドシラソ・ドシラソ・ドミレと楽しげな打楽器の音が流れ、ワァーと歓声が続く。
「いいですねぇ、この賑やかさ。
みなさま出身地を背負ってのご参加となります。
ですので陛下に向けて、ご自身の持ち味を思う存分、悔いのないように売りこんで下さいねー」
といつもの流れで総合司会者が鐘を叩く専用のハンマーを手に現れる。
その姿を目にしながら、
「宰相…あの者の入場を最後に持ってきたのは正しかったと思う。
だが、この際だ、自画自賛タイムは順番を一番にした方がいいのでは。
皆が集中できないだろう…いつもよりざわついているように感じるが」
と平静を装いながら口にする。
もちろん、ざわついているのは他でもない自分内だ。
一人の持ち時間がおよそ一分で、五十五番目となると最低でも五十四分はかかるわけで。
いや司会者からの紹介や引き継ぎの間を入れるとどう考えたって二時間は優にいつも越えているわけで。
こんなざわついた状態で一体誰がそんなに待てるかと。
秘かに鼻息を荒くする。
けれども、
「陛下、ご心配は要りません。
彼があの姿で実は生身であるということは私を含め、ごく一部の関係者しか把握しておりません。
他の者からすれば、王が仮装を好まないことを知らずに着ぐるみで出場した田舎者だとしか映っていないでしょう」
と返された。
彼…そうか、彼なのかと認識を深めながら、
「なるほど、その言葉はつまり彼はいま嘲笑に晒されているという意味か。
だったらなおさら考慮して、自賛タイムを早々に終わらせ、控え室かどこかに案内してやるべきなのでは」
とこちらも突き返す。
控え室どころか大至急この横に来てもらいたいのだがと思いながら。
すると、
「陛下、お言葉ですが既に自分自慢大会は始まっております。
この後突然、順番を変えることで周囲に与える印象がよいとも思えません。
それに他の者が自分の順番を意識してモチベーションを保っていることも踏まえますと、このまま予定通りがよろしいかと」
と見事に切り替えされた。
ごもっともだ。
さすがは古ダヌキとも古ギツネとも謳われるだけある。
一筋縄ではいかない。
確かに一人の者が優遇されることであからさまなしわ寄せが発生してはならないのだ。
君主たる者、いつだって万人に平等であれ精神だ。
「なるほど…では予定通りに」
と短く返事し、寛容さと聡明さを見せつける。
だが、心の中はくっそ~の嵐だ。
それはわかる、それはわかるんだよ。
徹底的に帝王学を叩きこまれている身なのだから、わかるものはわかる。
けれども、そうではないのだ。
(最速で親しくなりたい…)
今や彼のことしか考えられない。
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