呪われたオメガの王さまとカエルの王さま

1章：恋に落ちちゃいました～呪われたオメガの王カール・オージー・サンデス・メイ・ジセイカ～

黒の稲妻騎士団

「すぐさま水底も周辺も探したのですが、どこにもお姿がなく…今の今まであちらこちら離宮内も川沿いも森周辺も大勢で捜索したのですが…それこそ本当に痕跡一つ何もなく…ご報告が遅れまして、誠に申し訳ございませんでした！！」

（どういうことだ…）

　何が一体起きたのか。
　事故か事件か、自発的にか。
　いや、散歩に行くとわざわざ書き置きをしたのだ。
　戻ってくる気はあったのだ。
　だとするならば――

「黒の稲妻騎士団ブラックサンダーっ！！」

　叫けんだ途端にドォォンッと爆音が轟いた。
　うわぁっと全員が地面の上で跳ね上がる。

「はっ、お側に」

　どこからともなくズォンと一陣の突風が巻き上がるや否や、ザッと全身黒ずくめの岩のように大きな甲冑姿が目の前に跪いた。

　世界各国から引き抜いた名うての凄腕集団、王直属の精鋭部隊の長おさだ。
　漆黒の胸部と外套マントに鋭い雷光の紋章を入れている。

「ザーバスをすぐに用意しろ。
　事件に巻きこまれた可能性が高い。
　ヘケロを探しに行く」

「はっ、ですが、アポロでなくてよろしいでしょうか。
　ザーバスだとやや小回りが」

「アポロか…」

　確かにまずは馬の方がいいかと思いあぐねたその時――

「いけませーーんっ！！」

　とつんざくような叫び声が響き渡った。

「陛下、なりませんぞっ！！」

「宰相、どういうことだ…」

　よもや制止されるとは。
　ムッとしながら聞き返す。

「客人とはいえ行方不明者探しなど王自らがすることではございません。
　そのようなことは斥候せっこうに任せておけばいいのです。
　そのための部隊なのですから」

　侍従長兼宰相歴六十年以上の老人がチラリと冷ややかな目で騎士団長を見下ろす。
　自分直属の部下でないとどうも態度が高飛車たかびしゃになる。
　しかもどうやら日頃から敵対心を抱いているようだ
　実によくない傾向だ。
　それなので、

「ただの客人ではない。
　ヘケロは我の想い人だ」

　と高々と宣告してやった。
　ざわっとどよめきが一斉に沸き起こった。

「我はヘケロを気に入っている」

　とややおいて付け加えたが、番つがいにするという言及はあえて避けた。
　本人と意思の疎通がない時点で告知するのはいささか早計だろう。
　ヘケロにも失礼にあたる。

「なんと、陛下…」

「ゆえに、我はこの手でヘケロを救出しに行く」

　そうだ、散歩のつもりで外に出た者がまだ見つからないのだ。
　事故であったのなら流されているなり、なんなりですぐさま発見されるはずだ。
　何かしらの陰謀があったに違いない。
　聡明な頭脳で感じ取るのはそこはかとない悪意だ。
　おそらくは自分自慢大会でのヘケロの勇姿に悪巧みを思い付いたのだろう。
　一体何者なのか、実に腹立たしい。

「アポロを今すぐ連れてこい」

「はっ」

「だったら、なおさらダメでーーす！！」

　と老体になおも食いつかれた。

「君主たる者、玉座にてお待ちくださいませ！！」

「いや、だからなぜだ、我は自分で行きたいのだ」

「えぇ、でも君主ですから！！」

　でたよ、でた。
　お得意の理に適っているようで全く適っていない返答が。
　よし、こうなったら徹底的に論戦しようじゃないかと火がついた。

「事あるごとに君主ですから、君主ですからと…我を一体なんだと思っているのだ！！
　王だって人間なのだ、わかっているのか！！」

「王は人間ではありません！！」

「では、なんなのだ！！」

「超人です！！」

　とその一点の曇りなき即答に不意打ちを食らった。さらに――

「ご覧下さい！！」