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3章:捕まっちゃいました~呪われたオメガの王さまmeetsカエルの王さま~
おいで
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(寝る…とするか…)
告げられた言葉を胸の内でひっそりと繰り返す。
同時に自身の姿も振り返った。
今日は疾風迅雷のごとく勢いで新設された浴室を使って、既に各々が陶器でできた風呂には入浴済みだ。
『ヘケロが浴室で倒れてはいけないから先に入ってくれ』
と告げられて、平身低頭で遠慮したものの『オレの後だと問題が発生する可能性が高い』と押し切られた。
どういう問題が発生するのか――よくは理解できなかったものの、あろうことか貴人より泥がついた自分が一番風呂だなんてと。
バシャバシャと湯をかけて流すだけで終えたら『やはり明日は一緒に入るか』と大いなる問題発言を呟かれた。
そんなちょっと困ってしまう王さまは洒落た室内着を羽織っていて。
かたや自分は貴族の子供か女性が身に着けるような白い寝間着だ。
その手首を軽く絞る程度にしか縛りのない、ふわっと空気で柔らかく膨らむ衣服は。
長く広がる裾もフリルが付いた袖も実にゆったりとしていて、おとぎ話に出てくるお姫様のようだ。
正直なところ全く似合っていない。
それはそれはものすごく似合っていない。
どこからどう見ても何度見ても、おそろしいほどに似合っていない。
それもそのはず正真正銘のカエルもどきなのだから。
似合うはずがない。
だから本当はいつもの簡易な服がよかったのだ。
けれども風呂上がりにはこれをとせっかく用意してくれたことを思うと着るしかなかった。
だが――
『ん、ヘケロ、とてもかわいいよ』
と金色の瞳をキラキラと輝かせた王さまに褒められて。
あぁ、すべからく何事をも超越している王さまの唯一の欠点はその美的センスなのではないだろうかと。
そう思わされながらも自分もなんだかまんざらでもなくて、それがまた妙に恥ずかしかったのだ。
「おいで」
「あ、あのあのあの……ケロ」
微笑む瞳と優雅な手のひらで誘われているのは王宮に置かれているような壮麗な寝具だ。
天蓋から四隅の柱へと上品で透けた薄布が流星の尾のように優美に垂れ下がり、ゆるく括りつけられている。
けれども朝までは台の形に盛り上がった土の上に藁が盛られ、その上に厚い敷布が掛けられていただけの状態だったのに。
一日中ずっと土に触れている必要がない旨を告げると品質が一足飛びに向上した。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だ。
今日は添い寝をするだけだから」
(今日は…添い寝をする…だけ…)
美声で囁かれた言葉はすぐさま疑問を提示する。
つまり今日を過ぎたら、その後はどうなるのだろうか。
添い寝ではなくなるとも聞こえるが、とういうことは――
(いや、それはない…それはさすがに…)
浮かび上がりそうになった可能性を頭を振って却下していると肩を優しい腕に包みこまれた。
穏やかに誘導される形でドギマギとしながら寝台へと腰掛けた。
「あのあのあの…ぼ、ぼ、ぼくは床に…あっ…ケロ」
そのまま当たり前のように両脇と両膝を抱きかかえられてしっかりとベッドの上へと寝かされる。
スルリと靴を脱がされた。
(ど、どうしよう…)
バクバク、バクバクッと心臓がせり上がってどうにかなりそうだ。
こんなカエルもどきの身でなんだかとんでもない展開になっている。
あまりの恐れ多さに、このままピョーンと跳ねて逃げ出したいくらいなのに、そのくせどこか嬉しい。
今朝早くに目覚めた時に人肌が温かくてとても嬉しかったのだ。
また一緒に寝たいという気持ちが根底にあることは否定できない。
けれども果たして、許されることなのだろうか。
カエル人間なのに。
咄嗟に反対側を向いて身を丸くするとパサリと幕が降ろされて、ギシッと相手が隣に横たわった。
告げられた言葉を胸の内でひっそりと繰り返す。
同時に自身の姿も振り返った。
今日は疾風迅雷のごとく勢いで新設された浴室を使って、既に各々が陶器でできた風呂には入浴済みだ。
『ヘケロが浴室で倒れてはいけないから先に入ってくれ』
と告げられて、平身低頭で遠慮したものの『オレの後だと問題が発生する可能性が高い』と押し切られた。
どういう問題が発生するのか――よくは理解できなかったものの、あろうことか貴人より泥がついた自分が一番風呂だなんてと。
バシャバシャと湯をかけて流すだけで終えたら『やはり明日は一緒に入るか』と大いなる問題発言を呟かれた。
そんなちょっと困ってしまう王さまは洒落た室内着を羽織っていて。
かたや自分は貴族の子供か女性が身に着けるような白い寝間着だ。
その手首を軽く絞る程度にしか縛りのない、ふわっと空気で柔らかく膨らむ衣服は。
長く広がる裾もフリルが付いた袖も実にゆったりとしていて、おとぎ話に出てくるお姫様のようだ。
正直なところ全く似合っていない。
それはそれはものすごく似合っていない。
どこからどう見ても何度見ても、おそろしいほどに似合っていない。
それもそのはず正真正銘のカエルもどきなのだから。
似合うはずがない。
だから本当はいつもの簡易な服がよかったのだ。
けれども風呂上がりにはこれをとせっかく用意してくれたことを思うと着るしかなかった。
だが――
『ん、ヘケロ、とてもかわいいよ』
と金色の瞳をキラキラと輝かせた王さまに褒められて。
あぁ、すべからく何事をも超越している王さまの唯一の欠点はその美的センスなのではないだろうかと。
そう思わされながらも自分もなんだかまんざらでもなくて、それがまた妙に恥ずかしかったのだ。
「おいで」
「あ、あのあのあの……ケロ」
微笑む瞳と優雅な手のひらで誘われているのは王宮に置かれているような壮麗な寝具だ。
天蓋から四隅の柱へと上品で透けた薄布が流星の尾のように優美に垂れ下がり、ゆるく括りつけられている。
けれども朝までは台の形に盛り上がった土の上に藁が盛られ、その上に厚い敷布が掛けられていただけの状態だったのに。
一日中ずっと土に触れている必要がない旨を告げると品質が一足飛びに向上した。
「そんなに緊張しなくて大丈夫だ。
今日は添い寝をするだけだから」
(今日は…添い寝をする…だけ…)
美声で囁かれた言葉はすぐさま疑問を提示する。
つまり今日を過ぎたら、その後はどうなるのだろうか。
添い寝ではなくなるとも聞こえるが、とういうことは――
(いや、それはない…それはさすがに…)
浮かび上がりそうになった可能性を頭を振って却下していると肩を優しい腕に包みこまれた。
穏やかに誘導される形でドギマギとしながら寝台へと腰掛けた。
「あのあのあの…ぼ、ぼ、ぼくは床に…あっ…ケロ」
そのまま当たり前のように両脇と両膝を抱きかかえられてしっかりとベッドの上へと寝かされる。
スルリと靴を脱がされた。
(ど、どうしよう…)
バクバク、バクバクッと心臓がせり上がってどうにかなりそうだ。
こんなカエルもどきの身でなんだかとんでもない展開になっている。
あまりの恐れ多さに、このままピョーンと跳ねて逃げ出したいくらいなのに、そのくせどこか嬉しい。
今朝早くに目覚めた時に人肌が温かくてとても嬉しかったのだ。
また一緒に寝たいという気持ちが根底にあることは否定できない。
けれども果たして、許されることなのだろうか。
カエル人間なのに。
咄嗟に反対側を向いて身を丸くするとパサリと幕が降ろされて、ギシッと相手が隣に横たわった。
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