呪われたオメガの王さまとカエルの王さま

4章：返り咲いちゃいました～そしてカエルは王妃に～

ヤバいな

（なんて美しいんだ…）

　しゃくりあげて泣いている姿は自分自慢大会で見た時と同じようにうっすらと黄緑色の光を放っている。
　やはり魂の輝きだったのだ。
　全身が二重に見えるといった疲れ目現象ではなかったのだ。
　内面が美しい存在なのだ。

（幸せにしてやりたい…）

　幸福感を得るのは自分だけでなくて相手もだ。
　相手も満たされていなければ意味はない。

（もちろん人間にも戻りたい…か…）

　そう願う気持ちは当然だろう。
　元人間だった身がカエルのぬいぐるみのままで生涯を終えるなんて耐えられないはずだ。
　それを昔の自分の外見は王さまが好きじゃないだろうから、このままでいいだなんて。

（ヤバいな…）

　愛おしさ爆裂だ。
　気合いを入れていないと漏れなく前屈みでアタタ、アタ…と己の張り具合に悶絶しそうだ。
　けれども、そんな内情とは裏腹に、

「視えた…大丈夫だ、ヘケロ」

　と清涼感すら漂わせる声音で話しかけた。
　そう、あてずっぽうなのに百発百中とは実によく言ったもので。
　自分が目にしていた青い瞳のヘケロはまさに予知、未来像だったのだ。
　確信する。

「ヘケロ、オレの望む未来とヘケロの望む未来は完璧なまでに一致している。
　心配はいらない」

　この際、下腹部におけるただいまの充血度合いについては思いっきり棚に上げて。
　最愛の存在の顔を両手で包み、大きな目に溢れる涙をチュッチュッと唇で舐め取った。

「もう泣くな。
　ヘケロが泣いているとオレも…」

　非常に困った状態になってしまうのでと心の中で続きを告げる。
　本当ならばこのまま抱き潰したいけれども、愛されると元の姿に戻ってしまうという不安をまずは払拭してやらねばならない。

「ヘケロの願いとオレの願いを同時に叶える…簡単なことだ」

「えっ……ケロ」

　パチパチと瞬きをしているカエル姿に微笑んだ。

「ヘケロはこのまま寝てていい」

　ポンポンと背中を優しく叩いて。
　スルリと寝具から降り立って歩き始めると「ど、どこに行くのですか…ケロ」と慌ててついてくる。
　瞳を細めながら立ち止まり、追いついた小さな肩を抱くとギィッと戸を押し開けた。

「ジーン、来い！！」

　夜のとばりで覆われた暗い空間に向かって叫ぶと、前方のワサワサと揺れる木々の黒い影から「カァーーッ」と応じるように烏の鳴き声が響いた。

　バッサ、バッサと大きな鳥が暗闇の中を迷いなくまっすぐと飛んでくる。
　目の前の地面に降下すると片翼を胸の前で曲げ、片翼を横に伸ばす体勢でペコリと頭を下げた。

「イーソと繋がれ、ユラークと話がしたい」

「カァーーッ」

　主あるじの命令を受けた大烏がカッと瞳を深紅に輝かせる。
　ジーコロ、ジーコロと機械的な音を発した。

「速さが一番、品質は二番
　いつものおやつはしっかり食べよう
　速さが一番、品質は二番
　いつものおやつはしっかり食べよう」

　そのまま喉の辺りから流れてきた歌にビクッと腕の中の存在が身を震わせる。
　おそるおそる尋ねてきた。

「お、王さま…な、なんですか、こ、これは…ケロ」

「あぁ、怖がらなくていい。
　一見すると烏だが魔道具の一種だ」

「ま、魔道具…なのですか…ケロ」

「ん、例のアレだ、アレ」

「アレ…ですか…ケロ」

「ん、誕生時に祝福と称して国内外から非公式を入れて８０１個の魅力チャームをもらったが、その際にもはや出尽くしたと悟った出遅れ魔術師たちが、では魔道具にしますと切り替えた結果、ザーバスを始め、いくつか受け取っている」

　黒いつぶらな瞳がパチパチと瞬いた。

「そ、そうだったのですか…怪鳥も魔道具だったのですか…す、すごいですね…ケロ」

　何かを思い起こしているかのような様子を目にしながら付け加えた。