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4章:返り咲いちゃいました~そしてカエルは王妃に~

身も心も愛し合いたいよ

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「そうだ、よくできているだろう?
 それにしても今日は少し時間がかかっているな」

「速さが一番、品質は二番
 いつものおやつはしっかり食べよう
 速さが一番、品質は二番
 いつものおやつはしっかり食べよう」

 じっと考え深げに凝視しているカエル姿の前で待機時に流れる音楽が長々と続く。
 しばらくしてガチャッという音とともに、

「も、申し訳ございません、大変遅くなりました」

 と烏のくちばしから焦っているような男の声がした。
 ユラークだ。

「悪かったな、お楽しみの最中に」

「ゴホッ…と、とんでもございません。
 ま、誠に申し訳ございませんでした」

「くすぶっている相手を待たせてはいけないからな、手短に告げる」

「ガホッ…は、はい」

 激しく動揺している相手にやはりそうか、心底ねたましいぞと思いながらも淡々と伝える。

「団を三班に分けて、一つはそのまま橋の改修を継続してくれ。
 もう一班は至急イソップドゥ・ワーを見つけて連れてこい。
 王宮の懐中時計の増産から解放されて、どうせお気に入りの男娼宿あたりをほっつき歩いているだろう。
 できるだけ早くだ」

「はっ、かしこまりました」

「残りの一班については追って連絡をする。
 即座に動けるようにしておいてくれ」

「はっ」

 そう、ここで言うわけにはいかない。
 なぜなら、やらせたいのは聖地オカッシーに続く巡礼街道への聞きこみだからだ。
 モリーナ・ガ王国というよりはブルルボン小国という響きの方が妙に気になる。
 ブルルボン小国周辺を中心にカエルの目撃談をしらみつぶしであたらせれば、おそらくヘケロの前身は判明するだろう。

(ヘケロになにをしてくれたのか…)

 気になるのは『利用されそうになったり、追い払われたり、襲われたり、からかわれたり、いじめられたり』と先ほど口にした言葉だ。

 外道が非道な行為をしていたとするならば、四年以上前であろうと許さない。
 どんな罰を与えてやろうか。
 だが、ヘケロの前で追跡を命じるわけにもいかない。
 身元を知られたくないと怯えているのだから。
 秘密裏に探らせる必要がある。

「以上だ、頼んだぞ」

「御意」

「続きを念入りにして終わらせたら、すぐに着手してくれ」

「ゲホッ…た、直ちに取り組みます」

「いや、別にかまわないぞ、事後でも。
 さすがに三日三晩もやることはないだろうしな」

「そ、そんな…め、滅相もございません」

 自分はできなかったというのによろしくやっていたのだ。
 くっそ~と。
 このままチクチクと言葉攻めしてやろうかと半眼になる。
 だが、じっと見上げる視線に気が付き、コホンと咳払いした。

「あ、それから…明日の午後、橋の進捗状況を確認しにそちらに向かう」

「かしこまりました」

「では明日」

「はっ」

「よし、ジーン、切れ」

「カァーーッ」

 ブツッ、ツーッ、ツーッという音と同時に烏の目が黒く戻った。

「うらましい限りだよなぁ」

「ど、どういう意味ですか…ケロ」

 ついポロリと出てしまった本音をカエル姿が首を傾げて不思議そうに見つめてくる。

「あっ!! …ケロ」

 そのあまりの愛らしさに思わず両腕に軽々と抱き上げた。
 中に戻ると寝具の上へと降ろす。

「早く身も心も愛し合いたいよ、ヘケロ」

「あああのあのあの…そそそのそのその…でででもでもでも、あああのあのあの…カカカエル…です…ケロ」

(ま、そうなんだけどね)

 寝間着の中に手をしのばせて、サワサワと触りながら心の中で応じる。
 こちらとしてはこの状態でも問題なく愛せそうだというのに、なんたる苦行か。
 甘噛みさえ許されないのだ。
 それならばせめてとばかりにキスの嵐を降らせる。

「あっ、あっ…そ、そんな…あっ…んっ…ケロ」

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