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4章:返り咲いちゃいました~そしてカエルは王妃に~
いよいよ愛し合う
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「あ、あの、あの…お、王さま…ぼ、ぼく、ぼく……ケロ」
「ん? どうした?」
「あっ…ケロ」
小刻みに震えている小さな肩を柔らかく撫で上げて応じれば、ビクッと相手が身じろいだ。
場所は天蓋が付いた寝具の上で。
上品な垂れ幕で囲まれたこの二人の愛の巣で、いよいよ愛し合うのだ。
「ぼ、ぼく…ほ、本当に…だ、大丈夫か…じ、自信がありません…ケロ」
「大魔術師イソップドゥ・ワーの力は絶大だ。
なにも心配はいらない」
「で、でも…も、もし…お、王さまの…す、好きな姿じゃなかったら…ぼ、ぼくは…ぼくは…ケロ」
そんなことは耐えられないとばかりに大きな漆黒の瞳が揺れている。
「大丈夫だ、ヘケロ。
ちゃんと相談にのってもらったのだろう?」
ふっくらと丸い頬を両手で包みこんでチュッチュッと口づけながら尋ねた。
そう、残念なことに我が身はその場に居合わせていないのだ。
どんな呪いをかけられて、どんな形で上書きするか。
実に老魔術師イソップドゥ・ワーの腕の見せ所だが、呪いを解く役目を担った側としてはその聞き取りと実施の現場には立ち会えない。
事前に知ってしまうことで弊害が出てはならないからだ。
「は、はい…で、でも…き、きちんと伝わっているかどうか…ケロ」
「祝福ですノートというふざけた名前の魔術本をペラペラと大げさに開いて、それこそ古代文明文字なんだか糸くずの絵文字なんだかよくわからない文字を、これまた無駄に大きい羽根の付いたペンでサラサラと書いてくれたのではないのか?」
憂いを減らすためにも軽い口調で話しかける。
「そ、そうなんですが…そ、それがその…あ、あの…ケロ」
「ん? どうした?」
「な、何回か…おそらく下書きだとは思うのですが…よしよし、これだろうな…おほ? いやいや違う、こっちだった…おほ? 待て待て、こっちだよなぁ…おほ? と言いながら…書いては直していました…ケロ」
「……」
そうだったのか。
あの色ボケ魔術師、そんなことで大丈夫か、本当に。
目の前でそういった態度を取られたら誰だって不安にもなるだろう。
正直やや高齢もあって、もうろくが入っていることも否めない。
だがしかし、ここで中止するわけにもいかない。
「大丈夫だ。
仮に不備があったとしてもオレが補う」
と断言した矢先にそうだ、そうだったと自身でも認識を深めた。
なんていったって801の魅力を背負って生きてきたのだ。
この身の異様なまでの異能さを舐めてはいけない。
その能力をここで活用しなくていつ使う、今だろ、今と秘かに闘志を燃やす。
目指すのは見切り発車でも完全勝利だ。
必ず勝ち取ってみせる。
「ヘケロ、さぁ始めよう」
「は、はい…ケロ」
右手を持ち上げるとチロッと赤い舌先を出してまずは舐める。
ボンッと相手の頬が赤くなったところでカプッと歯をあてた。
「ンッ!!…ケロ」
艶めいた声が上がったその刹那、ぼわんっと。
黄緑色の煙が辺り一面に吹き出した。
モクモクとした噴煙に視野が奪われる。
しばらくして煙が薄れると見えてきた光景にアッとヘケロが声を上げた。
「か、変わってないです…ケロ」
目の前にあるのは吸盤の付いたままの手だ。
「ど、どうして…ケロ」
激しく動揺している相手に「ん、大丈夫だ」と告げて指先を引っ張る。
するとスルリと手袋が外れるようにして。
前回と同じ大きさの人の手が中から現れた。
「あっ…ケロ」
「問題なく人間になっている」
だが「は、はい…で、でも、でも…ケロ」と手の持ち主がすぐさま戸惑う様子を見せた。
「この間は腕全体でしたが…て、手先だけです…ケロ」
と続けられた。
そうだなと返事をする。
変化したのは手首から先だけであって腕全体はカエルのぬいぐるみのままだ。
「ん? どうした?」
「あっ…ケロ」
小刻みに震えている小さな肩を柔らかく撫で上げて応じれば、ビクッと相手が身じろいだ。
場所は天蓋が付いた寝具の上で。
上品な垂れ幕で囲まれたこの二人の愛の巣で、いよいよ愛し合うのだ。
「ぼ、ぼく…ほ、本当に…だ、大丈夫か…じ、自信がありません…ケロ」
「大魔術師イソップドゥ・ワーの力は絶大だ。
なにも心配はいらない」
「で、でも…も、もし…お、王さまの…す、好きな姿じゃなかったら…ぼ、ぼくは…ぼくは…ケロ」
そんなことは耐えられないとばかりに大きな漆黒の瞳が揺れている。
「大丈夫だ、ヘケロ。
ちゃんと相談にのってもらったのだろう?」
ふっくらと丸い頬を両手で包みこんでチュッチュッと口づけながら尋ねた。
そう、残念なことに我が身はその場に居合わせていないのだ。
どんな呪いをかけられて、どんな形で上書きするか。
実に老魔術師イソップドゥ・ワーの腕の見せ所だが、呪いを解く役目を担った側としてはその聞き取りと実施の現場には立ち会えない。
事前に知ってしまうことで弊害が出てはならないからだ。
「は、はい…で、でも…き、きちんと伝わっているかどうか…ケロ」
「祝福ですノートというふざけた名前の魔術本をペラペラと大げさに開いて、それこそ古代文明文字なんだか糸くずの絵文字なんだかよくわからない文字を、これまた無駄に大きい羽根の付いたペンでサラサラと書いてくれたのではないのか?」
憂いを減らすためにも軽い口調で話しかける。
「そ、そうなんですが…そ、それがその…あ、あの…ケロ」
「ん? どうした?」
「な、何回か…おそらく下書きだとは思うのですが…よしよし、これだろうな…おほ? いやいや違う、こっちだった…おほ? 待て待て、こっちだよなぁ…おほ? と言いながら…書いては直していました…ケロ」
「……」
そうだったのか。
あの色ボケ魔術師、そんなことで大丈夫か、本当に。
目の前でそういった態度を取られたら誰だって不安にもなるだろう。
正直やや高齢もあって、もうろくが入っていることも否めない。
だがしかし、ここで中止するわけにもいかない。
「大丈夫だ。
仮に不備があったとしてもオレが補う」
と断言した矢先にそうだ、そうだったと自身でも認識を深めた。
なんていったって801の魅力を背負って生きてきたのだ。
この身の異様なまでの異能さを舐めてはいけない。
その能力をここで活用しなくていつ使う、今だろ、今と秘かに闘志を燃やす。
目指すのは見切り発車でも完全勝利だ。
必ず勝ち取ってみせる。
「ヘケロ、さぁ始めよう」
「は、はい…ケロ」
右手を持ち上げるとチロッと赤い舌先を出してまずは舐める。
ボンッと相手の頬が赤くなったところでカプッと歯をあてた。
「ンッ!!…ケロ」
艶めいた声が上がったその刹那、ぼわんっと。
黄緑色の煙が辺り一面に吹き出した。
モクモクとした噴煙に視野が奪われる。
しばらくして煙が薄れると見えてきた光景にアッとヘケロが声を上げた。
「か、変わってないです…ケロ」
目の前にあるのは吸盤の付いたままの手だ。
「ど、どうして…ケロ」
激しく動揺している相手に「ん、大丈夫だ」と告げて指先を引っ張る。
するとスルリと手袋が外れるようにして。
前回と同じ大きさの人の手が中から現れた。
「あっ…ケロ」
「問題なく人間になっている」
だが「は、はい…で、でも、でも…ケロ」と手の持ち主がすぐさま戸惑う様子を見せた。
「この間は腕全体でしたが…て、手先だけです…ケロ」
と続けられた。
そうだなと返事をする。
変化したのは手首から先だけであって腕全体はカエルのぬいぐるみのままだ。
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