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4章:返り咲いちゃいました~そしてカエルは王妃に~
したいはずだ、従え
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「手先しか変わってない…です…ケロ」
途端にカエル姿がうなだれて。
その今にも泣き出しそうな相手の手のひらに唇を付けることで応えた。
「大丈夫だ、ヘケロ。
狼狽える必要など一切ない」
前の時と違いはあるが、だからといって人間化するにあたって噛み方が足りなかったようにも何かしらの不具合が生じたようにも思えない。
動揺に値しないだろうと微笑んだ。
「左手も試してみよう」
「は、はい…ケロ」
手を持ち上げて歯をあてる。
とあえて先ほどよりやや強く噛んだ。
「ンッ!!…ケロ」
愛らしい声とともにぼわんっとまたもや煙が広がった。
薄れると同時にまた同じように吸盤の付いた手が現れる。
先を引っ張るとスルリと今度もまた手袋が外れるように人間の手が現れた。
「よし、左手も変わった」
「は、はい、あ、ありがとうございます…で、でも、でも…ケロ」
「ん、こちらも手のひらだけだな」
と相手が気にしている点を先に口にした。
「は、はい…だ、大丈夫なのでしょうか…ケロ」
「ヘケロ、心配するな、全く問題ない」
不安で揺れに揺れている瞳に笑顔で応じる。
「で、ですが……ケロ」
「むしろオレは前回よりもいい手応えを感じている」
「えっ…ケロ」
「イソップドゥ・ワーがなにかしら仕掛けているのだろう。
そんな気がする。
だから大丈夫だ」
この言葉は気休めでもはったりでもなくて。
なぜだかはわからないが、よい兆しだと強く思えるのだ。
おそらくは虫の知らせがハンパないか、第六感が猛烈以上か、あてずっぽうなのに百発百中の魅力のいずれかの力が働きかけてきているのだろう。
それか100万直感かだ。
「新しいヘケロに生まれ変わる。
オレが望む形で、そしてヘケロも望む形で。
ちゃんと成し遂げてみせるから心配するな」
「は、はい、あ、ありがとうございます…ど、どうぞ、よろしくお願いします…ケロ」
ずんぐりむっくりとした頭がペコリとお辞儀をした。
とてつもなくかわいいと思わず目尻が下がる。
「よし、このまま足にいこう」
「は、はい…ケロ」
同意を得るとハラリと布をたくし上げてその脚を露わにした。
既に先に風呂には入らせ、肉体が変貌することを前提に服ではなく大判な綿布を胴体に巻かせてもいる。
もちろん肌着は穿かせていない。
「足と胴と続けていくぞ」
こういう場合は一気に決める。
微妙な境界線を維持したままの、ここからここはカエルのぬいぐるみで、ここからここは人間です――なんて姿は目にしたところで複雑な気持ちが増すだけなのだから。
足首を両手で掴んだ。
グッと押して膝を立たせる。
「あっ、そ、そんな…ケロ」
恥ずかしいのか。
慌てて布を手で押さえたカエル姿に目を細め、チュッと膝の上に口づけた。
「大丈夫だ、怖がらなくていい」
「で、でも…お、王さま…こ、この格好は…ケロ」
これでは見えてしまうと言いたいのか。
裾を懸命に押さえている。
見えたっていいのに。
いや、むしろ見せてくれだ。
けれども、そんな下心はかけらも見せずに、
「煙が立て続けに起こって煙たいかもしれないが、少し我慢してくれ。
慌てずに確実にやろう」
と爽やかな仮面を維持したまま告げた。
「は、はい…お手数をおかけします…ケロ」
訝しがることもなく、つぶらな瞳が絶大なる信頼を漂わせて見つめ返してくる。
早くモノにしたいと自ずと昂ぶった。
(慌てずにだ…確実にやらないとな…)
そう自身に無意識に言い聞かせたその時――ふと思いも寄らない声が内側で響き渡った。
『そうだ、慌てずに確実に行わなくてはいけない。
こちらのほとばしる熱情と愛される性を存分に注入するのだ。
したいはずだ、従え。
そうすれば、結ばれて幸せになれる』
(なんだ…この感覚は…)
唐突に自身の中で生じた違和感に思わずたじろいだ。
自分の声であって自分ではない、何かが呼びかけてきている。
途端にカエル姿がうなだれて。
その今にも泣き出しそうな相手の手のひらに唇を付けることで応えた。
「大丈夫だ、ヘケロ。
狼狽える必要など一切ない」
前の時と違いはあるが、だからといって人間化するにあたって噛み方が足りなかったようにも何かしらの不具合が生じたようにも思えない。
動揺に値しないだろうと微笑んだ。
「左手も試してみよう」
「は、はい…ケロ」
手を持ち上げて歯をあてる。
とあえて先ほどよりやや強く噛んだ。
「ンッ!!…ケロ」
愛らしい声とともにぼわんっとまたもや煙が広がった。
薄れると同時にまた同じように吸盤の付いた手が現れる。
先を引っ張るとスルリと今度もまた手袋が外れるように人間の手が現れた。
「よし、左手も変わった」
「は、はい、あ、ありがとうございます…で、でも、でも…ケロ」
「ん、こちらも手のひらだけだな」
と相手が気にしている点を先に口にした。
「は、はい…だ、大丈夫なのでしょうか…ケロ」
「ヘケロ、心配するな、全く問題ない」
不安で揺れに揺れている瞳に笑顔で応じる。
「で、ですが……ケロ」
「むしろオレは前回よりもいい手応えを感じている」
「えっ…ケロ」
「イソップドゥ・ワーがなにかしら仕掛けているのだろう。
そんな気がする。
だから大丈夫だ」
この言葉は気休めでもはったりでもなくて。
なぜだかはわからないが、よい兆しだと強く思えるのだ。
おそらくは虫の知らせがハンパないか、第六感が猛烈以上か、あてずっぽうなのに百発百中の魅力のいずれかの力が働きかけてきているのだろう。
それか100万直感かだ。
「新しいヘケロに生まれ変わる。
オレが望む形で、そしてヘケロも望む形で。
ちゃんと成し遂げてみせるから心配するな」
「は、はい、あ、ありがとうございます…ど、どうぞ、よろしくお願いします…ケロ」
ずんぐりむっくりとした頭がペコリとお辞儀をした。
とてつもなくかわいいと思わず目尻が下がる。
「よし、このまま足にいこう」
「は、はい…ケロ」
同意を得るとハラリと布をたくし上げてその脚を露わにした。
既に先に風呂には入らせ、肉体が変貌することを前提に服ではなく大判な綿布を胴体に巻かせてもいる。
もちろん肌着は穿かせていない。
「足と胴と続けていくぞ」
こういう場合は一気に決める。
微妙な境界線を維持したままの、ここからここはカエルのぬいぐるみで、ここからここは人間です――なんて姿は目にしたところで複雑な気持ちが増すだけなのだから。
足首を両手で掴んだ。
グッと押して膝を立たせる。
「あっ、そ、そんな…ケロ」
恥ずかしいのか。
慌てて布を手で押さえたカエル姿に目を細め、チュッと膝の上に口づけた。
「大丈夫だ、怖がらなくていい」
「で、でも…お、王さま…こ、この格好は…ケロ」
これでは見えてしまうと言いたいのか。
裾を懸命に押さえている。
見えたっていいのに。
いや、むしろ見せてくれだ。
けれども、そんな下心はかけらも見せずに、
「煙が立て続けに起こって煙たいかもしれないが、少し我慢してくれ。
慌てずに確実にやろう」
と爽やかな仮面を維持したまま告げた。
「は、はい…お手数をおかけします…ケロ」
訝しがることもなく、つぶらな瞳が絶大なる信頼を漂わせて見つめ返してくる。
早くモノにしたいと自ずと昂ぶった。
(慌てずにだ…確実にやらないとな…)
そう自身に無意識に言い聞かせたその時――ふと思いも寄らない声が内側で響き渡った。
『そうだ、慌てずに確実に行わなくてはいけない。
こちらのほとばしる熱情と愛される性を存分に注入するのだ。
したいはずだ、従え。
そうすれば、結ばれて幸せになれる』
(なんだ…この感覚は…)
唐突に自身の中で生じた違和感に思わずたじろいだ。
自分の声であって自分ではない、何かが呼びかけてきている。
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