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人間界 約束の地にて 会う

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 「その・・・口元を布で隠されているのは、信仰上の理由かなにかですか・・・いえ、もちろん、ローズさんが異教徒の方でも、楽器を弾くことができる方なら、お仕事をお願いすることになるかと思います。信じる教えが異なっても、信じる想いに違いはありません。入り口が異なろうとも、それらの道は最後には真理に通じるのですから」

 (たいしたものだ・・・)

 揺るがない光を宿した瞳で語られた言葉。ラシュレスタが感心した。

 おそらくはこの姿を見てから、ずっと疑問に思っていたのだろう。なぜ顔を布で半分隠し、フードを深く被っているのか。それを思いやりをもった言葉で機を見て尋ねる。

 そして今、ルーカが口にした信念こそが、あの方の教えなのだ。ヤヌスティーヤ教。光源である神。その代弁者たる大天使を信仰の対象とし、崇拝する宗教。

 ヤヌスティーヤという名前で地上にあえて降ろし、広まることを望まれている・・・あの方の想いはいかばかりか。お気持ちを考えると心が痛む―――ラシュレスタが胸にぶら下がっているペンダントをギュッと握りしめた。

 「実はひどい火傷を負ってしまい、皮膚が醜く引き攣った状態なのです。見た人が困惑するほどに。ですので、布でできるだけ覆って隠しております」

 「そ、そうだったのですか・・・それは配慮のないことを聞いてしまいました・・・申し訳ございません」

 「いえ、遠慮なく聞いて頂いた方がありがたいです。私としてはここでのお仕事に縁があって、長くお付き合いをしたいと望んでおりますので・・・」

 もちろん、本当の理由はそうではない。髪も瞳もどんなに地味な色に変えようとも、老若男女問わず、言い寄られ続けるのに辟易へきえきした結果、辿り着いた窮余きゅうよの策というのが実情だ。

 「そう言って頂けると、心が楽になります。ローズさん、ありがとうございます」

 ホッとしたように、ルーカが笑顔を向けてきた。その人の良さと清らかさを感じさせる笑顔。ラシュレスタの中でもまた天界の属性がふわんと広がる。

 「ついでに・・・といったら、大変失礼なのですが、この際、あの・・・その・・・」

 「えぇ、なんでしょう?」

 やや躊躇したものの、にこやかに促されてルーカが口を開いた。

 「あの・・・ローズさんは・・・その・・・どの教えを信仰されてますか? ヤヌスティーヤ教ではないような印象なのですが・・・今後のお付き合いのためにも、もしよろしかったら、教えて頂ければ・・・」

 これから仕事を依頼できるかどうか。相手の人となりや生活習慣について知りたがることは決して不自然ではない。いや、むしろ確認してもらわないと変だろう。

 今後、ヤヌスティーヤ教は多くの国で国教となる。だが今は、土着の神々を信じる多神教や民間信仰も根強い。さて、なんて答えようか――と思案を巡らすラシュレスタにルーカがさらに尋ねた。

 「あの、その・・・今、握りしめてらっしゃる、その小さな鏡のような物はもしかして・・・?」

 (そう来たか・・・)

 不自然ではなかったが、意外な展開を見せた会話にラシュレスタが内心、苦笑した。

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