最高天使に恋をして～忘却の河のほとりには～

陰謀 出現 そして･･･

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　「私の方こそ、息子共々、是非とも長いお付き合いをよろしくお願いします！！　あなたのような博識で、すばらしい音楽家に出会えたことを心から嬉しく思います。輝きの大天使さまの御導きに、感謝の気持ちでいっぱいです！！」

　どこもかしこも父親譲りだなと思いながら、差し出された熱い手をラシュレスタが優しく握り返した。

　会釈をして御者台に上がると、手綱を軽く振る。馬が勢いよく走り出した。

　急いで戻る理由は当然、他にある。振り返らなくてもわかる、おそらくこの馬車が遠ざかって見えなくなるまで、ずっと見送っているだろう男･･･の息子、ルーカだ。ルーカが心配で心配でたまらない。

 　馬車で片道三日以上はかかる距離を不自然ではない短縮日数で移動してきた。魔霊気は使えど魔陣は使わず、わざわざ二日もかけて。帰りはもっと急ぎたい。

　（面倒なことだ･･･）

　ラシュレスタが心中でぼやいた。あくまでも身を人間として通さなければならない、その不自由さに苛立ちを隠せない。

　人的努力として認められる範囲を守りながら、要所要所の通過点にあたる教会の前を必ず通らなくてはならないのだ。

　祝福された楽器の部品を積んだ馬車が通るのを楽しみにしている聖職者たちがいるのだから。

　だが確実に、ルーカは狙われている。下劣で醜悪な権力者サニキニウスに。急いで帰らねば。

　『私のことは大丈夫です。スブ・ロサ楽団の皆さんと行動を共にしますから』

　屈託ない笑顔がラシュレスタの脳裏に浮かんだ。

　輝きの大天使が告げた楽師とは、実は各地を渡り歩く、複数人で構成される楽団のことだった―――好色で危険なサニキニウスからリオン・ローズたる者を守るために、フェデリコ教区長が考えついた案だ。

　一様に口元を布で隠し、同じマントのフードを深く被った、寄せ集めのにわか楽団。賢者で名高い教会の長は、彼らにまた純朴な修道士ルーカを守ることも命じた。

　『奇蹟が起きたなどと軽々しく口にしてはいけない。我々は皆、自分たちの力で困難に立ち向かわなくてはならないのだから』

　フェデリコはまた、天使の力で突風が起きたに違いないと騒ぎ立てる信徒にピシャリと言い放った。

　知性溢れる、分別の高いフェデリコがいれば安心だと思いたいところだが、有能な人間はなんせ忙しい。

　『私としては、お一人で行かれるというローズさんの方が心配なのです！！』

　自分の身よりも常に相手を心配するルーカの姿がどうしてもちらつく。

　供を連れて行けと何度も食い下がる相手に、こちらも頑として譲らなかった。同行者など連れて行けば、どう考えたって足枷になるのだから。

　（何事もなければいいのだが･･･）

　だが、その想いとは裏腹にラシュレスタの胸で、ブブブ･･･ブブ･･･と魔鏡が振動を起こした。指先で表面を軽く叩く。

　「公爵さま～　大変で～す！！　サニキニウスのヤローにルーカさんが拉致されてしまいました～！！」

　聞こえてきたフギンギンの声に、ラシュレスタが目を見開いた。