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魔界の王と天界の最高位と

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 自分以外の他者に深い情愛が向くというのなら、元凶を取り除けばいい。その相手の、その愛される要素を変えてしまえばいい―――

 そんな歪んだ妄執と狂気に満ちた瞳を、ゴボゴボ、ブクブクと沸き立つ闇の泡と邪気の流星が行き交う中、シャルスティーヤが無言で見つめ返す。

 ないがしろにする気など毛頭ない。魂の片割れなのだ。だが、どうあっても、妬み、そねみ、やっかみ、ひがみ、不満、憎悪の連鎖から切り離せない。

 陥れるために、自分の分身となる胞子を植え付け、追いつめるために、このタイミングで発動させたのだ。

 両者とは到底、同時には向き合えない。だとするならば―――シャルスティーヤが額の輪をぽわんっと黄金色に輝かせた。つられるようにして、空色の瞳も明るさを増す。

 だが、ここに来て初めて、その美しい眉根をひそめた。悲しげな色を漂わせた瞳がここではない次元をじっと見つめ、静かに閉じる。ややあって、開けた。

 「シャルスティーヤ、そなた・・・」

 片翼だからこそ、瞳にこもった意志がどういったものなのかがわかる。ラシュレスタを見つめている最愛の弟に、魔王がギリリ・・・と歯ぎしりをした。

 「ネミルバの願いで繋がったのだ・・・ラシュレスタ・・・」

 静かに問いかけながら、ラシュレスタへと右手を差し出した。

 「許さぬっ!! 許さぬっ!! 許さぬーーーっ!!」

 魔王が咆哮ほうこうした。

 「願いは時を越える・・・ラシュレスタ・・・」

 (シャルスティーヤさま・・・)

 自分への声かけに、ラシュレスタが目を見開いた。

 三者で向き合う時はいつだって、兄たる存在を優先してきたシャルスティーヤ。創世の時より担い続ける、唯一無二の運命共同体なのだ。

 だからこそ、遠慮して一歩引いているのが当然だと思っていた。それが今、自分をまっすぐに見つめ、自分だけに話しかけてくる。

 (シャルスティーヤさま・・・)

 ラシュレスタの心が震えた。

 さぁ、来いと力強く差し伸べられた右手。キラリとなにかが光った。金色の防具の上にある――――

 (あれは・・・)

 魔鏡だと認識した途端、ガクンッと身体が下に落ちた。

 ズズズズ・・・ズズズズゥゥウゥゥゥーーー・・・・・・ズブズブズブズブズブブブブブ・・・・・・

 闇の陣が大きな渦を巻き始める。と同時に、中央から沈み始めた。

 「!!」

 その渦巻きの中心に巻きこまれるようにしながら、魔王が身を沈めていく。ラシュレスタを抱えたまま。

 「渡さぬ・・・誰が渡すものか・・・」

 ささやかれた言葉から相手の意図を察した。このまま魔界に連れて帰るつもりなのだ。

 (シャルスティーヤさま!!)

 咄嗟に見上げた視線の先、空色の瞳が言い続けていた。願えと。

 願えよ、さすれば与えよう。純然たる願いには、どんな者にでもすべからく応える。それが天界の理。裏を返せば、当事者が心から願わなければ、なにも手助けはできないのだ。

 「ラシュレスタ・・・」

 自分の名を強く呼ぶ、その声。熱く訴える、その瞳。求めろと差し出された、その手。

 (あぁ、シャルスティーヤさま!!)

 二の腕に相手の腕が絡まるようにして拘束されている身体。ラシュレスタがなんとか手の先だけでも上げようとした。

 だが、その時―――

 「清らかなる最高天使をその醜い劣情で、汚す気か? 身ごもった汚れた身のくせに、愛されるとでも、許されるとでも思っているのか?」

 呪詛をつぶやくかのように、背後から暗く発せられた言葉に、ラシュレスタが息をのんだ。


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