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忘却の河のほとりには
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おそらく、それは半分は本当に必要で、半分はこちらを配慮しての発言なのだろう。気がよくまわる従者に、ラシュレスタが内心、苦笑した。
「あぁ、せっかくだから、ゆっくりと楽しんでくるがいい」
「はい。では、行って参ります」
いそいそとルーカが室内へと入り、扉の外へと消える。その背中を見送った後、テラスへと目を戻した。
薔薇によりかかるようにして、アブラハムの本体と分身たちが鼻ちょうちんを出して、ガーガーと眠りこんでいる。
なんとも情けなく、みっともない姿だ。だが、その寝姿は前触れなのだ。ふわんっと上空が明るくなった。その場の気が一気に上昇するような気配を見せる。
パシャン・・・
背後で水音がした。
(あっ・・・)
途端に左胸がトクトクと高鳴り始めた。その巨大な力ゆえに。気場を乱さないように、あえて水鳥に変化して降臨するのだ、その方は。
降り立った者が、光の彩度を極力押さえながら、本来の姿へと変化を解除させた。
パシャン、パシャン、パシャン・・・
と水面を軽やかに歩いてくる。そのまま白砂に上がり、近づいて来た。
(あぁ・・・)
無条件に嬉しさが湧き上がる。胸をギュッと押さえた。ゴクリと嚥下して、息を整える。振り返ろうとして、ハッとした。
つい習慣で魔界公爵の姿で過ごしていたが、自分も変化を解除して出迎えた方がいいのだろうか。
(どうしよう・・・)
戸惑う。だが、首を振った。このままでいいと。どんな姿であろうと、そなたに変わりないと愛でて下さる方なのだから。
そう思った途端に、手が肩に触れた。優しく引き寄せられて、振り返った。その眩しさに。あぁ・・・と琥珀色の瞳が潤んだ。
輝きの中、最愛の者が微笑みながら、口にしたのは――
煉獄の地。忘却の河のほとりには、天界にも魔界にも属さない麗しき貴公子が住むと言う。
死びとの従者がいれるローズティーを好み、美しい水鳥と戯れるその者の名は――ラシュレスタ。
☆完☆
「あぁ、せっかくだから、ゆっくりと楽しんでくるがいい」
「はい。では、行って参ります」
いそいそとルーカが室内へと入り、扉の外へと消える。その背中を見送った後、テラスへと目を戻した。
薔薇によりかかるようにして、アブラハムの本体と分身たちが鼻ちょうちんを出して、ガーガーと眠りこんでいる。
なんとも情けなく、みっともない姿だ。だが、その寝姿は前触れなのだ。ふわんっと上空が明るくなった。その場の気が一気に上昇するような気配を見せる。
パシャン・・・
背後で水音がした。
(あっ・・・)
途端に左胸がトクトクと高鳴り始めた。その巨大な力ゆえに。気場を乱さないように、あえて水鳥に変化して降臨するのだ、その方は。
降り立った者が、光の彩度を極力押さえながら、本来の姿へと変化を解除させた。
パシャン、パシャン、パシャン・・・
と水面を軽やかに歩いてくる。そのまま白砂に上がり、近づいて来た。
(あぁ・・・)
無条件に嬉しさが湧き上がる。胸をギュッと押さえた。ゴクリと嚥下して、息を整える。振り返ろうとして、ハッとした。
つい習慣で魔界公爵の姿で過ごしていたが、自分も変化を解除して出迎えた方がいいのだろうか。
(どうしよう・・・)
戸惑う。だが、首を振った。このままでいいと。どんな姿であろうと、そなたに変わりないと愛でて下さる方なのだから。
そう思った途端に、手が肩に触れた。優しく引き寄せられて、振り返った。その眩しさに。あぁ・・・と琥珀色の瞳が潤んだ。
輝きの中、最愛の者が微笑みながら、口にしたのは――
煉獄の地。忘却の河のほとりには、天界にも魔界にも属さない麗しき貴公子が住むと言う。
死びとの従者がいれるローズティーを好み、美しい水鳥と戯れるその者の名は――ラシュレスタ。
☆完☆
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