Children Of The God's

鈴木ヨイチ

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第1章

ウルの到着

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(これって…………ダンボール箱だよな……?)
 連れて来られた場所に、置いてある物に目を疑った。

 入り組んだ、狭い路地を進むと、目の前にそれは現れた。横幅が3mもない道の片隅に、3人入れば限界かと思われる、ただの箱。

「なぁ……これは……箱だよな?」
「見ての通り、ダンボール箱だねぇ。とりあえず入りなよ。靴のままでいいからさ」

 入る為に箱を持ち上げて――――(なんか棚があるし……ダンボールだけど敷いてあって、ただの箱って……もしかして、わざとか……?)――――考えを改めた。

「いやー、見直した。確かにとっておきだ」
「え? まさか褒められるとはねぇ。そうなんだよ」

「いや、すげーよ。これは助かったわ。ありがとな」
「お礼なんていらないよ。まぁ遠慮なく、くつろいでねぇ」

「おう。じゃあ遠慮なく、お邪魔します」
「どうぞ。僕は、見張っとくからさ」

 入るなりそう言って、棚の中から単眼鏡を取り出し、小さく空いた穴に差し込んだ。
(普通に見たほうがいいと思うけど……こいつの事だから、なんかあるな……まぁ、任せるか)

「なぁ、育成神?」
「何かな」

「さっき言われた事だけどさ、1つだけ教えてくれ」
「あぁ、いいよ」

「……今なら縛られないってどう言う事? それとやっぱりもう1個、俺の名前は、結局意味あんの? あと……」
「ノーマ、多いぞ! 神様困っちゃうぞ!」

「天使。お前に聞いてないから」
「ノーマ……怒ってるのか……? ごめんだぞ……」
「あぁ、騙しただけだぞ……」
「……! ノーマ! また騙されたぞ!」

 相変わらず、天使は騙されてくれるから、反応が面白くて騙してしまうけど、本当に悲しそうな顔をするから、すぐに止めてる。

「育成神が言わないのを、お前が言えないしな。怒らねーよ」
「ありがとだぞ……! 神様、ノーマ怒って無かったぞ」

「そうだね。ノーマの前で申し訳ないけど、今まで黙っててくれて、ありがとう」

「ほんとに、よく黙ってられたな。天使のくせに」
「天使も辛かったぞ……でもノーマと神様の為だぞ!」

「お前もやれば出来んだな!」
 天使は照れ臭そうに、笑みを浮かべた。

「でさ、育成神。教えてくれよ。」
「あぁ、そうだね。何からだったかな?」

「だから、俺が今なら――」
「天使ちゃん、この箱?」

 箱の外から聞こえたその声に、その場は静まり返り、一気に緊張感に包まれた。

 ゴカイを見ると、単眼鏡を覗き続けていた。
 声は、覗いてる逆側から聞こえている事に、気付いてる筈なのに。

「はい……この中に居ます……」
 箱が少し浮き、考える間もなく、吹き飛んだ。

 咄嗟に走ったが、誰かに腕を掴まれた。その一瞬、顔に衝撃を受け、視界が真っ白になり――――(あれ? なんで……俺は……お花畑なんかに……? まぁ……そんなのどうでもいいや……なんかポカポカするし……このまま……)――――ハッと意識が戻ると、視界がグラついていた。

「なんで……地震――」
「ノーマー! 寝てんじゃないわよ!」

 その言葉に意識がハッキリ戻り、揺さぶられていたと、分かった。

「ウルかよ! なんでここに居るんだ? とりあえず手離してくれ」
「あぁ、ごめん。じゃないでしょ! なんでここに居るんだ? ……じゃないわよ! まったく……ハァ」

 ウルはバカにしたように、俺のマネをした。安堵しているのか、呆れているのか、どちらとも言えない表情を浮かべ、深く溜め息をついた。

「いや、なんかごめん。ウルって分かんなくてさ。てか、今誰かに追われてんだよ!だから早く――」
「それあたし。逃げるから、追って来たし」

「え、マジ……? なんかごめん。さっきから」
「…………もう、いいよ。無事なら……それで……」

「ノーマくん……死んで無かったですね……」
「うん、そうだね……死ん――」

「おい、天使! そんな言い方良くないぞ! ノーマは死なないぞ!」
「おい、そんな怒るなよ。仲良くしろよ」

 いきなり、俺の天使が怒り出した。

「嫌だぞ! 謝れ!」
「なんでです……? 謝らないです……」

「もういいだろ、天使。ありがとな。ウルの天使も悪気ないんだからさ」

 天使の気持ちは嬉しかったけど、ウルの天使も、心配してくれての発言なのは伝わったから、宥めた。

「はい……悪気ないです……」
「良くないぞ!」

「天使、もうその辺で終わるんだ」
「天使、もう、止めなさい」

 神達が同時に放ったその言葉に、天使達は驚き、萎縮した様子だった。

(あれ? そう言えば、なんか…………)

「ゴカイ……そう言えば、ゴカイが居ねーよ」
「あぁ、あいつの事? うるさいから、ついでに殴っといた」

 ウルはそう言って、そちらを向く事無く、指だけ指した。ゴカイは、壁にもたれ掛かり座ってた。

「おい、ゴカイ! 起きろよ! おい!」
「うん……? …………起きてるよ。まだ静かに!」

 駆け寄って声をかけると、意識を失っていたゴカイは、俯いたままそう言って、何故か格好つけた。

「お前、今まで意識無かっただろ」
「違うねぇ……振りだよ、振り」

「じゃあ、俺達の会話聞いてたか?」
「え? 会話?」

 ゴカイは顔を上げ、すぐさま再び俯いた。

「ノーマ……! あいつ敵だよ……! 僕達を殴ったのあいつなんだよ……!」
「知ってるよ」

 再び顔を上げ、放心したかのように、口を半開きにして、俺の顔を見つめた。

「あいつは俺の幼馴染みなんだよ。お前を殴ったのは、ついでらしい」
「ついで……? ついでにあんなに強く……? でも幼なじみなんだ……」

「あぁ、そうだよ。悪かったな」
「幼なじみならいいよ……ね」

 不気味な笑みを浮かべ、急に立ち上がり、ウルの方に歩き出した。

「おい、女! よくも殴ってくれたねぇ……ただじゃ――」
「ただじゃ? 何? 殺しても良かったんだけど?」

 ウルのその言葉に、黙ったゴカイはゆっくりと振り返り、涙をこらえていた。

「おい、ウル……こいつは仲間だ。そんなに虐めるなよ。ゴカイも泣くな。ただの冗談だよ」

「僕は泣いてなんかない!」
「あたしは、冗談なんかじゃないけどね」

「ウル……もう止めろって……」
「まぁ、いいけどさ。てかそもそもこいつ誰?」

「あぁ、そうだったな。こいつはゴカイ。俺がさっき倒して、仲間になったんだ」
「へー、そうだったんだ。中々やるじゃんノーマも!」

 ウルに褒められて、少し照れた。

「だろ? やれば出来るんだよ!」
「でもノーマ。今回は相手が弱かったからいいけど、戦えばいいってものじゃないからね。気をつけてよ……」

「あぁ、そうだな……それは分かってるよ」
「弱いは酷いねぇ……」

「そうだな。こいつは弱くねぇ。俺も最初はそう思ったから戦った。だけど、俺に勝てねーって分かってすぐに謝ったんだ」

「それって、弱いじゃん」

「違う。俺ならあの場面で、謝れなかったし、勝てねぇって分かっても戦ってたと思う。たとえ死んでもな。でもこいつは、生きる為の最善を選んだ。無駄なプライドを捨てて。これはお前も分かる筈だ……ウル」

「まぁ……確かに……」

「なんつーか……だからこいつは、自分が弱ぇって自覚してるから、強ぇんだよ。な? ゴカイ」
「ノーマ……ありがとねぇ……でも強くなんか……」

「そうね。弱いって言ってごめん。強さにも色々あるもんね。ゴカイって言ったよね? 私はウル。これからよろしく」
「あ、うん……よろしくねぇ……ウル……」

 ウルから手を差し出し、ゴカイはぎこちないが、手を出し握手を交した。一応仲良く? と言うか仲悪くは無くなった気がする。
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