Children Of The God's

鈴木ヨイチ

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第1章

ビキョウとフルール

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 そこにいたフルールは、さっきとは違い、目が真っ赤に充血していて、腫れていた。

「フルール。何かあったのか」
「え、なんで?」

「いや、その目……」
「ほんっとに、デリカシーないよね! ずーっとさ!」

 心配をしていただけなのだが、何故か不機嫌にさせてしまった。

「っもう! フルちゃん、放っとこう!」
「そうだね……っはぁ……昔っからそうだよね」

 フルールは、呆れた様にため息をつき、ビキョウにも睨まれた。

「それより、フジミくんとは?」
「うん。ちゃんと、お別れしてきたよ」

「そっか。ウルちゃんはどうしたの?」
「流石に預けて来たよ。もう寝てたからさ」

「そうだよね。もう遅いし」
「あの子も会わせてあげたかったけど、分かんないじゃん。もう少し大きかったらいいけどさ」

「まだ、6ヶ月だもんね」
「うん」

「少しいいかな……」

 私の言葉に、2人は嫌そうな顔をしたのが分かった。ただ、それでも私は、疑問に思った事を聞いた。

 2人の答えは、私には到底理解出来ず、当然悲しんでいる事は分かっていた。フジミはもう目覚める事は無く、シナズも、このまま目覚めないかもしれない状況で、平気でいられる訳なんか無いと分かっていたつもりでいた。

 私の質問はそのまんま、悲しく無いのか、何故いつも通りなのか。2人の答えは、シナズとフジミを選んだ時点で、覚悟は出来ていたから。それが早く来すぎただけだから。との事らしい。

「それは……人はいつか死ぬからって事かな……?」

「はぁ……何も分かって無いな……こりゃ説明するだけ無駄だわ……」

「でも……そう言う事かなって思う。人は例え死んじゃっても、想いは受け継げるんだよ」

「想い……?」

「そう、想い。シナズくんとフジミくん、それに私達の想いも、ウルちゃんと、これから産まれてくるこの子にね。だから受け継がれる限り、人は死なないって事」

「そう言う事。分かった?」

「あぁ、分かった気がするよ……シナズも良く言っていた……俺はシナズだ。これを意味ある物に、俺がするんだ。とね……」

「それは…………想いだけど……」
「まぁ、いいじゃん。分かったって言ってるんだし」

 2人に納得させられた。今ならシナズの言ってた事も、分かってあげられる気がした。

 この2人がいる、というより、この2人だからこそ、シナズとフジミは、好き勝手出来て、全てを任せられて、2人には、勿体ない程の女性達だが、この2人が居なければ、今のシナズとフジミは居かったのだと、思い知らされた。

 そんな事を考えていると、再び扉が開き、そこに立っていた人物に、言葉を失った。

「失礼する」

「え、誰?」
「私も知らないけど……」

「なぜ…………ここに……?」

「あ、育成神の知り合い?」
「シナズ神くんの知り合いって事は、シナズくんの知り合いって事だよね」

「ヨンカイ……!」

「ヨンカイさん? こっちにどうぞ」
「駄目だ!」

「え、急にどうしたの……?」
「そうだよ。お客さんでしょ」

「違う…………こいつは……2人と闘った敵だ」
「え……?」
「え……?」

「突然すまない。確かにその通りだが、今は、ただ謝りに来ただけだ」

「謝りに……?」
「あぁ、そうだ。さっきの闘いの中で、子供が居ると聞こえた……それでだ」

 ビキョウとフルールは、ヨンカイが敵だと知り、言葉を失っていた。それは無理も無い。シナズをこんな目に合わし、フジミを殺した相手だ。

「そんな物いらない……今すぐ帰るんだ」

「ちょっと待って……」
「ビキョウ……? 育成神の言う通りよ……謝罪なんかいらない……ましてや謝罪って何……? フジミを殺しといて……今更謝罪って何よ! フジミは…………」

 フルールはその場に泣き崩れた。
 例え、死んだ事を受け入れられたとしても、殺した本人を前に、簡単に許せるものでは無いのは、当然の事だ。

「私も……あなたの事は……絶対に許しません……! ……でも……でも、理由は聞きます。謝罪に来た理由を」

「感謝する」

 そして、ヨンカイは話し始めた。ゲンキョーに騙された事、知らずにシナズとフジミを疑い闘った事、その闘いでフジミを殺し、シナズをこの状態にしてしまった事、全て子供の為だった事を。

「そう……ですか……」
「何それ…………俺の勘違い、それで殺した、だから許してって事……? ……そんなの……」

「許しを乞う為に、来た訳では無い。謝罪に来た。それだけだ」

「ふざけんな! ただ自分の過ちを謝罪して、自分が自分を許したいだけじゃん……! もう……言い訳なんかすんな! フジミとシナズに勝った、それでいいじゃん……!」

「フルちゃん…………」
「だってそうじゃん……! ……2人は必死に闘った筈なのにさ……その相手が間違いだったって、悔しいよ……!」

「フルールの言う通りだ。出ていってくれ」
「うん……そうだよね。出てってください」

「俺が配慮に欠けていた。すまない。これで失礼する」

 ヨンカイは病室を後にした。ビキョウはフルールを宥め、少し落ち着いた様子だった。

「ビキョウ……ありがとう……」
「ううん、こっちこそありがとう……ごめんね……私が理由を聞いたばっかりに……」

「いや……知れてよかったよ…………はぁ……ちょっと疲れちゃったな…………」
「無理もない。2人共今日はもう、休んだ方がいい」

「そうだね……今日は帰ろうかな……ウルも心配だし。ビキョウも体に悪いから、もう休みなよ」
「うん、ありがとう。私はもう少し、ここにいるから」

「そっか。じゃあ私は行くね。育成神、後は頼んだよ」
「あぁ、心配いらない」

「頼りなぁ……まぁ……じゃあね」
「うん、じゃあね。気をつけてね」

「うん……ビキョウもね……」

 フルールも病室を後にした。

「シナズ神くんも、今日はありがとね」
「いや……私は何も出来ていない……」

「そんな事ないよ。私は1人でいるより、居てくれるだけで心強いよ。フルールは頼りないって言ってたけど……」

「フルールの言う通りだ……」

「もう……らしくないよ。この話終わり」
「そうだね…………ビキョウもそろそろ、休んだほうがいい」

「私は平気だよ。ありがとね。……なんかお腹空いちゃったなぁ……」
「そのフルーツでは、駄目なのか?」

「これはダーメ。シナズくんのだから。起きたら…………あれ? 私、ナイフ持ってきたよね……?」

「あぁ、フルーツと一緒に置いていた筈だよ」
「だよね…………あ……! 天使ちゃん!」

「どうしたの……?」
「お願い、フルールを見てきて!」

「まさか! ヨンカイを追って……?」
「分かんない……でも心配だから、ちょっと行ってくる。シナズを見てて」

「駄目だ、ビキョウ! 天使、シナズを見ててくれ。何かあったら、すぐに知らせてくれ」
「かしこまりました」

 ビキョウは私の制止など聞かず、病室から飛び出した。1人で行かせる訳にも行かず、ビキョウを視に行くと、天使が戻ってきていた。

「フルールはいた?」
「うん。外にいたけど、どういう状況?」

「後で説明する……早く行かないと」
「ビキョウ、走ったら危ない。転んだらどうする」

「そうも言ってられないよ。あれ……? なんで、シナズを見ててっていったのに!」

「シナズは心配無い。天使に任せてある。それより君だ、ビキョウ」
「心配しないで。ずっと力使ってるから」

「神様。状況を教えてください。何故フルールが?」
「あぁ、フルールは男と居たか?」

「はい」
「あれが、2人の敵なんだ。さっき謝りに来て、帰って行ったんだが、フルールがナイフを持って追いかけた」

「なるほど…………私が出来るだけ時間を稼いでみます」
「それは助かる。よろしく頼む」
「はい」

「ビキョウ、天使が時間を稼いでくれる」
「うん」

 それでもビキョウは走り続け、フルールの元まで辿り着いた。
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