Children Of The God's

鈴木ヨイチ

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第2章

ゴッドルック

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「モエル、サイキョー、絶対に俺達から離れるな。あの扉の先は、地獄だと思え」

「はい! ……ついに入るんですね、ゴッドルックに!」
「ここにいる奴らは、全員敵って事か……」

 モエルが興奮しているのとは対照的に、サイキョーは冷静で、少し面倒くさそうにしていた。

「サイキョー! 楽しみだな!」
「羨ましいよ、お前が……」

「何がだ?」
「バカで」

 2人は相変わらずの会話をし、モエルはいつも通り、高らかに笑い、サイキョーはいつも通り、呆れた様子でため息をつき、2人ともがいつも通りで、安心した。

「イラフさん、順番です」
「あぁ、ありがとう、ゴウラク。2人とも、行くぞ」

「はい!」
「はい」

 俺達の順番になり、扉の前へと移動し、番人が扉を開けるのを待った。

「やっぱり、何回来ても慣れないね」
「大丈夫だよ。姉さんは俺が守るから」

「おい、アネシュ。ユウビを守るのも大事だが、最優先はモエルとサイキョーだぞ」

 ユウビとアネシュは放っておいて、ゴウラクの言う通り、今日は2人を守る事が最優先。

 このゴッドルックで、自分達の身を守りながら、2人の事を守れるのかは、分からないが、正直不安な気持ちよりも、何故か楽しみのほうが勝っている。

 まさかこんな気持ちになるとは、全く思っておらず、自分自身が1番驚いていると、番人が扉に手をかけ、ゆっくりと押し開けた。

「それでは、お気を付けて」

 俺達は番人に会釈で返し、まずはモエルとサイキョーが入り、その後に続いた。

「すげぇ……これが、ゴッドルックか……」
「確かに、すごいな……」

 街を見渡す2人を見て、俺も初めて来た時に、同じように見入ってしまった事を、思い出した。

「とりあえず、先に進もう」

 あまり入り口で止まっていると、初心者、もしくは初心者がいると、思われる上に、10分後にはまた1組入って来る為、その場から移動した。

 今回は、2人がゴッドルックを知る、という目的で来た為、帰れるまでの1ヶ月間、何をするか全く決めていなかった。

「ねぇ、イラフさん。もしかして、脅してただけですか?」

「まだ入ったばかりだ。そう思うのも仕方ないが、脅しなどでは無い」

 俺もサイキョーと同じような問いかけを、初めて来た時に、同行者にしており、気持ちを理解出来た。

 しかし、すぐに危険な場所なんだと、思い知らされた事を、鮮明に覚えている。

「1ヶ月無事なら、それが何よりだが、恐らくそう上手くは行かないだろう」

「そうですか……まぁ、そうですよね」
「サイキョー! せっかく来たんだ、楽しもう!」

 面倒くさそうなサイキョーに、話しかけるモエルは、見ただけで分かる程に、楽しそうにしているのが、伝わってきた。

「あのー、すみませーん」

 俺達が歩いていると、突然何者かの声が、背後からした為、1度足を止めて振り返ると、1人の青年がこちらに向かい、走って来ていた。

 俺達は、俺を先頭に、後ろにモエルとサイキョーが横並び、最後尾にゴウラク、2人の両隣にユウビとアネシュで、2人の四方を囲むように、行動していた。

 その為、ゴウラクをその場に残し、俺達5人は、少し距離を開けて待った。

 例え俺達に用が無くとも、青年1人だろうと、警戒するに越したことはない為、ユウビとアネシュも2人の前に入り、万全を期した。

 すると青年は、何の用があるかは分からないが、ゴウラクの前で、立ち止まった。

「モエル、サイキョー、もしも今戦闘になったとしたら、闘いたいか?」

「え? もちろんですよ!」
「俺はどっちでも」

 もしも青年が敵だとすれば、1人で来る筈は無いと考え、辺りを軽く見ただけでも、10人以上もの不審な人物を、確認する事が出来た。

 勿論、経験と勘による疑惑に過ぎず、敵と決まった訳では無いが、ゴッドルックに味方などいない。

「ユウビとアネシュは、どうだ?」

「うーん……敵ですね。10はいるかな?」
「同じくです。俺が見る限りでは、後ろ8、横3ずつ、それに正面のあの子、合わせて15かと」

 やはり2人も把握しており、いつ戦闘が起きても、おかしくない状況の中、ゴウラクが戻ってきた。

「遅かったね、ゴウラク。道案内でしょ?」
「あぁ、しつこくてな。少し脅しておいた」

 ユウビの言う道案内は、そのままの意味で、初心者を装い道を聞き、目立たない場所まで連れて行く。

 そこで集団で襲いかかり、勲章を奪う、もしくは殺す。

 これは、聞かれた側が初心者ならば、初めて来たと断るか、一緒に探すか、大半がこのどちらかだが、相手が1人だからと、闘う者もいる。

 戦闘になった場合、道を聞く側は、その場では闘わず、1度逃げる。

 聞く側の目的は、初心者か違うかを知りたいだけの為、それさえ知れれば、目的は達成され、人目につく場所では、基本的に戦闘は行わない。

 何故判断出来るのかは、断る、一緒に探す場合、初心者は初心者だからと言う為、すぐに分かる。

 闘おうとする者の場合は、人目を気にせず、場所を選ばない時点で、ほぼ初心者。

 これも稀に、初心者を装い、人目も場所も気にせず、敢えて闘う者もいるが、これは本当に稀。

 その為、この賑やかな場所で聞く事に意味があり、知っていれば対処出来るが、知らなければ対処のしようが無い、巧妙な作戦。

 対処法を知っていれば、ゴッドルックを知っているという事、ゴッドルックを知っていれば、迂闊に手は出せないという事を、相手も知っている。

 勿論、ゴウラクはそれを知っている為、普通に断る事も出来た筈だが、青年の何かが気に触り、脅したと思われる。

「あの! 戦闘はするんですか?」
「今回はお預けだな」

「え…………」
「まだ先は長い、そう落ち込むな」

 モエルは、誰が見ても分かる程に落ち込み、見る見る内に元気がなくなっていった。

「はぁ……行きましょう」
 モエルはそう言うと、1人歩き出した。

「ガキですね、あいつ」
「まぁ、そう言ってやるな。期待させた俺も悪い」

「イラフさんっ、飯食いましょう! 美味そうな飯屋があります!」

 数秒前まで落ち込んでいたのが、嘘かのように、元気を取り戻していた。

「やっぱガキですよ、あいつ」
「まぁ、そうだな……」

 俺達はモエルの後を追い、モエルが入って行った店へと、向かった。

 店に入ると、モエルは既に席に着いており、俺達も席に着いた。

 店は肉料理専門で、メニューを見ても、当然肉料理しか無い為、各々、好きな肉料理を頼んだ。

「この後は、どうしましょう」
「そうだな……」

「この後の事は、この後決めましょう! 今は飯の時間なんですから!」

 モエルの勢いに、俺とゴウラクは何も言い返せず、言われた通りにした。

「お! 来ましたよ!」
 それ程待たずして、料理が全員分届き、とりあえず頂いてみた。

 ゴッドルックで肉料理を食べるのは、俺も初めての為、頂いてみると想像以上に美味しく、心の中だけで、モエルに感謝した。

 その後、モエルは2品を追加で頼み、食べ終え、全員が満足して店を出た。

「いやー、食いましたね!」
「お前は食いすぎだろ」

「美味かったな!」
「まぁ、確かに美味かったな」

 モエルとサイキョーの、やり取りを見ながら歩き出した所で、この後の予定を決めていない事に、気づいた。

「2人とも、1度止まるんだ」
「なんですか?」

「何処か行きたい所や、したい事は何かあるか?」
「うーん…………」
「俺は特に無いですね」

 時刻は14時前だが、暗くなるにつれ危険度が増す為、予定も無い事から、宿泊施設を探しに歩いた。

 栄えている中心街にある宿は、どこも空きがなく、やむを得ず、中心街からは少し離れた場所の、宿を借りた。

「イラフさん、そもそもここって、何があるんですか?」

「そうだな……実は俺も、詳しく知らないんだ」
「え? 何回も来てるんじゃ?」

 サイキョーの言う通り、来ているというよりも、シーク在籍時は、主にこっちで生活していたが、何があるのかに興味が無かった為、人づての情報しか知らない。

「ここに来たら闘――」
「イラフさん、とりあえず中心街に行きましょう」

 ゴウラクの声に振り返ると、ゴウラクは真っ直ぐ俺の目を見つめている。

「何かあるのか?」
「モエルっ! 行くぞ。サイキョーも来い」

「はいっ!」
「行きますけど、なんですか急に」

 ゴウラクは、俺の問いかけに返事をしないまま、2人を連れて歩き出した。

「イラフさん、モエルの前で闘技場の話は、まずいですよ」
「あ、イラフさん、気づいて無かったんですか?」

 ユウビとアネシュに言われ、ゴウラクが機転を利かせてくれたという事に、気づいた。

「そういう事か。1番気が緩んでいたのは、俺のようだ」

「皆さん! 早く来ないと、置いて行きますよ!」
「あぁ、すぐに行く」

 俺は気を引き締め直し、先に行く3人の元へ、向かった。
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