Children Of The God's

鈴木ヨイチ

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第2章

ゼロ

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 宿に着き部屋に入るなり、モエルすぐに横になり、眠りに落ちた。

 俺も寝支度を済ませて眠り、朝7時に目覚め、モエルを起こし、部屋を出て、8時前に玄関帳場に着いた。

 すると、既に4人も集まっており、サイキョーは少し不機嫌だが、朝食を取り、会場へ向かった。

 会場に着いたが、出場者全員の初戦が終わるまで、2人は試合が無い為、それを受付で確認して、飲食物を購入し、6人で闘技場へと向かった。

 1日、モエルとサイキョーは、相手の事を知るとかは考えず、純粋に試合を楽しんで観戦し、帰りはサイキョーの選んだ店で食事を取り、宿に戻った。

 次の日も同じように、会場へ行き、2人は試合が無い為、1日観戦して、帰りに食事を取り、宿へ戻る。

 そして、2人の試合が無いまま、数日が経過し、いよいよ全員の初戦が終わり、2回戦が始まった。

 2回戦からは、例え試合が無い日だとしても、控え室にいなければ、失格になる為、そこからは、4人での観戦となった。

 2人は順調に、2回戦、3回戦、4回戦、更に、大会も残すところ後1日となり、決勝まで勝ち進んだ。

「サイキョー、本当に優勝は譲るのか?」
「あぁ……いや、気が変わったんで、譲るの止めます。悪いな、モエル」

「望むところだ!」

 モエルは勿論のこと、サイキョーもやる気は十分で、闘うからには本気を出すに違いない。

 1対1で闘った場合、モエルの方が強いと、今までは思っていたが、ここまでの試合を見てきて、考えを改めた。

 戦闘においてのセンスだけで言えば、モエルが上だが、サイキョーには、それを補うだけの戦略性を持っている。

 更に言えば、今までモエルと闘わず、ずっと見てきたのに、ここに来て闘う決断をした理由は、勝てるビジョンが見えたはず。

 これらを踏まえて、2人が闘った場合どちらが勝つのか、俺が出した結論は、分からない。欲を言えば、どちらにも勝ってほしい。

 こんな願望を抱いてはいるが、何を言おうと、決勝はもう明日。

 しっかり休み、万全の状態で臨んでもらう為、食事を取り終え、宿へ戻ろうと店を出た。

「こんばんはぁ。早速ですが……殺しに来ました」
「敵か……まぁ、仕方ないな」

 この1ヶ月間の殆どを、世話になった肉料理専門店には、迷惑かけられないと思い、店から離れた。

「目的は?」
「そこのガキ2人と、ついでにあんたもね」

「シークか。軽く食後の運動をして、さっさと帰ろう」
「はい」

 シークの目的は、俺とモエルとサイキョーで、狙われる心当たりは、俺にはある。

 けれど、2人に対しては恐らく、大会で負けたとかの逆恨みと思われる為、俺達は6人で、シークの集団約30人弱を、すぐに片付けた。

 流石に下っ端だとは思うが、シーク相手に呆気なく終わり、結果論ではあるが、モエルとサイキョーの2人だけでも、勝てた。

「行こうか」
「まぁ、待てやっ! 夜は長ぇんだからよ!」

 俺達が、その場を離れようとしたその時、背後から聞き馴染みのある声が聞こえ、振り返った。

「久しぶりだなぁ! イラフ!」
「あんた……が……何故……?」

「俺がここにいたらダメか……? あぁん? 答えろや」
「いえ……」

 俺が顔を上げた刹那、脳が揺れる程の衝撃を感じ、理解する間もなく、壁に叩きつけられ、そこで初めて、殴られたんだと気づいた。

「ゼロは、下がっててください。俺がやります」
「どうしたシナズ? 今日はやけに、やる気じゃあねぇか」

「そんな事ありませんよ。行くぞ、ムカ」
「はいよ」

 俺は意識が朦朧とする中、ゼロの口から、シナズという名前が出たのを、聞き逃さなかった。

「シナズ……さん……? シナズさんなんですか?」
「俺を知っているのか。だが、俺は知らない」

 ゴウラクは、状況を理解出来ていないのか、呆然と立ち尽くし、質問を投げかけた。

 質問の答えを聞く限り、シナズさんで間違いは無いが、シナズさんであるなら、ゴウラクを知らない訳が無い。

 ゴウラクは尚も立ち尽くしたまま、傍から見る限り放心状態で、そんなゴウラクの姿を見てなのか、モエルとサイキョーも、呆然としていた。

「防樹・壁《ぼうじゅ・へき》」

 皆を守るためにユウビは、相手と自分達を遮るようにして、樹の壁を造った。

 ユウビの能力は、樹木を生成し、自由自在に操れ、自らが触れている物、場所からも出せる。

「ユウビ、助かった」
「いえ、今のうちに逃げましょう」

「あぁ、そうだな。ゴウラク、しっかりしろっ!」
「あっ、はい、すみません」

 ゴウラクを呼び、モエルとサイキョーも集め、全員で飛んで逃げようとした時、ユウビの造ってくれた壁が、一瞬にして消え失せた。

 だが俺達は、壁が消える前に地上を離れ、既に上空にいる。

 このまま逃げられる気でいたが、考えは甘く、サイキョーと敵1人の、位置が入れ替わり、サイキョーを人質に取られてしまった。

 更に、一瞬の出来事で反応が遅れ、サイキョーと入れ替わった敵に、ゴウラクが触られ、意識を失ったように、地上へと落下していく。

 俺はゴウラクの元へ飛び、地面ギリギリでなんとか間に合い、助ける事が出来た。

 ゴウラクを揺さぶり、声をかけるが、目を覚まさず、気を失ったというよりも、眠っているように見えた。

 起きないゴウラクを、戦場からは、少し離れた場所に寝かせるが、サイキョーは人質に取られている為、俺達は4人しかいない。

 この状況で相手には、ゼロを筆頭に、シナズさんがいて、能力を打ち消す者、位置を入れ替える者、触れただけで眠らせる者もいる。

 足掻く事は出来るが、もし相手が本気を出したなら、奇跡が起きる以外に、助かる方法は無い。

「よぉイラフ、今ぁどんな気分だぁ?」
「俺の命を差し出す。サイキョーを助けてくれ」

「あぁん? 助けてくれ? 偉くなったもんだなぁ!」
「助けて…………ください」

 俺は、闘っても勝ち目は無い、逃げる事も出来ない、助けも来ない、この状況で、俺の命と引き替えに、サイキョーを助ける事しか、思いつかなかった。

「イラフさん……こんな奴殺してやりますよ」
「やめろ、モエル。何もするな」

「威勢のいいガキだなぁ。俺の所に来い、歓迎するぞ」
「黙れ。てめぇら纏めて、俺が殺してやるよ」

 モエルはそう言うと、足から火を一気に放出させ、目の前にいるゼロではなく、サイキョーのいる方向へ、飛んだ。

 シナズさんと、能力を消す者が、サイキョーを見張っているが、2人からの攻撃を躱し、サイキョーを取り返した。

「何やってんだぁ、シナズ? ムカ? 寝てんのか?」
「すみません、気い抜いてました」
「同じく」

 モエルはサイキョーと2人、後ろに控えていたシークのメンバーを、次々に倒していき、残るは、8人だけとなった。

 けれど、こちらはサイキョーが加わっても5人、不利な状況に変わりない。

「あぁ~あ、俺の仲間をこんなによぉ」
「後はてめぇらだけだ、覚悟しやがれ」

「おめぇにもう一度だけ聞く。シークに入るか?」
「今から無くなる組織に、入るもクソもねぇんだよ」

 モエルは啖呵を切り、全身に炎を纏った。
「モエル、絶対に闘うな」

 俺はモエルに、ゼロの能力は、ゼロに攻撃をしかけた、もしくは、しかけようとした者は、死ぬ能力だと伝えた。

「調子に乗りすぎだ」

 ゼロの能力を聞いても尚、モエルはゼロに殴りかかり、モエルを纏う炎は、儚くも消えた。

「モエル……嘘だろ……モエル…………殺してやるよ」
「サイキョー、止めてくれっ!」

 俺はサイキョーを抑え込み、アネシュがゼロと闘い、ユウビはアネシュのサポートに入った。

 サイキョーは能力を使い、俺から離れると、ゼロを目掛けて走った。

 俺もすぐに追いかけようとするが、シナズさんが、目の前に立ちはだかり、行く手を阻まれる。

 サイキョーの前には、ムカが立ちはだかり、サイキョーは倒され、地面に押さえつけられた。

「シナズさん、そこを退いて下さい」
「記憶が無い俺に、退く義理は無い」

「だとしたら、闘うしかないようですね」
「お前に用は無い。だが望むのならば、受けて立つ」

 俺は、シナズさんに違和感を覚え、戦闘を避け、上空へ逃げた。

 シナズさんを通り越し、サイキョーの元へ降下しようとした時、上空にいる俺の背後に、シナズさんが現れた。

 シナズさんは俺の首を掴み、ムカとサイキョーがいる場所へと、瞬間移動し、俺もムカに触られ、能力を使えなくなってしまう。

「ムカ、2人をしっかり見ておけ」
「はいよ」

 シナズさんはそう言い残し、ゼロに加勢し、アネシュとユウビも、ムカの元へ瞬間移動させ、能力を封じられた。

「おいおい、シナズ。何をそんなに急ぐ」
「もう、飽きました」

「ふん、つまんねぇ奴だなぁ。またなぁ、イラフ」

 命を取られる事は無かったが、シークの去り際、俺はゼロに殴られ、そこで意識が途絶えた。
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