きみの隣にいるだけで幸せだったと気づいたのは

haregon

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#8 屈託のない笑顔で

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これはまずい。

悠也は、反射的に足を緩めた。今日は車で来たから、いつもと時間が違っている。たまたま有季さんのいつも来る時間と、かぶってしまったんだろう。

どうしようか。

今後ろを振り向かれたら、有季さんはこちらに気づくだろう。そうしたらいきなり挨拶をしなければならない。

しかし、僕と有季さんとの間には、かなりの距離が空いている。こんな人前で大声で「おはよう」なんて、僕は言えない。挨拶をしなかったら、それはそれで教室に入った時に「おはよう」と言いづらくなる。

迷った結果、ちょうど通りかかった曲がり角を右手にそれることにした。学校とは逆の方向に歩く制服姿の悠也を見て、通りがかった人が少し不思議そうな顔をする。

「僕は今、忘れ物を取りに帰っているから逆方向に歩いているんだ」と自分に言い聞かせながら、その視線に耐える。

歩きながら、悠也は少し落ち込んでいた。挨拶一つするのに、こんなことまでしなければならない自分に対してだ。「おはよう」と屈託のない笑顔で挨拶が出来る陽太や幸大が羨ましい。

ふと顔をあげると、だいぶ歩いていることに気がついた。この辺りで一番の大通りが見えてきている。大通りといっても、普通の片側一車線道路で両側に店が立ち並んでいるというだけなのだが。

これ以上歩いたら遅刻してしまう。見られていないか周りをよく確かめてから、悠也はくるりと向きを変え、学校に向かいだした。

ここまでしたんだから、絶対に挨拶をしなければと心に誓いながら。


途中で遠回りをしたせいで、学校に着いたのは授業が始まる少し前になってしまった。教室内は、まだ集まってしゃべっている人は少数だ。ほとんどの人は自分の席へ戻って、授業に必要な教科書を準備している。

「悠也どうした。今日はやけにギリギリだな」

教室の入り口で、幸大が声をかけてくれた。

「ちょっと色々あって」

それに返事をしながらも、悠也の関心を別の所にあった。視線を自分の席の隣に向ける。有季さんは、席に座って1限目の世界史の教科書を出していた。

いつも一緒に喋っている今野さんはいない。悠也は、内心で大きくガッツポーズをした。有季さんと今野さんが一緒にいる時は、会話に割り込んで挨拶することになるので、難易度がぐっと跳ね上がる。

始業ギリギリになって良かったかもしれない。

そう思いながら、悠也は机と机の間を抜けて自分の席へ向かった。

________
続く……

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