隣国は科学世界 ー隣国は魔法世界 another storyー

各務みづほ

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後編

第十六章 友への置き土産-1

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 この世のものとは思えない、巨大な爆発があった。

 その巨大な爆発を横目に、三つの影が目的の船着き場へ向かっていく。
 王子とサヤが乗り込んだことを確認すると、ボルスは船を発進させた。

「ディルシャルク……!」

 王子は王宮を出てからずっと、爆発の方を向き祈っている。
 ここまで連れて来られたことも、これから何処へ向かうのかにも気が回っていないようだ。
 それはかえって助かった。何処へ向かっているのか知ったなら、多少なりとも抵抗されることが想像に難くないからだ。

 人知れず発進した船は、ボルスの魔力を動源に、北西へと向かっていく。
 進行方向の左手に、爆発の雲がキノコのような形を作っているのが見えた。そしてそのまわりを囲む巨大な竜のオーラも。

「いくらマスターでも……あんなことされては……」

 ボルスの呟きに、王子とサヤはビクリと身を震わせた。それぞれ異なる理由で。
 王子は友人の身の危険を感じ、不安でたまらなくなった。
 そしてサヤが、初めて目の当たりにした主人のオーラに感じたそれはーー恐怖だった。

 サヤがディルクに初めて会ったのは、竜の髭をつけた後である。
 内定は取り消されていたものの、次期東聖であることは誰もが認めていたし、オーラが大きすぎてその国宝をつけていたことも知っている。
 ここまで力を抑えなくてもとは少なからず思っていた。
 そして一年ほど前とうとう竜の髭を外し、宝石のサークレットに付け替え、王都からラクニアまでの転移も簡単に披露するのを見て、その魔力の美しさに感激もした。

「フィデス? 船酔いでもしたか?」

 はっと、物思いに耽っていたサヤはボルスに顔を向けた。酷い顔をしていたようだ。

「いいえ、大丈夫よ」
「……マスターの魔力に怯えたか?」
「……っ! 貴方は知っていたと言うの!?」

 ボルスは遠い空を見据えながら、初めてディルクに会った時のことを思い出した。
 もう八年も前になる王都主催魔法大会の決勝戦。
 僅か十一の少年の魔法に完膚なきまでに倒され、その圧倒的な力と精密さに憧れた。こんな魔法使いがいるのかと驚いた。
 上には上がいる、自分が井の蛙だったことを思い知り、もう一度基本から魔法を学び直し、そして従者となった。
 しかしその頃にはもう竜の髭をつけ、あの憧れた魔法を再び見ることは叶わなかった。

「自分は王都出身だからな。マスターが一時期そのオーラで、人に恐れられていたのを知っている」
「人に……恐れられる……?」

 サヤは首を傾げた。だって王都ではないか、東聖ではないかと。

「知らなかったか。マスターが人を寄せ付けない理由……王都では有名だが」
「わ、悪かったわね。田舎出で」

 彼女の反応にボルスは思わず苦笑する。そしてその理由を簡単に教えてくれた。

「マスターは、そのオーラで先代東聖シオネ様の孫を潰してしまっている。不可抗力によるものだが、以来誰とも距離を置き、深く人と関わることを避けていた。ライサ殿は本当に……特別だった」

 四聖や王子を除き、以来初めて自ら積極的に関わることを望んだ対象だった。

「マスター……が?」

 黙り込むサヤ。想像もつかない。
 サヤの知る王都の民達は皆、ディルクを信頼しきっているし、彼もいつも王都や皆のことを考えている。まさに尊敬できる理想の指導者だったのだ。
 ボルスの言葉が本当なら、どれだけの苦労と努力があったのだろうかーー想像もつかない。
 大量の責務にも関わらず魔法を極度に制限し、人々に恐怖を与えないよう努め、距離を適度に置き、誰にも頼らず責任を果たすーー今更ながら、本当の姿が見えてくる。

(私は……何も知らずにマスターに想いを……)

 あまりにも無知で愚かな行為だったと自覚し、サヤの顔は真っ赤になった。
 想いが伝わる筈などなかった。そして交際を断られたことに、今はほっとすらしてしまっている。


 ボルスは淡々と船を進め、王子は変わらず祈りを続けた。
 しかしずっと黙り込んでいた王子が突然嗚咽をあげる。
 ボルスもギクリと身体を硬直させ、消えていくマスターのオーラに驚きを隠せなくなっていった。

「マスター……!?」
「ディルシャルク……ああ、ディルシャルク……ううう」

 遠い空、あれだけ強烈だったディルクのオーラが収束し、そして最悪の爆発とともにパチンと弾けた。

「え、マスター……?」

 事態を即座に把握できず、呆然とするサヤ。恐怖を感じる程あったオーラがどんどん消えていく。
 ボルスはぐっと目を閉じ、唇を噛み締めた。

 オーラの消滅ーーすなわち、ディルクの死ーー。

 誰もがそれを認めたくなくて口を閉ざす。
 サヤの瞳に少しずつ涙が溢れてきた。
 彼の本来の魔力への恐怖よりもその悲しみに、絶望に打ちひしがれる。

「マスター……マスター、マスター!!」
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