49 / 64
後編
第十六章 友への置き土産-1
しおりを挟むこの世のものとは思えない、巨大な爆発があった。
その巨大な爆発を横目に、三つの影が目的の船着き場へ向かっていく。
王子とサヤが乗り込んだことを確認すると、ボルスは船を発進させた。
「ディルシャルク……!」
王子は王宮を出てからずっと、爆発の方を向き祈っている。
ここまで連れて来られたことも、これから何処へ向かうのかにも気が回っていないようだ。
それはかえって助かった。何処へ向かっているのか知ったなら、多少なりとも抵抗されることが想像に難くないからだ。
人知れず発進した船は、ボルスの魔力を動源に、北西へと向かっていく。
進行方向の左手に、爆発の雲がキノコのような形を作っているのが見えた。そしてそのまわりを囲む巨大な竜のオーラも。
「いくらマスターでも……あんなことされては……」
ボルスの呟きに、王子とサヤはビクリと身を震わせた。それぞれ異なる理由で。
王子は友人の身の危険を感じ、不安でたまらなくなった。
そしてサヤが、初めて目の当たりにした主人のオーラに感じたそれはーー恐怖だった。
サヤがディルクに初めて会ったのは、竜の髭をつけた後である。
内定は取り消されていたものの、次期東聖であることは誰もが認めていたし、オーラが大きすぎてその国宝をつけていたことも知っている。
ここまで力を抑えなくてもとは少なからず思っていた。
そして一年ほど前とうとう竜の髭を外し、宝石のサークレットに付け替え、王都からラクニアまでの転移も簡単に披露するのを見て、その魔力の美しさに感激もした。
「フィデス? 船酔いでもしたか?」
はっと、物思いに耽っていたサヤはボルスに顔を向けた。酷い顔をしていたようだ。
「いいえ、大丈夫よ」
「……マスターの魔力に怯えたか?」
「……っ! 貴方は知っていたと言うの!?」
ボルスは遠い空を見据えながら、初めてディルクに会った時のことを思い出した。
もう八年も前になる王都主催魔法大会の決勝戦。
僅か十一の少年の魔法に完膚なきまでに倒され、その圧倒的な力と精密さに憧れた。こんな魔法使いがいるのかと驚いた。
上には上がいる、自分が井の蛙だったことを思い知り、もう一度基本から魔法を学び直し、そして従者となった。
しかしその頃にはもう竜の髭をつけ、あの憧れた魔法を再び見ることは叶わなかった。
「自分は王都出身だからな。マスターが一時期そのオーラで、人に恐れられていたのを知っている」
「人に……恐れられる……?」
サヤは首を傾げた。だって王都ではないか、東聖ではないかと。
「知らなかったか。マスターが人を寄せ付けない理由……王都では有名だが」
「わ、悪かったわね。田舎出で」
彼女の反応にボルスは思わず苦笑する。そしてその理由を簡単に教えてくれた。
「マスターは、そのオーラで先代東聖シオネ様の孫を潰してしまっている。不可抗力によるものだが、以来誰とも距離を置き、深く人と関わることを避けていた。ライサ殿は本当に……特別だった」
四聖や王子を除き、以来初めて自ら積極的に関わることを望んだ対象だった。
「マスター……が?」
黙り込むサヤ。想像もつかない。
サヤの知る王都の民達は皆、ディルクを信頼しきっているし、彼もいつも王都や皆のことを考えている。まさに尊敬できる理想の指導者だったのだ。
ボルスの言葉が本当なら、どれだけの苦労と努力があったのだろうかーー想像もつかない。
大量の責務にも関わらず魔法を極度に制限し、人々に恐怖を与えないよう努め、距離を適度に置き、誰にも頼らず責任を果たすーー今更ながら、本当の姿が見えてくる。
(私は……何も知らずにマスターに想いを……)
あまりにも無知で愚かな行為だったと自覚し、サヤの顔は真っ赤になった。
想いが伝わる筈などなかった。そして交際を断られたことに、今はほっとすらしてしまっている。
ボルスは淡々と船を進め、王子は変わらず祈りを続けた。
しかしずっと黙り込んでいた王子が突然嗚咽をあげる。
ボルスもギクリと身体を硬直させ、消えていくマスターのオーラに驚きを隠せなくなっていった。
「マスター……!?」
「ディルシャルク……ああ、ディルシャルク……ううう」
遠い空、あれだけ強烈だったディルクのオーラが収束し、そして最悪の爆発とともにパチンと弾けた。
「え、マスター……?」
事態を即座に把握できず、呆然とするサヤ。恐怖を感じる程あったオーラがどんどん消えていく。
ボルスはぐっと目を閉じ、唇を噛み締めた。
オーラの消滅ーーすなわち、ディルクの死ーー。
誰もがそれを認めたくなくて口を閉ざす。
サヤの瞳に少しずつ涙が溢れてきた。
彼の本来の魔力への恐怖よりもその悲しみに、絶望に打ちひしがれる。
「マスター……マスター、マスター!!」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる