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冒険編
第二章 ラクニアの街-1
しおりを挟む最西端の街ラクニア。
魔法世界には都市と呼べるほどの大きな街が四つあるが、ラクニアはその中でも王都に匹敵するくらいの大きさを誇っていた。
街の周りには壁があり、街をすっぽり囲っている。壁の外の森や荒野から獣などが来ないよう守られているのである。
東西南北には街へ出入りするための門がそびえたっていた。
街の外、西聖ガルデルマの館は人里離れた森の中だった。曰く、街の外の方が落ち着くのだとか何とか。魔法研究のためには人里離れていた方がいいもんな、とディルクが呟いていたが。
二人は館で朝食までいただき、西聖の見送る中、特に何事もなく出発した。
だが、街の西門の前まで来て立ち往生する。
「もしかして通行証いるんじゃないの!?」
ライサは門のところに警備のような人がいるのを見て動揺した。
「何を当たり前のことを……」
ディルクは言いながら懐から通行証をとりだした。
まさか、おまえ持ってないのかーーと言いた気な顔である。
ライサはディルクの通行証を見て考え込んだ。
「ディルク、悪いけどそれ、貸して。ほんの少しだけ」
「……いいけど?」
ディルクの通行証を受け取るや否や、ライサは今来た森の方にむかって駆け出した。
森の中の木の陰で、鞄からノートパソコンをとりだし電源を入れる。科学世界から持ってきた彼女のパソコンはコピー、画像処理機能もついていた。
急いでディルクの通行証を付属カメラで取り込み、画像ソフトを使って直筆サインの部分を自分の名前に書き換えコピーする。通行証は幸いなことに紙だ。紙質を問われないことを祈るばかりだが。
これらの作業を迅速に行い、ライサはディルクの待つ門へと戻った。
「はい、ありがとう、これ」
ディルクの通行証を返す。彼は不思議そうな顔をしたが、別に貸した通行証自体に何も変わったところはないので、そのまま二人で門へと向かう。
幸い紙質は特に気にされず、内容を確認すると門番はすんなりと通してくれた。
大きな、とても賑わった街だった。
たくさんの人、様々な屋台には珍しいものもたくさん並び、ライサはお店の人に呼び止められては品物をじっくりと観察していく。
だが、買う気配は全くないので、ディルクはふと気づいたように彼女に聞いた。
「そういえばお前、お金あんの?」
「……ないわ。考えてみたら……」
「おい」
やはりというか何というか。怪訝な顔をするディルクに対して、ライサは軽く笑った。
「だーいじょうぶよ! 街なんだから。飛び入りの仕事くらいあるでしょ」
力仕事じゃなくて出来れば飲食店とかかなぁと呟きながら、仕事斡旋所を探す。
金くれ、とか言い出されなかったので、ディルクは少し感心した。
「じゃあ、そこの宿、待ち合わせな」
大通りに面した、わかりやすい宿。一流ホテルという感じもしない。
一日の稼ぎでも十分泊まれるだろう。
「わかった。じゃ、行って来るね」
その場でいったん別れ、二人はそれぞれやるべきことに向かった。
◇◆◇◆◇
「いらっしゃいませー! 十番テーブルお二人様入りましたー」
エプロンをし、お盆を持ち、笑顔でお客を迎えるウエイトレス、ライサ。
彼女は宮廷で王女の侍女として働いていたので、こういう仕事は一通りできる。
魔法使いを観察しながら、手際よく仕事を片付けていった。
「あんた、器用やねぇ。ほんま助かるわ」
お店のおかみさんに誉められる。
もちろんこの店にはライサのほかにもウエイトレスは何人かいたが、少し仕事ぶりを見ると、ライサもおかみさんの言葉がわかってきた。
魔法使いはなんでも魔法に頼ろうとするーーどうやらこの認識は合っていたようなのだ。
ディルクは最初の雷撃による魔力消費が激しかったーーという本人の言により、あまり魔法を見せなかったが、新米と見て取れるウエイトレス達は、つい仕事に魔法を使おうとしてしまう。
そして、みんな魔法に頼るせいか、料理を運んだり細かい作業が下手なのである。
それなら魔法で仕事すればいいではないかとも思うが、ベルトコンベアの飲み屋は嫌なのと同じことなのだろう。
もちろん厨房や洗い場では、皆魔法をがんがんに使っており、ライサは今日一日だけでも随分と魔法というものを見ることが出来た。
最初はギクリとしたものだが、数を見ていれば少しずつ慣れてくる。
怖いことや危険なことをしているわけでもない。
要するにライサの世界で普段道具や家電等を使うところを魔法を使っている、究極的にはそんな印象だった。
慣れてしまえばどうということはない。
むしろ、一体どうしてそんな現象が起きるんだろうという興味さえ出てくる。意外に解析や研究をしてみたら面白いかもしれないと。
(法則性とかありそうよね。もうちょっとこう……きちんとした魔法が見られるといいんだけど)
生来の研究好きの血が騒ぎ、思わず凝視しそうなるのを慌てて堪える。
所々でチラ見をしながら、ライサは与えられた仕事を次々とこなしていった。
◇◆◇◆◇
夜、ディルクの言った宿屋にライサは戻った。一日中働いたのでくたくたである。
そのおかげで宿代、食事代くらいは余裕で出せるほどのお金ができたが。
「ただいまー。はー疲れた」
「おぅ、おかえり!」
ディルクがマントを羽織りながら応えた。外出をする準備をしている。
「大繁盛だったみたいだな。これから飯に行くけどどうする?」
一人調査のために街を歩いていた彼は、偶然お店の前を通りかかり、彼女の働き振りを見かけて少し感心していた。一杯くらい奢ってやるぞーと気前がいい。
「行く行く! もーおなかぺこぺこよぉ」
「はりきりすぎだ、ライサは!」
「何事にも一生懸命なのよ」
そんな会話をしながら、二人は大通りから少し外れた料理屋に向かった。
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