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冒険編
第六章 ベコの食料庫-1
しおりを挟む「なにーっ!」
そんなディルクの声で、ライサは夢から目覚めた。
どこだろうーーひどく頭がぼーっとする。確かダガーにつかまり、危機のところをディルクに助けられ、いろいろな話をしてーーそこから記憶がなかった。
「ってか、それ、お前の仕事じゃねーのか、ドパ?」
ライサはベッドからゆっくりと起き上がった。どうやら宿の一室らしい。
少し離れたところに机があり、ディルクがその机で誰かと会話をしていた。
ライサには僅かな光しか見えないが、ガルとも話していた通信魔法である。
突如、ディルクが見つめていた空中から、一枚の紙が現れた。彼はそれを受け取り、また同じところを見つめる。
科学世界で言えば電話やFAXのようなものだろうか。
「あーわかったよ! やりゃいんだろ、やればっ! じゃーこれ終わらせたら行くからな、ネスレイに言っとけよ!」
言い終えると同時に空中の光は消滅し、ディルクは視線を外した。そのまま少女のほうを振り向く。
「お、ライサ、ようやく目が覚めたか」
ディルクは軽く笑った。まだ呆けているライサに更に続ける。
「なにぼーっとしてんだよ。ま、無理もないけどな。お前、三日間ずっと寝こけてたし」
「三日っ!?」
これにはさすがにライサも驚く。
確かに最近ずっと睡眠をまともにとれていなかったのだが、三日まるまるは新記録である。
ディルクが呆れるのも無理はなかった。
「ちなみにここはベコの街。お前も起きたし、さくっと進みたいところなんだがーー」
苦笑しながら、手に持っていた紙をぴらぴらと振る。
「タイミング悪いな。一つ仕事入っちゃってさ。今日丸一日かかりそうなんだが、お前どうする?」
「どうするって……」
寝ぼけた頭で考える。
全く知らない街でもあるし、一人で歩くには少し不安だった。ようやくダガー・ロウの元から脱出したばかりなのである。
かと言って、この宿にずっといるのも気が滅入る。
何よりしばらく一人でいたくなかった。
「ついて行ってもいい?」
「俺の仕事に? まー別にいいけど」
もとよりディルクも、ライサを一人にするのは迷っていたところであった。
特に危ない仕事というわけでもないし、話したいこともあるし、街も案内できるーーそう思ったディルクは、一緒に連れて行くことにした。
二人は荷物をまとめ、早速ベコの街にくりだす。
◇◆◇◆◇
「わー、やっぱりちょっと寒いねー」
上着を着て出てきたが、ラクニアと異なりまだ春先で風も冷たい。
二人は開店準備中の商店街を、少々急ぎ足で奥へ奥へとまっすぐ進んだ。
先にはなにやら不思議な建物が建っている。ラクニアでもこの街でも珍しいドーム型の建造物で、窓は見当たらない。
そこへ向かっているようにも思える。
歩いているうちに徐々に体が温まり、余裕がでてきたライサは、隣で場所をチェックしているディルクに話しかけた。
「そういえば、なんの仕事なの?」
ディルクは足を止めずに答える。
「食料庫の魔法陣の点検だよ。この付近はまだ終わってないみたいでな」
「食料庫?」
北の街ベコは、年間を通して平均的に気温が低く、当然作物も育ちにくい。
だが、そんな地でも人々が生きていけるよう、食料庫のシステムがあった。
短い夏の間に大量に作った食物は、まず役所が全て買い取り、そのブロック毎に置かれている食料庫に収め、市場で少しずつ一年かけて商人に卸すのである。商人は仕入れた食料を、自分の店で近所の民に売ることで儲けていた。
食料庫は巨大な魔法陣が敷いてあり、時間の流れが止まっている。それゆえ、野菜も新鮮なまま保存することができるし、腐ることはまずないという。
ライサはディルクの説明を聞き、かなりの興味をそそられた。
時間を止める科学はない。どんな物か見てみたい。
「それで、たまにネスレイに頼まれたりして、点検してるんだよ」
「ネスレイ?」
「ネスレイ・バウワー……北聖さ」
食料庫をつくったのは古代の北聖だという。
それ以来、代々北聖が定期的に魔法陣の点検をしているのだが、四大都市の一つであるベコの街は住民も多く、食料庫もかなりの数になる。
そして街の人々の命の源ともいえる食料庫の魔法陣の管理を、誰にでも任せるなんてできない。
最近は、当の北聖ネスレイ本人と、その執事ドパがその責務を負っているようだが、たまに個人的指名にて依頼することがあるようだ。
「ちなみに、後でそのネスレイのところに寄るからな。一緒に」
「えっ!?」
「えっ、じゃねぇよ。ガルにも言われてんだ。四聖全員のところに顔だせって」
「そ、そう、よね。異国人だものね……敵国の」
ラクニアの爆弾事件に加え、軍のことまでバレているのだから、自分だってもう指名手配並に危険視されていてもおかしくないという考えに至り、ライサは身震いした。
「いやいや別にとっ捕まえるわけじゃないし。てか、それならここにいるのは俺じゃなくて兵士だし、繋がれてもないだろ?」
俺は兵士じゃないしな、と苦笑しながら言うディルク。
「ぶっちゃけお前が異国人って知ってるのは、四聖と王子とその側近、プラス一人くらいかな」
だから大っぴらに科学使って、自己紹介とかしないでくれよと念を押す。
意外に少数だ。しかし、
「お、王子様に報告済みなのっ!? そそそれにプラス一人って!?」
国王の名が出てこなかったところはホッとするライサだが、それにしても宛先当人にまで知られているとは。
「言っておくが俺じゃないぞ。ガルが報告してるってことだ。プラス一人に関しては今度話す」
そうだ、四聖とは宮廷魔法使いのことだ。報告しない筈がないではないか。
言いようのないプレッシャーを感じて、ライサは今更ながら緊張する。
「それよりも、もうひとつ話しておきたいことがーーって大丈夫か? 顔色悪いぞお前。待ってるか?」
見れば、いつの間にかその商店街の食料庫の前に到着していた。
ライサは呼吸を整え、大丈夫とだけ返す。
こんなところで休んでいられない。この食料庫にも興味があるのだ。
ライサはまじまじとその建物を見つめた。
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