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復興編
第二十四章 残る傷跡-1
しおりを挟む学会会場から離れ、三人は静かな一本道にさしかかった。
まわりにはたくさんの木々が生い茂っており、遠く小さく、立派な建物が建っているのが見える。
王族用の別荘だ。
ライサも以前ここに来たことがあった。一緒だったのは彼女の慕う王女とではあったが。
他には建物どころか人すらいない。
ライサの後ろにいたダガーは前にまわり、ヒスターに挨拶をしてこちらに笑みを浮かべると、気を利かせたのか、さっさと去って行った。
ライサはヒスターと二人きりになる。
ヒスターが彼女のほうを振り返り、ゆっくりと近づいて来た。
「ご無事で何よりでした、博士殿。ご存知のとおり我ら王族は殆ど行方しれず……大体亡くなってしまったと考えてはいますがね……しかしわたしは生き残った。そして、この国を守らねばならない」
ヒスターは一気にそれだけ言い終えた。
ライサの中を不安が過ぎり、思わず身構える。ヒスターが近づいた分だけ後ずさる。
「……貴方は、わたしの何でしたかな?」
眉をひそめてヒスターが問い掛けてきた。
ライサの心臓が悲鳴を上げる。悪夢がよみがえってきた。
ナターシャを使ってまで、ライサを誘き寄せたことからも想像はつく。
この新国王陛下は、ライサとの結婚を全く諦めていないのだ。
ヒスターは冷たい笑みをうかべながら、なおも近づいて来た。
辺りに人はおらず、王族用別荘の敷地内。大声をだしても無駄だった。
「この世界を建て直さなければならないのは、貴方にもわかるだろう?」
新国王から目を離さずライサが後ずさっていくと、背中に何かがぶつかった。別荘の敷地を囲う、高くて丈夫な塀だ。
だがなおも横に逃げようと、ライサは壁を背中で這うようにつたって行く。
「貴方は、この国の王妃として迎える」
ヒスターの言葉にーーしかし彼女は精一杯首を横に振り、拒絶の意を示した。
「私は国王だ! 拒否は認めん!」
バンッとヒスターはライサの顔の両側に手をついた。
後ろは壁で、八方塞がりとなってしまう。今度こそ逃げられない。
ヒスターの顔は怒りに満ちていた。
「言え、ライサ・ユースティン! 私の妻になると!」
彼はライサの両腕を強く掴み上げ、塀に押し付けた。彼女に抗う術はない。
ただただ「お許しください、ヒスター様」と涙を浮かべながら訴えるだけである。
ヒスターは彼女の顎を掴み、顔を自分の方に向けると、最大限に嘲り笑い出した。
「許せだと? これは面白い。散々武器をつくり、兵器をつくり、人を見殺し犠牲を増やした貴方に、許す者などいるのかな?」
「……っ!」
ライサは今度こそショックを抑えることが出来なかった。
塞がりかけていた傷が悲鳴を上げる。
せめて泣くまいと思っていたのに、意に反して大粒の涙がぼろぼろ零れた。
抗う気力も消え失せ、ヒスターにされるがまま、またあの激しい吐き気がこみ上げる口付けをされる。
気持ち悪い、苦しいーーあの時のように感覚も麻痺してくれなかった。
「!!」
そして彼はあろうことか、物陰に彼女を連れ込み、その場で強引に衣服を脱がせ始めた。
記憶がフラッシュバックする。前にもこんな仕打ちを受けなかっただろうか。
服を脱がされ、あちこちキスをされ、それからどうだったーーと。
「ひ……っ!」
首筋に唇を這わせたヒスターは、以前は何の反応もなかった彼女が悲鳴をあげたのに、激しく興奮を感じた。
強引にブラウスを引き裂き、胸を覆うその下着に手をかける。
しかし、その時だった。
ビシッと何か鈍い音がしたような気がした。
ライサは不快な感触とこれからの悪夢を想定して固く固く目をつぶっていたので、何が起こったのかいまいちつかめない。
やがて、自分の両腕の拘束が徐々に緩み、ほぼ同時に重いものが落ちる感じが伝わる。
そしてため息の気配がする。
誰か、来たのだろうかーーそう思った時、ありえない声が聞こえた。
「何やってやがるんだ、てめぇは!!」
ライサは瞬時に目を開いた。
しかしその光景をーー自分の目を、信じることが出来なかった。
そこには懐かしい顔がーーいないはずの顔があったのだ。
「ああくっそ! 胸糞悪ぃ! おいお前、覚悟は出来てんだろうなぁ、あぁ!?」
後ろから手刀をくらい、目の前に倒れこんだヒスター新国王は、一人の鬼の形相をした同じ年頃の若者に首筋を掴まれ、罵倒を浴びせられ、そしてあろうことかボコボコにされていく。それもシンプルな拳の力で。
そして気が済んだのか、その若者はヒスターを放り捨てると、ライサの方に向き直り、着ていたジャケットをかけながら声をかけた。
「大丈夫か? 悪いな、ちょっと遅くなった。……ったくホント、なんだこのくっそ国王!」
チェックの長袖のシャツを肘まで捲り、ベストにパンツという学生風の装いをしたその人物は、まだ似つかわしくない罵倒の声を容赦無くあびせていた。
だが、そんなことはライサにはどうでもよかった。
服を直すことも忘れ、目の前の人物に呆然とする。
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