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復興編
第二十五章 各々の一歩-1
しおりを挟む「おお、よく戻ってくれた、ディルク君!」
「えええ――――っ!」
ヴィクルー教授の声とライサの声が同時にハモった。
列車が到着して朝食を軽くとりながら、二人がまず向かったのは大学だった。
駅で別れず来て欲しいと言われ、迷わずどんどん進むディルクに、ついて来たところがここだったのだ。
「なんで、ディルクが先生と知り合いなの!?」
苦笑いしながらディルクはいきさつを簡単に話した。
なんと、重症だった彼を見つけ、今まで面倒をみてくれたのが、当時クアラル・シティのセキュリティ担当についていた教授だったという。
彼は街の近くの丘で発見され、すぐさま大学病院に収容された。
最初の一ヶ月くらい、目を覚まさなかった。更に動けるようになるのに三ヶ月くらいの月日を要した。
それでも懸命にリハビリを続け、とうとうここまで回復したのである。
回復してから、特に行くあてもなかった彼は、何気なく教授の傍らで雑務をこなし始め、元々の教授の住まいのあるこの街に移ってきた。
それが今までの彼の経緯だった。
「全く、ホントに教授は人使い荒いんだから」
やれやれといった顔でディルクは言った。
まわりには驚いた表情のヤオスとナターシャがいる。
教授はにっこり笑いながら、改めてライサに挨拶をした。
「とにかく、無事で何より、ライサ博士。久しぶりだね」
「あ、はい! 本当にお久しぶりです、先生! そして、助けていただいてありがとうございました」
ライサも深くお辞儀をする。
これ以上なく嬉しかった。自分が助かったことよりもーー。
(本当に、ディルクを……助けていただいて……)
そっと心の中で呟く。その場にいた全員が、本当の意味を取り違えていたに違いない。
ナターシャは、ライサと教授が握手をするのを見ながらジト目で呟いた。
「教授……ちゃっかり助けに行かせていたんですね。内緒で……」
はははは、とから笑いをしながら、教授は傍らのディルクに問い掛ける。
「君が、博士と知り合いだったとはね。確か……」
「ああ、リーニャとも、知り合ったのは同じ頃なんですよ」
「え、リーニャ?」
何故ここで彼女の名を聞くのだろうとライサが首を傾げる。
すると、ディルクがとんでもないことを言った。
「俺も驚いたんだけど、ライサ、リーニャがここに来てる」
「えええええええーー!」
ライサの驚きの声は、再び廊下の端まで響き渡った。
◇◆◇◆◇
「ライサ! うひゃーライサやぁー! また会えたなぁー」
教授のお宅に伺うと、リーニャがすぐに気づいてとんできた。
もう一人、十二歳くらいの少年もいる。
「ちょぉ痩せた?」
「リーニャは大人っぽくなったわね! そか、もう二年近く経つのかぁ」
ライサにならって後ろからヤオスやナターシャ、教授にディルクも続いた。
どうやらこの子供達を知らないのはヤオスだけらしい。ナターシャが笑って説明した。
「ああ、二人とも魔法使いよ。教授の家に引き取られていて、研究のお手伝いをしてもらってるの。男の子がキジャ、女の子の方がリーニャ。キジャは上級魔法使いの血をひいてるんだって」
言って彼の額を指す。額が隠れるほどのバンダナをしていた。なる程、上級魔法使いだ。
ヤオスは思わず一歩退こうとする。魔法使いに対し、彼も多少なりとも警戒心があった。
かくいうナターシャも最初は警戒しており、キジャにも同じく科学に対するそれがあった。
だがそれも、リーニャが来て、更にディルクと続いてから一変する。彼らには科学にも魔法にも、警戒心の欠片も偏見もなかった。
ナターシャも他の学生達も、徐々に警戒心が薄れていったのだ。
「いやはや、それもライサ博士のおかげだな。貴方が魔法世界に行っていたから今があるのだよ」
教授はクアラル・シティの任を請け負って一通りこなした後、別に王女の依頼を受けてラクニアへ行っていたという。
助教授達と共に、たった四人でウイルス対策をしていた折に、リーニャと知り合い、望むままに連れて来たのだと。
ライサはそれを聞き、再度教授に頭を下げる。ウイルス兵器のことを知りながら防げなかった彼女に代わり、動いてくれていたことに感謝する。
リーニャの母親のこともお詫びのしようがなかった。
しかし、恨まれていると思っていたリーニャも、科学世界に来て、教授の元いろいろ知り、考えるところもあったのだろうか。ライサに対する態度は前と何ら変わりがなかった。
ライサは思った通り、表向きのみならず裏であちこち動いていただいていたのだなぁと感心する。
「兵器開発は貴方に任せ切りだったからね。比較的動きやすくて助かった」
適材適所だと慰められる。
ちなみにもう一人の宮廷博士ブルグは、兵器開発で研究所に籠ったライサに代わり、主に王宮の任に就いていたという。
隣国との取引や経済の立て直しに加え、彼は彼でサーバーのアクセス記録を操作したり、情報を婆やや王女に流したり、軍事関連のチェックなど細々と援護をしていた。
もう一人の魔法使いの少年キジャを保護したのも彼だ。
また、現在進行形で王都の情報を伝えてくれているので、後でライサにも情報が行くよう手配しようと教授は言ってくれる。
ライサは、気づかぬうちに、お二方にはお世話になっているのだと、胸がいっぱいになった。
「へぇ、すっごいな、宮廷博士ってのは。すげぇなぁ、ライサ」
ディルクがひどく感心して声を上げた。
すると教授に、まだまだ若僧には負けはせん、がっはっはと背中を叩かれる。
ライサはそれをとても眩しそうに眺めていた。
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