96 / 98
復興編
第三十章 新世界宣言-2
しおりを挟むそんな王子を眺めながら、ディルクが感心したように傍の王女に呟いた。
「しっかし、よく両地方まとめましたねぇ」
両地方が互いに移動して陸地自体が合併したのはともかく、陸がくっつこうと、他民族がそう簡単にわかりあえるとは思っていなかった。
確かに田舎すぎて徴兵も少なく、他民族か否かよりも他所者か否かという感覚で、科学や魔法自体の偏見は少ないのかもしれない。
しかしなぁと考え込むディルクに、王女は笑って応えた。
「ふふ、あの人、魔法はあまりうまくないけど、人望だけはあるから」
あっけらかんとした返答に、ディルクはうーんと唸りながら「確かに」と、苦笑する。
おそらくこの王女がいたことも大きいのだろう。
科学の知識が極上でなくとも、人々の上に立つうえでの彼女の統率力と行動力、包容力は王子に引けをとらない。
王女は苦笑するディルクを眺め笑みを浮かべると、今度はライサに目を向けた。
そして彼女の感情が以前のように戻っているのをしみじみと確認すると、あらたまってディルクに向き直り頭を下げる。
「いろいろありがとう、ディルシャルクさん。ライサのこと、これからもよろしくお願いいたします」
「ひ、姫様!? ちょ、なに仰ってるんですか! 顔上げてください! わ、私は姫様が一番っ!」
ライサは突然のことに驚いて、顔を真っ赤にさせながらも慌てて止めにかかった。
王女に頭を下げさせるだなんて、なんということだろうと。
限りない自己嫌悪と同時に、もうこの上なく照れくさい。
すると、ディルクがライサの後ろにまわり、彼女の肩に手を乗せ、かしこまる王女に朗らかに伝える。
「しかと承りました、シャザーナ姫。お任せを。今後とも是非ご期待ください」
「ちょちょ、ディルクも! も、もうっ、大体、お任せって、ご期待って何ーー!」
沸騰しそうなほどライサの顔が紅潮する。
一方、王女とディルクはそんな彼女の反応を見て顔を見合わせると、更に調子に乗ってきた。
「ほらライサ、折角の姫様からのご期待、裏切らないようにしないとな!」
「そうよ、ライサ。ディルシャルクさんもこう仰っていらっしゃるんだから、頑張るのよ」
「えっ、ええっ!」
それは以前から慣れ親しむ者たちのノリそのもので。
だから何をーーというライサの叫びも虚しく、周りのざわめきの中に消えていった。
◇◆◇◆◇
賠償金の返還はなかったが、科学世界メルレーン王国は、魔法世界オスフォード王国に奪われた土地を取り戻し、両軍は実に二年半ぶりに完全撤退を果たした。
王女と王子はその後、あらためて各々の国王に挨拶、そして今後の方針の話し合いなどするため、休む間も無くあちこち飛び回っている。
敵国との交渉、取引、探り合いーー生まれが生まれなだけに、知り合いや親族が相手であることが多く、それは王子や王女にとってとても勇気のいることだった。
突拍子もないことをした自覚もあるし、驚き、呆れ、見下され、怒りに斬りかかられるかもしれないと。
それでも二人は不安や危険など微塵も感じることはなかった。
最愛の配偶者と共に、最強の友がずっと一緒にいてくれる。
今まで安全な場所に隠れていても不安は尽きなかったのに、なんという心強さだろう。
王女と王子ーーいや、新国王とその王妃は、躊躇うことなく本来の力を発揮していった。
新国王一行は、一週間ほどかけて両世界へ一通りの決着をつけ、セディーユの別荘へ帰ってきた。
「あ、ライサ! ディルク兄ちゃーん!」
一番に気づいたリーニャが手を振って駆けてくる。
キジャ、サヤ、それにヴィクルー博士をはじめ、研究室メンバーや合流したブルグ博士、そして赤子を抱いた婆やと、次々に集まってきた。
新国王組は緊張続きだったが、変わりない馴染みの顔に、ようやくほっと肩の荷を下ろす。
久しぶりに皆に笑顔が戻り、別荘の庭は時を置かずすぐに賑やかになった。
「兄貴ーじゃなかった、ディルシャルク大先生、おかえりなさいませっ!」
「よぉキジャ、変わりないな。どうでもいいが、その呼び方やめような」
ディルクが苦笑して、それから炎子は無事だと伝える。
キジャは感極まって涙が溢れそうになり、慌ててゴシゴシ目をこすった。
ディルクはそんな彼を眺め、傍らのサヤに目を向ける。
「キジャ、額治ったんだな。ありがとな、サヤ」
「いいえ、でも元来の彼の魔力が思った以上に大きかったようでして」
バンダナで抑えきれず、小さな宝石を繋いだ鎖でなんとか凌いでいる様子だ。
キジャもディルクの額のサークレットにたくさんの宝石が埋め込まれているのを見て、ほへーと感心した声をあげる。
ディルクはぽんっと手を打つと、そうそうと言いながらキジャの額に手をかざした。
「炎子フラムから預かった。しっかり勉強しろよ、って言伝な」
言うとキジャの額の鎖が消え、代わりにしっかりした作りの銀のサークレットが現れる。
上質なガーネットがひとつ輝いていた。
キジャはそれに手をやると、「父ちゃん……」と呟き、顔を隠して海の方へ一目散に走り去ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる