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次世代の領主
第四話 領主の恋人
しおりを挟む「あれ、カイン、その姿……」
「ったく、何やってるんだ。てか、シアを投獄なんて俺がさせない」
「だ、誰だ!?」
イギルが一人ずさっととびずさり、防御魔法の構えをとる。
「もしかして、領主様ですか? ……初めてお見かけしますが」
対して少年の母親が恐る恐る声をかけると、カインはすっと立ち上がり、彼女に丁寧に挨拶をした。
「お初にお目にかかります。第六領主カイン・ドーウェルと申します、ミセス……」
「サー・ドーウェル……はじめまして。イギルの母、エリス・エディネスと申します」
シアとイギルはポカンとしながらそんな二人を眺めた。そしてふっと我に返って問いかける。
「カイン、ヴェルドさんとお話終わったの? それにその姿……いいの?」
「んー……この城では変化解くことにした。まぁいろいろと……もう、この城の連中にはバレてるみたいなんでな」
「城の者一同、第六の領主様がいらっしゃるというお話は伺っております」
「……そーなんだ」
ただ一人、初耳だというイギルに、母エリスが説明をする。イギルは母の言葉を聞きながら、カインをチラチラと驚いた目で眺めていた。
そんな母子に苦笑しながら、カインがシアに向き直る。
「それより、何遊んでるんだよシア。飛行練習するんじゃなかったのか」
「だ、だってあの子が馬鹿にしてきて!」
「あー……確かに今のシアの飛行魔法は、見てられないほど下手くそだ」
スパッと言い切るカインに、シアは怒りと恥ずかしさで顔を赤らめながらも、何も言い返せず口をパクパクさせた。
そんな彼女をそのままに、カインは今度はイギルの方へ手を差し出す。イギルはいまだ躊躇いつつその手を握り返した。
「教育係を頼まれたカインだ、よろしく。えーと、イギル?」
「い、イギル・エディネス、六歳三ヶ月……えっと、ドーウェルって……」
「あー……ルカ・カランダル……もといルカ・ドーウェルの弟だ」
「「ルカ様の!?」」
エリスも初耳だったのか、母子の声がハモる。シアはそんな様子を眺めながらそっと息をついた。
(私の時と態度が全然違うじゃないの、もう……そりゃ、仕方ないけど)
カインは続けて淡々と、ヴェルドからイギルの魔法指導を任されたことを説明した。
エリスは心底ホッとしたような顔をし、涙さえ浮かべている。イギル本人も、カインの実力がわからずともその肩書きに、借りて来た猫のように大人しくなった。
「……で、このおねーさん、シアは一応お前の先輩だから。仲良くとは言わんが、喧嘩とかしないよーに」
「ええ!? このババア……っとねーちゃんが!」
シアのひと睨みで、慌ててイギルが訂正する。
そんな二人をカインはそっと観察した。仲は良くないながらも、この短時間でここまで相手の欠点を指摘し合うなど、相性は悪くないようにも思える。
「……シアも。俺いない時とか、頼むな」
「えーしょーがないなー」
「俺が! 面倒なの! 下手くそと一緒とか最悪だ」
シアが拳を握りしめ容赦なくイギルの頭をグリグリしつつ了承すると、カインは少年に目線を合わせて言い聞かせた。
「イギル、言葉悪いぞ。あと無闇矢鱈に攻撃魔法を人に向けない」
「……ちぇ」
「俺は態度悪い馬鹿に、魔法はこれっぽっちも教えないからな」
「えっ……! わ……ワカリ、マシタ……」
イギルが悔しいながらもなんとかそれだけ言い切ると、カインはにこりと笑ってその頭を撫でた。
頭を撫でられるーー領主とわかってから母ですらしてくれなくなったその行為に、イギルは思わず涙が溢れそうになりーー慌ててぶんぶんと頭を振った。
一瞬微妙な雰囲気になりかける。
「あっ、お茶の用意、みんなの分もあるみたい! カイン、みんなでお茶しようよ!」
シアがそんな雰囲気をものともせずに明るく声をかける。彼女が指し示した方、美しいガーデンのテーブルには、アフタヌーンティーのセットが四人分、綺麗に並べられていた。
紅茶を一杯ずつ、並んだお菓子を一通り食べて一息つくと、母エリスはイギルを伴い、何度も何度もお礼を言いながら早々にその場を後にした。
もう少し皆で話をしたかったイギルが不服そうに母を見上げると、エリスはしゃがみ、目線を合わせてそっと息子に言い聞かせる。
「よかったわね、イギルちゃん。でもなるべく気を利かせて、二人にしてあげるのよ」
「えっ」
「シアさんは、第六領主様の最愛の魔女さんだから」
「マジで!? あんな下手くそ魔女が……っとと」
イギルが驚いて遠目に見やると、二人きりになって落ち着いたのか、先程よりリラックスして楽しそうに笑い合っている姿が見えた。
その様子は子供のイギルが見ても、確かに恋人同士にしか見えない。
「……魔法が上手くないのも、仕方ないのよ。シアさんがこの村に来たのは僅か三ヶ月前なのだから」
「三ヶ月!?」
何十年ぶりかの外から入門してきた魔女ということで、シアが村中の噂になっていたのをエリスは知っていた。
その魔力を、他の村の領主からだとか、精霊の恩恵だとか皆いろいろ推測していたが、第六の領主という存在を知ってしまえば、何があったのか容易に想像がつく。
「……シアはじゃあ、今まで魔女じゃなかったってことなのか。うはぁ……」
おかしいとは思っていた。魔力はありそうなのに、全然使えていないことが。あれでは暴走しても不思議ではない。
そして外からの入門がどんなに難しいかも聞いたことがある。
領主と言えど、そんな暴走しそうな程の魔力など、そう簡単に与えられないことも。
「領主の……恋人……なのか、特別の……ルカ様と、ヴェルドさんみたいな……」
「ふふ、いつかイギルちゃんも、そんな人に出会えるといいね」
イギルは部屋に戻ってからも、二人の幸せそうな姿がずっと頭に焼きついて離れなかった。
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