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捜索
11 掃討作戦
しおりを挟む早朝。
一夜のキャンプを引き払い、ヤヨイたち一行「第二次探索隊」、その実は「第一次探索隊の捜索隊」は西を目指した。
針葉樹の森を抜けると紅葉したまばらな広葉樹林に入った。視界が広がり、敵情を見やすくなったが、半面向こうもこちらを視認しやすくなるわけだ。
まだアランは何も感じていなかったが、念のためリーズルとビアンカ二人のスナイパーには銃を、新入りの偵察兵二人には短距離用のkleine Größeクライネグローサー・グラナトヴェルファ―(擲弾射出機)をいつでも射撃可能な状態で準備させた。
先頭でヤヨイはシェンカー大尉と並んだ。
「ひとつ腑に落ちぬ点があるのだが」
「なんでしょう、大尉」
背後から遠い爆音が響いてきた。今日朝一番の偵察機が次第に大きなエンジン音を轟かせて頭上を通過した。
大尉はそれを見上げつつ、言葉を継いだ。
「オレは飛行機には疎いが、見たところそれほど高度は無いように思うのだが、上からでも住民の在不在は視認しにくいものなのだろうか」
「ええ。高度は200mほどですから、居れば見えるのですが」
「それでもわからんのか」
「航空偵察が始まったころは彼らも物珍しかったらしくてこっちを見上げていたりもしたんですが、最近は爆音が近づくと隠れてしまうんです」
「なるほどな。理解した」
すぐ後ろについているハンナが背負った通信機がガーと鳴った。
スピーカーが、たった今通り過ぎていった偵察機の通信を送って来た。
――雛鷲14よりマルス! ――
「ハンナ。教えた通り、応答してあげて」
「Jawohl! (了解!)」
見よう見まねながらも、ハンナは急速に「帝国兵」になりつつあった。その一生懸命さが、なんとも可愛い。ハンナはハンドマイクを取ってカフを押した。
「こちらマルス! 雛鷲14、どうぞ」
――カザンの村を通過した。敵影無し――
「マルス、了解! アウト」
ハンナの無線を聞いていた大尉がヤヨイにウム、と頷いた。やはりだな、と。そして再び口を開いた。
「ドンのクンカーを襲撃した騎馬隊の総兵力はまだ不明だが、数千の騎馬隊となれば、その補給だけでも大事業になる。となると、輜重部隊を率いているか、ヴォルガ北岸の近隣部族の支援なしには作戦行動などできまいからな」
「仰る通りです、大尉。我が帝国の草創期のように、野生馬の群れが生息できるような大草原のある環境ではありませんからね」
ヤヨイもまた、周りの枯れ枝ばかりの林を見回した。
「どんな人物かはまだ未知数ですが、その騎馬隊を組織した者は、もう相当程度北の部族を支配下に置いているのでしょう。そうでなければ、これほどの騎馬の大軍は維持できません」
「そういうことだな」
慎重に歩を進めたとはいえ、たった8騎と12頭の荷駄馬の隊列である。行軍は速かった。
昼頃には第一次探索隊の第一通報地点北側約20㎞ほどを通過し、シビルの里から約100㎞ほど西の大きな村カザンを遠く望めるほどの高台に着いた。
そこは広大な盆地で、中央に小さく見える集落はシビルの村同様に石垣で廓(くるわ)れていた。周辺の広い麦畑は全て刈り取られ、恐らくは種まきも終えているだろう。
「羊が見えるわ! 」
双眼鏡を構えたリーズルが叫んだ。
「うん。人もいるな」
アランは双眼鏡も使わずにニンマリとほくそ笑んだ。
ヤヨイも双眼鏡を向けた。村のあちこちにチラチラと人影が見えた。偵察機が行ってしまって安心して表に出てきたものと思われた。
「やはり、だな」
シェンカーがつぶやいた。
「はい」
ヤヨイは馬を降りた。
「当初の作戦通り、この村は無力化します! 」
「わかった」
そしてヤヨイは命令を下した。
「ディートリヒ、カミル! Vorbereitung zum Schießen射撃準備! GroßeGranatwerferグローサー・グラナトヴェルファー(大型擲弾筒)! Bazooka-Spezifikationenバズーカ仕様! 」
「Jawohl! 」
偵察部隊の兵は小気味がいい。
すぐさま、ほぼ馬の胴体ほどの長さの筒を降ろし、手近の木に持たせて砲身を安定させた。
「そいつが今期初登場の改良版というヤツだな」
「はい! 実戦投入はこれが初めてになる、ということでした」
ヤヨイは双眼鏡を構えた。
「リーズルとビアンカは左右に展開! 不測の事態に備えて! 」
「了解! 」
「グラナトヴェルファー、射撃準備、いい? 」
「準備完了! 」
「発射諸元、目標、前方の村。目標までおよそ3㎞。手前200で起爆」
「2800で起爆、了解! 」
「ファイエル! 」
「ファイエル! 」
ディートリヒが発射スイッチを押した。
ドズンッシュバアッ・・・!
腹を抉るような重低音。大量のガスを噴き出して100ミリの弾体が筒先から飛び出した。
通常では仰角をいっぱいに上げて放物線最大で敵の頭上に落下する擲弾は、尾部の切り替えでガスを噴出させて直進する噴進弾になる。
しかも、今回ヤヨイたちが携行しているタイプは最新型で、これまでの射程距離を倍の4000mに伸ばした改良型だった。それでいて炸薬は50㎜砲の弾体よりも大きいのである。一個小隊に満たない兵力が複数門の50㎜砲を随伴しているのと同等の火力を持つのだ。帝国は長大な防衛線の割に兵力が少ない。だから火力で補っているのだった。
弾体はカザンの村に向かってさながら龍のように白い尾を引いて一直線で飛んで行き、村の手前で大爆発した。噴き上がった火炎と爆発煙で、一時村全部が見えなくなるほどだった。
双眼鏡を覗いていたシェンカー大尉が思わず唸った。
「おおっ! これほどとはな! 」
「次弾装填! 初弾の右2度。距離同じ! 装填次第、発射! 」
同じく双眼鏡で着弾観測していたヤヨイが指示した。
2800m向こうの2度は約100m。
次弾は最初の爆発から正確に右100m辺りで爆発、続いて3発目が左に着弾して麦畑に大きな穴をあけ、畑の土を盛大に吹き飛ばした。
3発目の爆発が晴れるころにはもう、カザンの村人たちが大挙して逃げてゆくのが肉眼でもわかるほどだった。
「アラン、ハンナと二人でここを守備! リーズルは右、ビアンカは左から1000まで村に接近! グラナトヴェルファー、信号弾で合図したら村に5発ほどまんべんなく打ち込んで焼き払って! 大尉! 」
「え、あ、おう! 」
「すいませんが、Leichtes Maschinengewehr軽機銃をお願いできますか? 」
「おう、了解! 」
中央のヤヨイを扇の要のようにして4人は村に接近した。
もう村人たちは大方が逃げ出していた。貨車を曳いて出ようとする者も見えたが、食料を持って行かれると後が面倒なのである。
ほとんどの者が逃げ出したのを見たヤヨイは空に向かって信号弾を発射した。
ドンドンドンッ!
秋晴れの上空で3回爆発した信号弾の煙が晴れる前に、今度は擲弾筒仕様に切り替えた弾頭が空を飛び、正確に村のど真ん中に落ちた。
ドグワーンッ!
バズーカ仕様以上の爆発が起きて木と藁の家々をなぎ倒し、燃える油脂が飛び散って大火災を起こさせた。5発と命じはしたが、3発程度でも十分なほどだった。
「どうやら、終わったな。これで騎馬隊の拠点がひとつ、消えたわけだ」
「そういうことです、大尉。では、撤収に移ります」
ヤヨイは極力村人の殺傷を避けた。ヒューマニズムの観点からとか同じ民族のハンナを気遣ったというよりは、彼らが北の奥地に逃げ込んで他の部族に宣伝してくれるのを期待したのだ。
「騎馬隊なんかよりも、シビルのように帝国に着いた方がいい! 」と。
帝国にとって、シビルのように仲間になってくれないならば、極力連合させたくないのである。
「マルスよりマーキュリー。カザンの村の掃討を完了した。これよりサランスク方面に向かう! 」
――マーキュリーよりマルス。了解!――
こうして背後の安全を確保したヤヨイたちは、さらに西を目指した。
アサシン・ヤヨイシリーズ ひとくちメモ
31 騎馬部隊の行軍速度と補給について
前回のひとくちメモにややカブりますが、およそミリタリーものを書くにあたってはリアリティーは大事でして。特に戦闘シーン以外の部分の描写はあまり派手でもなく見過ごされがちです。
ですが、ここをキチンと描かないと、なのです。
ちょうど、ヤフー知恵袋によい説明を書いてくださった方がいましたので、無断ながら引用させていただきます。
例に挙げられてるのは『蒼き狼』チンギス・ハーンですね。
モンゴル軍の戦略的移動速度はどれくらいだったのでしょう?
YAHOO知恵袋
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1193312081
ベストアンサー
nmu********さん 2012/9/1 10:45
史上最強の騎馬軍団であるチンギス・ハーンのモンゴル軍が1日80km程度。
中世の常識的な軍隊なら、1日だいたい10~20km程度ぐらい。
具体的な回答を申し上げられなくて申し訳ないのですが、遊牧民族の騎兵軍は、背後に母体である遊牧集団を引き連れて機動するのが一般的です。
と言うか長い目で見れば、移動する補給基地である遊牧集団から、騎兵軍が出撃するイメージでしょうか。
当然、遊牧集団は日々の仕事をこなしながら動きますので、専門の補給部隊よりは遅いです。
なので、例えば武帝の匈奴征伐では、機動力のある騎兵軍ではなく、後方の遊牧集団を狙われて大敗しました。(しかも民族集団としても大打撃を受けた)
ただし、モンゴル軍はこのあたりの運用に多少の改善を加えたという話も聞いたことはあります。(具体的な内容は不明)
しかし、農耕民族の軍隊は後方補給に頼っている限り、策源地からあまり離れられません。
補給は毎日実施する必要があるので、補給部隊は策源地と前線部隊の間を毎日往復する必要があります。
極論するなら、策源地から1日分の距離しか離れられません。(あるいは前線部隊の何倍、何十倍の補給部隊を用意するか)
まあ、だからこそ実際の農耕民族の軍隊は現地補給したわけですが、それでも策源地を遠く離れて長期間活動することはほぼ不可能だったわけで。
それに較べれば、策源そのものが移動できる遊牧民族の戦略的機動力は桁違いと言ってよいんじゃないでしょうか?
もちろん、それも「騎兵軍と言うイメージからは程遠い」遅い速度であることは間違いないですが。
モンゴル軍の長距離遠征は、途中で戦争しながらとは言え、年単位の事業ですからね。
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