汝! セイシ持て報いよ ~邪淫教に囚われた妻~ 【上巻】

kei

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第一部 失踪と受難

02 幽霊

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 三日前。



 里子は山間の実家から自宅のマンションのある街までの帰路についていた。





「あ~あ、かったりー・・・。ったく、ヤスシのヤツ。クッソ、むかつく! 」

 



 確かに実家には帰った。



 だが夫に言った「同窓会への出席」のためではなかった。同窓生と会うのはウソではなかったが、彼は男で同窓生は彼だけだった。

 里子が帰ったのは、高校時代の同窓生で、最初に付き合って以来つかず離れずの関係を結婚後も続けていたいわば「セックスフレンド」と会うため。

 この度の里子の帰省は、なんと不倫のためだったのだ。





 そのセフレ、トンマなヤスシ。当間康と会えたことは会えた。



「ヤスー。久しぶり~! 」



「お~お。どのくらいぶりだ? お前が結婚して以来だから半年ぶりぐらいだなあ」



 待ち合わせの実家のある地元の駅のロータリー。

 里子の車に乗り込んできた脱色の金髪セフレは、高校以来の相変わらずのチャラチャラしたカルい身なりで左の耳に着けたピアスを揺らしながらまずは里子の唇に挨拶をした。
 唇だけではなく、いきなり舌まで突っ込んできてディープなヤツをしようとするのを窘めた。



「ちょっと! 知ってる子に見られたらどおすんのっ! 出すよ」



「悪ィな。なんか物欲しそうな顔してたから。そんじゃま、まずは身体の相性確認と行きますかね! 」



 そう言ってトンマな康は里子のスカートの下の太股をお触りしつつ、バックミラーを覗き込みムースで固めた脱色の髪に手をやって髪型のチェックに勤しんだ。



「ん、もうっ! スケベなんだからっ! 」



「それを期待されちゃってるんでしょ、オレってばっての! 」



 高校時代。
 ある事件があって、彼トンマなヤスシと付き合い始めてから、里子は彼を切れずにいた。
 卒業後大学に進学し就職するにつれ何人かの男と付き合ったが、どうしても彼のセックスを忘れられず、時々会っていた。
 定職にも就かず、何をして生きているのかわからないようなヤツではあったが、ことセックスに関してだけは期待を裏切らなかった。康とは相性がいいとかいうレベルをはるかに超えて、いつも満足を得られた。



 車は一路、その田舎の町のもっとも外れにあるラブホテルを目指した。

 道々、里子は長年のセフレに旦那の愚痴を吐きまくった。

「も、さー、サイアクだよお・・・。
 ベンゴシっていうからさ車もベンツとかビーエムとか想像してたのにこんな十年落ちの国産だしさ・・・」

「しっかし、お前みたいなヤリマンのズベがよくもまああんなハイスペック物件つかまえたなあ・・・。
 ベンゴシっていやセレブじゃん、いちお」

「どこが!」

 里子は吐き捨てるように吼えた。

「イソ弁ての? 事務所なんかない、ただの勤め人だしさ。
 それに、アッチもサイアクなのっ! 
 短小でホーケーでソーロー? も、三拍子揃っちゃってるしさあ・・・」

「じゃあ、毎日疼いて仕方なかったんじゃねえのォ?
 よく半年もガマンできたな。なら、もっと早く連絡くれればよかったのに」

 康の指は早くも里子の太股の奥の湿った布地に辿り着き、そこをしきりに何度も往復しては早くも反応して凝り固まりつつある肉の芽の感触を愉しんでいた。

「ベンゴシの妻ってから、料理教室も通ったし、ハウスキープの講習も受けたし・・・。
 昔のシガラミ全部きれいにしてまでして結婚したのにさ。
 毎朝毎晩チューして三つ指ついてさ。エッチも全然きもちくないのにああ、いいわーとか・・・。
 ホント、バカみたい! これじゃサギだよっ! 」

 あまりにコーフンし過ぎて危うく赤信号を見過ごしかけた。
 キュッと急ブレーキを踏み、自分の股間をまさぐるヤスシの腕を掴んで助手席の男を睨みつけた。

「ヤス! 期待してるからね。今日は目いっぱいイカせてよっ?! いいね?! 」

「アイヨ。わかったからそうコーフンすんなって。ジコるぜw 」




 予め実家には、

「今夜は友達の家に泊まるから。ダンナから電話来たらテキトーにゴマかしといてよ。友達とお茶しに行ってるとか、同窓会が長引いちゃってるとか。・・・いいね?」

 そう言い訳、口止め、念押ししてきた。
 両親は健在だが、ある理由があって里子には逆らえず、娘の言いなりになっていた。

「里子なんてダサダサな名前つけるからこうなっちゃったの。どうせならサトじゃなくてキョーにすればよかったの。カオリとか、京子とか。全部あんたたちのせいだからねっ! 」

 久しぶりに会った親にこんな訳の分からない言いがかりをつけている不肖の娘。

 その愚かな娘は今しも真面目な夫を裏切りケバケバしい外装のラブホテルに間男を伴って乗りつけようとしていた。



 と。


 康のスマートフォンがおちゃらけ過ぎの着信音を奏でた。

「ハイ。あ、どうもお世話になってますう。・・・ハイ。・・・ハイ。

 ・・・ええ、いいですよ。今から伺いますぅ。じゃあ後ほど。はい。はい」

 里子の背筋をイ~ヤな予感が走った。

「サトコ。あのさー、悪ィんだけどさー、ちょっと急用でさー・・・。
 お客さんのとこいかにゃあイカんだわ。めっちゃ悪ィんだけど駅まで戻ってくれる? 」

「・・・なにそれ! ええーっ! マジィ?」

「ホント、ごめん。また今度な。ゆっくりネッチョりしてやっからw」

「お客さんて何よ! そんなもんあんたにあるの? 何の仕事してるのよ」

「ちょっと。いろいろ。あれこれ・・・」

 ラブホテルは、もう目の前なのに・・・。

「・・・ホント、マジ?」

「いや、悪い。今度は朝までヤッてやっから。ぜったい! 許して? 」



 心の中のズドーンという地響きを聞きながら、里子は車をUターンさせ、駅に戻る道に乗った。


 ヤスシはロータリーで里子の車から降りると助手席の窓に向かってもう一度詫びた。

「ホント、ゴメン。じゃ、またな」







 冷たい鬼と化した里子を見送ると、ヤスシは先ほどかかって来た相手にコールバックした。

「あ、ミカ? ゴメンゴメン。
 さっきな、取引先のヒトと一緒だったからさ。なに、今日ヒマなの? 今家? すぐ行くわ! 
 ターップリめっちゃエロイのしようね! じゃあな! 」

 スマートフォンを切ってほくそ笑んだ。

「あんなアラサーのババアよりピチピチのハタチの子だろっての! 」

 トンマなヤスシ。
 香ばしいほどの、クズである。



 最初っから夫を裏切っていた里子は、こんな風に自分もまたいとも簡単に裏切られていたのだった。
 まあ、セフレなどというものは得てしてこんなものだし、自業自得ではあった。
 裏切られているのを知らないだけ、幸せだったかもしれない。







 それから、冒頭の、

「あ~あ、かったりー・・・。ったく、ヤスシのヤツ。クッソ、むかつく! 」

 のセリフに繋がるワケなのである。


 むろん、
 このままでは引き下がれないから出会い系とかも当たってみた。
 が、急にはやはりムリがあった。
 それで仕方なく夫と暮らすマンションに帰ろうとしていたのだった。


 だが、悪いことは重なるもので高速道路に乗ろうとしたら事故で通行止めだった。

「ちっ! ああ、ウザっ!・・・」

 思わずハンドルに当たったが、ハンドルにあたってもどうなるものでもない。

 夫に吐いた嘘の通り、仕方なく、一般道で帰ることにした。



 しかし。
 久々の郷里。
 それにいつも高速を使うから一般道は不慣れだった。
 それにここでも工事渋滞が重なり、迂回路をさらに迂回している間に道がわからなくなり、おまけに日が暮れてきた。

「あちゃー・・・。ツイてないったら・・・」

 しかもその十年落ちの車にはナビがついてないときた!
 スマートフォンも出会い系のサイトを閲覧しすぎてバッテリーを消耗しすぎてしまい用をなさなかった。
 勝手知ったるつもりの郷里だからと道路地図さえも積んでいなかったのがモロ、裏目に出た。

「ま、とりあえず東に向かえばなんとかなるっしょ!
 地球は丸いし、日本は狭い」

 里子にはこういう妙に楽観的楽天的なところがあった。
 もちろん、夫の前では見せていない性質だ。家では、夫の無事をただひたすらに祈る、健気な妻を演じていたからだ。



 陽がとっぷりとくれたが、道は次第に狭く、所々未舗装の個所にさしかかる。
 そうなるとさすがの里子も不安になって来た。しかも、

「ハラ減ったなあ・・・。コーラのみてーなあ・・・。コンビニなんかないよねえ。せめて民家の明かりだけでもあればなあ・・・」

 アッパーライトは両側から迫る黒い木々のはるか先、森の奥に続く道の向こうを照らすがそれらしき明かりはなかなか見えて来なかった。

 少しでも良心があれば、夫を騙してフリンしようとしたバチが当たったとも思うかもしれないが、あいにくと、その本性が真面目な夫を騙した尻軽女である里子にはそんなものは薬にしたくも持ち合わせていなかった。

「全部ヤスのせいだ! あんなクソ田舎の実家のせいだ! 」

 全て他人のせいにして顧みなかった。

 だから、やはりそれはバチが当たったのだ。




 道はもはや林道と言った方が近いような、鬱蒼とした山道に変わっていた。

 急に目の前に白い影がライトに照らされて浮かび上がったから慌てて急ブレーキを踏んだ。

「幽霊?! まさか・・・」

 背筋を冷たい汗が流れた。

 するとその幽霊と思しき白い影がこちらにやってくるではないか。

「ぎゃーあっっっっ! で、出た~あああああああああっ! 」

 性格はサイアクでも怖いものは怖い。

 無我夢中でギアをリバースに入れ、バックしようとした刹那、

「助けて! お願い!」


 マジ?! ・・・。


 幽霊が叫んだ。

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