【完結・新版/R18】 レナのレッスン ~ スレイヴのおけいこ (^^♪ ~

kei

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Lesson 15 緊急事態

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 車は夜通し大都会を走り、サキさんの奴隷たちの城を巡って行った。

「もともとこの携帯には何も登録されておりません。サキ様とあなたの番号は記憶しております。どうぞお納めください」
 スズキさんはあっさりとスマートフォンを差し出してくれた。
 それをスミレさんに手渡した。
「きついけど、頑張るのよ。サキさんのためだから。わたしたち、彼の本当のスレイヴにとって、本望じゃない?」
 全裸のスミレさんにキスされて送り出された。彼女のキスはジャスミンの香りがした。
「首都圏の二件の銀行がキーポイントですね。渋滞を考えますと、開店時間前に都内に入っていた方がいいでしょう。とすると、今日の閉店までに出来る限りここの周辺の銀行を回り、その後時間の拘束の無い場所を回り、今夜のうちに首都圏を目指しましょう。運が良ければ、明日の13時過ぎには全て完了できるでしょう」
 スズキさんの助言に従ってまずは貸金庫を片端から回った。
 中身は何処の銀行のそれも大差なかった。既に株券や社債などの有価証券や国債は電子化されて久しい。あったのはいくつかの土地の権利書と一キロか五百グラムの金の延べ板数枚だった。
「トランクではなく、床に置いて下さい。このリストの数だけ回るとなれば相当な重量になりますから」
 数千万円を土足で踏みつける感覚に、異様な昂奮を覚えた。

 15時を過ぎて銀行の窓口が閉まると対象をプレイルームに切り替えた。
 見ず知らずの女の性欲が発散された後の匂いがこもる部屋。壁や天井の禍々しい道具類はレナのとさして変わらないが、その匂いに特別な感情を抱かざるを得ない。どこかにサキさんの残り香があるのではないだろうか。サキさんが、他のM女たちと繰り広げたであろうプレイを思う。
 AVセットや周辺を丁寧に探した。が、あまり時間をかけるわけにはいかない。預かったサバイバルナイフを取り出した。刃渡りが20センチ以上もあるゴツい凶器を、シーツを取り去った裸のマットレスに突き刺し、切り裂いた。表面のクロスとカンヴァス地のような厚い生地の下にある針金で作ったボックス上のスプリングに刃先が当たった。これでは異物が入る余地はないし、あれば身体を横たえたときに異物の存在がわかってしまう。マットレスは二重になっている。上のを脇へどかした。
 下のは鉄のフレームにすっぽり囲われている。何かを仕込むとすれば、縁。それもあまり重量のかからないヘッドボードの辺りか。その個所を集中して切り裂く。
 黒いビニールに包まれた、平たい、細長い巻物がヘッドの縁沿いに仕込まれていた。
 非常に、重い。数キロぐらいはありそうだ。取り出して巻物を解いてゆくと、やはり金の延べ板だった。
 8枚。一枚が1500万として、1億2千万! それをもう一度巻き込んで肩にかけ、車に戻った。大汗をかいていた。
「前方のボックスの中におしぼりがございます。車をお出ししてよろしいですか? 」
「は、・・・はひ、お願いします」
 息が切れそうになりながら、ドリンクを含んだ。
 この一件で1時間近くかかった。移動を含め、一件平均2時間から3時間。回り切れるだろうか。体力が、持つだろうか。
「よろしければ、次はお手伝いさせていただきます」
 スズキさんはそう言ってくれたが、探すものはいいとして、それを探す場所が・・・。まともな世界の住人であろう、祖父のような年齢のスズキさんに見せるのは忍びない。
「え、・・・でも・・・」
「サキ様から申し付けられております。ご遠慮なさるには及びません。
 なにぶん老体ですが、その程度のことはお任せください。少し、寄り道をしてもよろしいでしょうか。急がば回れとも申します」
 ホームセンターで台車を購入し、ついでに高級外車をファストフードのドライブスルーに乗り入れた。
 昼から何も食べておらず、お腹が空いて仕方なかった。それらは全て現金で払った。カードは使うなとスミレさんに厳命されていた。
「スズキさんは本当にいいんですか? 」
 ハンバーガーにかぶりつきながら、レナは尋ねた。
「わたくしは、これがありますので。通常は勤務中にお客様をお乗せしながら食事などしないのですが、今回に限り、お許しください」
 運転しながら海苔を巻いたおにぎりを頬張り、水筒のお茶を飲むスズキさんにやっと親近感が湧いた。
 スズキさんのお陰で次のルームは30分ほどで片付いた。彼にマットレスをお願いしている間に他の機器を捜索できた。運転中と同じく、彼は壁や天井のSM用品を見ても眉一つ動かさず、一切無駄口を叩くことはなかった。
 おかげで予定していた分は全て終了し、一番離れたレナのルームを残すのみとなった。それは明日にまわし、東へと向かう高速道路に乗った。
「お体、大丈夫ですか。眠くなりませんか」
 息つく暇もない強行軍に、レナはスズキさんの体調を案じた。
「お気遣いありがとうございます。わたくしなら大丈夫でございます。もしお疲れでしたらご遠慮なくお休みください。途中何度かサービスエリアに立ち寄ることをお許しください。生理現象などございますので・・・」
 レナはくすっと笑みを漏らした。
「あの、スズキさんは、ご家族は? 」
 散々世話になっておきながら、今まで彼の事を何も知らなかった。初めての長距離で退屈だし、眠気覚ましにそんな質問をした。
「わたくしは天涯孤独でございます。妻も子もおりませんし、この歳ですので親はとうに鬼籍に入っております。兄弟も、ございません」
「じゃあ、ずっと、おひとりで・・・」
「おかげさまで運転一筋で40年以上、無事故無違反で平穏に勤めを果たすことができております。それだけで十分に幸せを感じております」
 運転席の計器盤の灯りに浮かぶスズキさんの表情は全く変わらず、その相貌は前方の闇を見つめ続けた。
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