69 / 83
Lesson 15 緊急事態
69
しおりを挟む
車は夜通し大都会を走り、サキさんの奴隷たちの城を巡って行った。
「もともとこの携帯には何も登録されておりません。サキ様とあなたの番号は記憶しております。どうぞお納めください」
スズキさんはあっさりとスマートフォンを差し出してくれた。
それをスミレさんに手渡した。
「きついけど、頑張るのよ。サキさんのためだから。わたしたち、彼の本当のスレイヴにとって、本望じゃない?」
全裸のスミレさんにキスされて送り出された。彼女のキスはジャスミンの香りがした。
「首都圏の二件の銀行がキーポイントですね。渋滞を考えますと、開店時間前に都内に入っていた方がいいでしょう。とすると、今日の閉店までに出来る限りここの周辺の銀行を回り、その後時間の拘束の無い場所を回り、今夜のうちに首都圏を目指しましょう。運が良ければ、明日の13時過ぎには全て完了できるでしょう」
スズキさんの助言に従ってまずは貸金庫を片端から回った。
中身は何処の銀行のそれも大差なかった。既に株券や社債などの有価証券や国債は電子化されて久しい。あったのはいくつかの土地の権利書と一キロか五百グラムの金の延べ板数枚だった。
「トランクではなく、床に置いて下さい。このリストの数だけ回るとなれば相当な重量になりますから」
数千万円を土足で踏みつける感覚に、異様な昂奮を覚えた。
15時を過ぎて銀行の窓口が閉まると対象をプレイルームに切り替えた。
見ず知らずの女の性欲が発散された後の匂いがこもる部屋。壁や天井の禍々しい道具類はレナのとさして変わらないが、その匂いに特別な感情を抱かざるを得ない。どこかにサキさんの残り香があるのではないだろうか。サキさんが、他のM女たちと繰り広げたであろうプレイを思う。
AVセットや周辺を丁寧に探した。が、あまり時間をかけるわけにはいかない。預かったサバイバルナイフを取り出した。刃渡りが20センチ以上もあるゴツい凶器を、シーツを取り去った裸のマットレスに突き刺し、切り裂いた。表面のクロスとカンヴァス地のような厚い生地の下にある針金で作ったボックス上のスプリングに刃先が当たった。これでは異物が入る余地はないし、あれば身体を横たえたときに異物の存在がわかってしまう。マットレスは二重になっている。上のを脇へどかした。
下のは鉄のフレームにすっぽり囲われている。何かを仕込むとすれば、縁。それもあまり重量のかからないヘッドボードの辺りか。その個所を集中して切り裂く。
黒いビニールに包まれた、平たい、細長い巻物がヘッドの縁沿いに仕込まれていた。
非常に、重い。数キロぐらいはありそうだ。取り出して巻物を解いてゆくと、やはり金の延べ板だった。
8枚。一枚が1500万として、1億2千万! それをもう一度巻き込んで肩にかけ、車に戻った。大汗をかいていた。
「前方のボックスの中におしぼりがございます。車をお出ししてよろしいですか? 」
「は、・・・はひ、お願いします」
息が切れそうになりながら、ドリンクを含んだ。
この一件で1時間近くかかった。移動を含め、一件平均2時間から3時間。回り切れるだろうか。体力が、持つだろうか。
「よろしければ、次はお手伝いさせていただきます」
スズキさんはそう言ってくれたが、探すものはいいとして、それを探す場所が・・・。まともな世界の住人であろう、祖父のような年齢のスズキさんに見せるのは忍びない。
「え、・・・でも・・・」
「サキ様から申し付けられております。ご遠慮なさるには及びません。
なにぶん老体ですが、その程度のことはお任せください。少し、寄り道をしてもよろしいでしょうか。急がば回れとも申します」
ホームセンターで台車を購入し、ついでに高級外車をファストフードのドライブスルーに乗り入れた。
昼から何も食べておらず、お腹が空いて仕方なかった。それらは全て現金で払った。カードは使うなとスミレさんに厳命されていた。
「スズキさんは本当にいいんですか? 」
ハンバーガーにかぶりつきながら、レナは尋ねた。
「わたくしは、これがありますので。通常は勤務中にお客様をお乗せしながら食事などしないのですが、今回に限り、お許しください」
運転しながら海苔を巻いたおにぎりを頬張り、水筒のお茶を飲むスズキさんにやっと親近感が湧いた。
スズキさんのお陰で次のルームは30分ほどで片付いた。彼にマットレスをお願いしている間に他の機器を捜索できた。運転中と同じく、彼は壁や天井のSM用品を見ても眉一つ動かさず、一切無駄口を叩くことはなかった。
おかげで予定していた分は全て終了し、一番離れたレナのルームを残すのみとなった。それは明日にまわし、東へと向かう高速道路に乗った。
「お体、大丈夫ですか。眠くなりませんか」
息つく暇もない強行軍に、レナはスズキさんの体調を案じた。
「お気遣いありがとうございます。わたくしなら大丈夫でございます。もしお疲れでしたらご遠慮なくお休みください。途中何度かサービスエリアに立ち寄ることをお許しください。生理現象などございますので・・・」
レナはくすっと笑みを漏らした。
「あの、スズキさんは、ご家族は? 」
散々世話になっておきながら、今まで彼の事を何も知らなかった。初めての長距離で退屈だし、眠気覚ましにそんな質問をした。
「わたくしは天涯孤独でございます。妻も子もおりませんし、この歳ですので親はとうに鬼籍に入っております。兄弟も、ございません」
「じゃあ、ずっと、おひとりで・・・」
「おかげさまで運転一筋で40年以上、無事故無違反で平穏に勤めを果たすことができております。それだけで十分に幸せを感じております」
運転席の計器盤の灯りに浮かぶスズキさんの表情は全く変わらず、その相貌は前方の闇を見つめ続けた。
「もともとこの携帯には何も登録されておりません。サキ様とあなたの番号は記憶しております。どうぞお納めください」
スズキさんはあっさりとスマートフォンを差し出してくれた。
それをスミレさんに手渡した。
「きついけど、頑張るのよ。サキさんのためだから。わたしたち、彼の本当のスレイヴにとって、本望じゃない?」
全裸のスミレさんにキスされて送り出された。彼女のキスはジャスミンの香りがした。
「首都圏の二件の銀行がキーポイントですね。渋滞を考えますと、開店時間前に都内に入っていた方がいいでしょう。とすると、今日の閉店までに出来る限りここの周辺の銀行を回り、その後時間の拘束の無い場所を回り、今夜のうちに首都圏を目指しましょう。運が良ければ、明日の13時過ぎには全て完了できるでしょう」
スズキさんの助言に従ってまずは貸金庫を片端から回った。
中身は何処の銀行のそれも大差なかった。既に株券や社債などの有価証券や国債は電子化されて久しい。あったのはいくつかの土地の権利書と一キロか五百グラムの金の延べ板数枚だった。
「トランクではなく、床に置いて下さい。このリストの数だけ回るとなれば相当な重量になりますから」
数千万円を土足で踏みつける感覚に、異様な昂奮を覚えた。
15時を過ぎて銀行の窓口が閉まると対象をプレイルームに切り替えた。
見ず知らずの女の性欲が発散された後の匂いがこもる部屋。壁や天井の禍々しい道具類はレナのとさして変わらないが、その匂いに特別な感情を抱かざるを得ない。どこかにサキさんの残り香があるのではないだろうか。サキさんが、他のM女たちと繰り広げたであろうプレイを思う。
AVセットや周辺を丁寧に探した。が、あまり時間をかけるわけにはいかない。預かったサバイバルナイフを取り出した。刃渡りが20センチ以上もあるゴツい凶器を、シーツを取り去った裸のマットレスに突き刺し、切り裂いた。表面のクロスとカンヴァス地のような厚い生地の下にある針金で作ったボックス上のスプリングに刃先が当たった。これでは異物が入る余地はないし、あれば身体を横たえたときに異物の存在がわかってしまう。マットレスは二重になっている。上のを脇へどかした。
下のは鉄のフレームにすっぽり囲われている。何かを仕込むとすれば、縁。それもあまり重量のかからないヘッドボードの辺りか。その個所を集中して切り裂く。
黒いビニールに包まれた、平たい、細長い巻物がヘッドの縁沿いに仕込まれていた。
非常に、重い。数キロぐらいはありそうだ。取り出して巻物を解いてゆくと、やはり金の延べ板だった。
8枚。一枚が1500万として、1億2千万! それをもう一度巻き込んで肩にかけ、車に戻った。大汗をかいていた。
「前方のボックスの中におしぼりがございます。車をお出ししてよろしいですか? 」
「は、・・・はひ、お願いします」
息が切れそうになりながら、ドリンクを含んだ。
この一件で1時間近くかかった。移動を含め、一件平均2時間から3時間。回り切れるだろうか。体力が、持つだろうか。
「よろしければ、次はお手伝いさせていただきます」
スズキさんはそう言ってくれたが、探すものはいいとして、それを探す場所が・・・。まともな世界の住人であろう、祖父のような年齢のスズキさんに見せるのは忍びない。
「え、・・・でも・・・」
「サキ様から申し付けられております。ご遠慮なさるには及びません。
なにぶん老体ですが、その程度のことはお任せください。少し、寄り道をしてもよろしいでしょうか。急がば回れとも申します」
ホームセンターで台車を購入し、ついでに高級外車をファストフードのドライブスルーに乗り入れた。
昼から何も食べておらず、お腹が空いて仕方なかった。それらは全て現金で払った。カードは使うなとスミレさんに厳命されていた。
「スズキさんは本当にいいんですか? 」
ハンバーガーにかぶりつきながら、レナは尋ねた。
「わたくしは、これがありますので。通常は勤務中にお客様をお乗せしながら食事などしないのですが、今回に限り、お許しください」
運転しながら海苔を巻いたおにぎりを頬張り、水筒のお茶を飲むスズキさんにやっと親近感が湧いた。
スズキさんのお陰で次のルームは30分ほどで片付いた。彼にマットレスをお願いしている間に他の機器を捜索できた。運転中と同じく、彼は壁や天井のSM用品を見ても眉一つ動かさず、一切無駄口を叩くことはなかった。
おかげで予定していた分は全て終了し、一番離れたレナのルームを残すのみとなった。それは明日にまわし、東へと向かう高速道路に乗った。
「お体、大丈夫ですか。眠くなりませんか」
息つく暇もない強行軍に、レナはスズキさんの体調を案じた。
「お気遣いありがとうございます。わたくしなら大丈夫でございます。もしお疲れでしたらご遠慮なくお休みください。途中何度かサービスエリアに立ち寄ることをお許しください。生理現象などございますので・・・」
レナはくすっと笑みを漏らした。
「あの、スズキさんは、ご家族は? 」
散々世話になっておきながら、今まで彼の事を何も知らなかった。初めての長距離で退屈だし、眠気覚ましにそんな質問をした。
「わたくしは天涯孤独でございます。妻も子もおりませんし、この歳ですので親はとうに鬼籍に入っております。兄弟も、ございません」
「じゃあ、ずっと、おひとりで・・・」
「おかげさまで運転一筋で40年以上、無事故無違反で平穏に勤めを果たすことができております。それだけで十分に幸せを感じております」
運転席の計器盤の灯りに浮かぶスズキさんの表情は全く変わらず、その相貌は前方の闇を見つめ続けた。
0
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる