精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

文字の大きさ
12 / 384
1 鑑定の儀編

2-0 最終鑑定は人生の岐路

しおりを挟む
 魔物討伐事件から一週間が過ぎた。

 第六師団の好意(?)で、表向き、魔物は第六師団が討伐したと処理してもらい、ちょっとホッとした。家門内にまた変な噂が立っても困る。

 ところが別の問題も発生した。

 本来なら、もうあと一週間ほどで、最終鑑定の儀を受けるはずだったんだけど。
 あそこの赤の樹林に魔物が出たからと、現在、赤の樹林全域、周辺街道も含め閉鎖中になってしまって。

「一ヶ月は閉鎖が解除されないそうです」

とは、ジンからの情報だ。

「えー」

「仕方ないですよね。魔物出現現場ですからね。再出現がないか、騎士団でもしばらく警戒しますよね」

「うっ」

 最近、いや、正確には魔物討伐後から、ジンの小言がさらに多くなった。
 確かに、魔物討伐は私のせいだけど。魔物出現は私のせいじゃなくない? むしろ、私、被害者なんだし。
 なんで、あなたのせいでしょみたいな顔して私を見るのさ。むー

「それに、赤の樹林に魔物が出たのは初めてだそうでして。それもあって、念入りに行うことになったようです」

「あー、今までは黒の樹林の方だったわね」

 本当にまったく、よりによってと言うかなんと言うか。あ、何も言えないわ。言葉がない。

「最終鑑定の儀も延期かなぁ。そうでなくても遅れてるのに」

「解除が早まればいいですね」

 期待のかけらもない口調でジンが返答をする。

「マリージュの儀まで待たなくても良かったのに」

「ネージュ様とマリージュ様は一歳違いですからね。別々に儀を行うより、同時にした方が楽でしょう。お互いに」

 もともとは、私も十五歳の誕生日前後で最終鑑定の儀を行う予定だった。
 なのに、去年の誕生日直前。妹のマリージュといっしょに儀を行うと、父から伝えられた。書面で。

 直前になって延期だなんて信じられないでしょ! しかも、書面て!
 けっこう大事なイベントだったのに、書面一つで、延期よ、延期!
 悲しいって思うより、神経がブチって切れた感じ?
 うむ、あの感覚は忘れないでいよう。

 延期の理由は、多忙だからと大神殿から要請があった、マリージュひとりで儀を受けさせるのが心配、といったもの。
 どうやら、私への配慮や心配はないらしい。

「十五歳の儀とされていますが、厳密に十五歳で、という決まりはありません。十七歳になるまでに行うのが一般的です。けして遅れてはいませんよ」

 ジンがなだめるように話を続ける。

「だから、そんな、眉間にしわを寄せて、むくれた顔をしないでください。子どもですか。しわが残りますよ」

「むくれてなんて、ないわよ」

 ちょっと虫の居所が悪いだけだ。

 いいタイミングで、メモリアが紅茶とクッキーを出してくれた。

 最終鑑定の儀は、いわば成人の儀。これが終われば、子どもではなく大人と見なされる。
 厳密には十五歳を過ぎて儀が終われば、なんだけれど。私はすでに十六歳だし。儀が終われば大人。
 ここにいても役立たず扱い。養子に出されるか、縁組されるか。
 先日も父から嫁入りの仕度だとか、家門を見繕ってとか言われたから、相手は家門に都合のいい他家か、理解のある傍系かな。

「養子や縁談の話はないの?」

「ありません。結婚したいんですか?」

「いや、別に」

 うん、その手の話がなければ、家を出て独立する。きっと引き止める人などいない。
 ジンやメモリアも、いずれ、私専属ではなくなるのだから。時期が早いか遅いかの違いだけ。

 独立資金はそれなりに貯まっている。実戦訓練で狩った魔獣、これがいいお金になるんだよね。
 先立つものがなければ、独立したって生活が成り立たない。魔獣狩りで生計を立てている人もいて、魔獣専門狩猟業という職種もあるそうだ。

「うん、魔獣狩りなんて良さそう」

「養子や縁談の話が、どうして魔獣狩りになるのか、お聞きしても?」

「ダメ」

 独立計画に夢中になっていて、そばにジンがいるのを忘れてた。
 この計画は知られないようにしないと、危ないとかなんとか言われて、邪魔されてしまう。

 ジンを横目にクッキーをかじる。甘くて美味しい。

 魔物に遭遇したショックで静養中、ということになっているので、一週間、一歩も外に出ていない。飽きる。

 しかし、私が静養中だというのに、誰からも何も言われない。

 というか、近況すら分からない。

 父とは一月に一回くらいは書面でやりとりするし、数ヶ月に一回は会って現状報告をする。先日、会ったばかり。
 あー、実戦訓練のこと、魔物云々のこと、言われたっけ。

 兄と妹とは顔を合わせていない。

 精霊魔法の技能がないことが公表された直後から、私への風当たりが強くなった。とくに、実力を評価されて地位を勝ち取った人たち=私設の精霊騎士団からは、目の敵のようにされた。
 すでに上級の精霊魔法が使えていた兄に続き、妹が全属性に適性ありとの鑑定が出ると、私への風当たりはさらに激化した。
 害される恐れもあり、私だけ生活空間を離されることになる。

 兄や妹といっしょに生活した思い出は、そこで途切れた。

 記憶の中の兄や妹は優しかった。

 兄は、事あるごとに、ちょっとした精霊魔法を見せてくれた。
 とくに小さな炎を操ってパチパチと弾けさせる様がとてもキレイで、何度も何度もせがんだ。兄は困った顔をしながらも、付き合ってくれた。

 妹とは歳が近く、いっしょに行動することが多かった。おやつを食べるのも散歩をするのも昼寝をするのも、いっしょだった。手をつないで楽しそうにする妹がかわいくて、よく頭を撫でてあげた。

 独立して家を出れば、この二人とのつながりがさらに薄れてしまいそうで、なんとも言えない気持ちになる。

 メモリアが静かに、お茶とクッキーのおかわりを出してくれた。
 またしても、いいタイミング。

「裏庭でも散歩します? 散歩くらいなら大丈夫ですよ」

 ジンがそう言ってくれるが、散歩の気分でもない。

「いや、止めとく」

 頭の中で独立後の職業が決まった。職業組合への登録も準備しておかないといけない。
 登録するのに住所が必要だよね。住むところはどうしよう。保証人なしで住居って借りられるのかな、それとも暮らしに慣れるまで、宿住まいがいいかな。
 自炊もやったことがないんだよね。いつまでも三食外食ではいられないから、これもどうにかしないといけない。
 着替えや身の回りのものも買い揃えるようだし。考えることも、用意するものも、必要なお金も、思いのほか多い。

「とりあえず、料理でも習おうかな」

 私のつぶやきは、ジンとメモリアに盛大に無視された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

処理中です...