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1 鑑定の儀編

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 翌々日。意識が戻ってから三日目。
 いろいろな説明が始まる。

 長時間、イスに座るのはまだ身体に負担がかかるからと、ベッドに横になった状態で、話を聞くことになった。

 もちろん、横になってばかりでも、いけない。短時間、イスに座って話を聞く。短時間、部屋の中を歩く。などなど、身体機能の回復訓練も行い始める。

「なんか、こんなに丁寧に回復訓練しなくても、いきなりどうにかなっちゃいそうな気がするんだけど」

 ムチャを言ってみた。

「うん、そーなんだよね」

「え? 本当?」

 肯定的な意見が返ってくるとは思ってなかったので、食いついてしまった。

 思えば、ネージュのときは、自分の意見を言わないことが多かった。最初からそうだったわけではない。

 自分の意見を言っても、父親に否定されたり、ジンに困った顔をされたり、それを繰り返しているうちに、自分の意見を言わなくなっていったんだ。

 独立計画もジンに言わなかった。

 料理をする話については、最初は困った顔をされた。
 何度か話しているうちに、気分転換になると思われたようで、許可してもらえた。

 クロスフィアになってからは、自分の思っていること、考えていることを話すことが多くなったように思う。
 まだ、クロスフィアになりたてだけど。

 でもその分、責任が伴うんだよね。
 これからは、ひとりで生きていかないといけないんだから。
 自分に責任を持たなくては。

「それじゃ、訓練しなくてもいいんだね」

「うーん、それなんだけどね」

 テラは肯定してくれた割に歯切れが悪い。

「まず、君の回復具合をものすごく心配して、この訓練計画を立てたのが黒竜、んーと、君をここに連れてきた男なんだよ」

「確か、熊が連れてきたんだよね? 熊が黒竜なの?」

「ちょっと待って。話、ずれるけど、熊って何かな?」

 熊は熊なんだけど。と言っても分からないか。

「第六師団の師団長」

「熊って呼んでんの?」

 テラがびっくりしたように聞いてくる。

「身体大きくて、熊みたいだから」

「ああ、なるほどね。で、名前、知ってるよね?」

「ドラグニール」

 確か、そう名乗ってた。

「フルネームは?」

「知らない」

「知らないの?!」

「知らないの」

 名乗られた覚えは多分ない。
 テラが目を大きく見開いている。

「………………………………………………マジか」

「?」

 そして固まった。何かマズいこと言ったかな。

「…………まず、訓練の話を先にしようか」

「ええ」

 テラの中で、熊の話は後回しにすることにしたようだ。

「えーっと、熊が君のことをものすごく心配して、丁寧な訓練計画を立てたんだ。
 特殊な事情があって、君のことに関しては、大神殿より熊の方が優先される。
 だから、訓練計画をなかったことにはできない、ここまではいい?」

「とりあえずは」

 熊は過保護か。

「だけど、君の先天技能からすると、回復が通常より速いんじゃないかなーと。その可能性は十分ある」

「私って破壊でしょ? 破壊なのに回復?」

 破壊の赤種は神をも壊す、だったよね。

「うん、そうなんだけど、そうじゃないんだ。
 だから、予定を変えて、赤種の話からしようと思う」

「話を聞いたら何か変わるの?」

「持っている力を、意識して使ったり、制御しやすくなる。回復が速くなる可能性もある。
 回復訓練がなくならなくても、訓練がより楽になるし、訓練の合間にできることも増える。どうだい?」

「いいわね」

 自分が何者なのか、どんなことができるのかさえ、よく分からない。
 まずは自分のことを教えてもらえるのはありがたい。

「じゃ、赤種の話からね」

 こうして、赤種の基本能力と破壊の赤種の話から始まった。

「赤種の基本能力は五つ。
 一、固有の権能。
 二、固有の権能に関わる技能。
 三、鑑定技能。
 四、転移技能。
 五、秀逸な身体機能と豊富な魔力量」

 テラが指を一本ずつ立てながら説明する。
 鑑定技能があることは最後の鑑定で聞かされていた。
 転移魔法が使えるのは初耳だ。

「一、二は竜種や魔種も同じだね。
 五も基本的には同じ。程度の差はある。一般人より優秀~頭抜けて凄いレベルまで」

 けっこう幅があるんだね。 

「ちなみに君の五は、頭抜けてヤバいレベルだから」

 念を押さなくていいから。
 しかも、凄いがヤバいになってるし。

「世界を破壊するレベルなんで」

 だから、いいって。

「まずは、三の鑑定技能。空いてる時間にこれを訓練するといいよ。自分の鑑定もできるから」

「自分を鑑定できれば、できることが分かるってことね」

 テラが頷いて、話を進める。

「四の転移魔法の訓練は、回復訓練が終わってからだね。
 五の把握も大事だけど、これも回復訓練が終わってからだ。細かい魔力操作の訓練も必要になるから。同時にやっていこう」

「一、二は?」

「三の鑑定で、一、二を把握して、その結果次第。
 部屋でできるもの、負担が少ないものなら、空いてる時間。そうでないものは四、五と同じで」

「時間かかるね」

「最初だからね」

 僕も他の赤種もそうだったから、と遠い目で語るテラ。
 テラって私より年下のはずなんだけど、ときおり妙に年寄りくさくなる。

「次に赤種の権能について。
 赤種は自分の権能に従って存在するもの。赤種同士は、同類であるけど仲間ではない」

「赤種同士は仲良くないの?」

「敵対しあうときもあるってだけさ。
 自分の権能や行動指針が優先するからね。それに反する場合は、相手が赤種であっても排除する」

 赤種に限った話ではないか。
 皆、自分の大切な何かを優先する。ただ、それだけだ。

 兄は精霊魔法技能を優先した。
 全属性の適性を持つマリージュを守り、技能なしの私を捨てた。

「赤種の権能はそれぞれ違うはずでしょ。私は破壊だから誰とも合わないし」

「ああ、赤種の権能は二つあるんだ」

「え?!」

 一つしか聞いたこと、ないんだけど?!

「僕は創造と維持、君は破壊と再生。
 何かを生み出して、それを維持し継続させるのが僕。あるものを壊し、壊したものを復活させるのが君。
 まったく合わないわけではないんだ。他の赤種も同じだよ」

「四番目の赤種が破壊と再生なんて初めて聞いた」

 驚く私をテラは面白そうに眺めている。

「君は再生の権能も持つから、もしかして、再生能力があるんじゃないかと思ったんだよね」

「ああ、だから回復が速いんじゃないかってこと」

 これで納得した。
 だからテラは最初に肯定したのか。

「だから、まずは鑑定技能を鍛えようね」
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