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4 騎士と破壊のお姫さま編
1-0 竜はお姫さまを連れ去って
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私の目の前に胡散臭い占い師がいる。
私と占い師は、水盤を乗せた小さいテーブルを挟んで、イスに座って対峙していた。
占い師は、黒いローブを頭からスッポリと被っていて、口元しか見えない。
男性なのか女性なのか、髪の色や目の色も不明だ。
いつまでもじーっと占い師を見つめる私に向かって、水盤に手をかざした占い師が声をかけてきた。
「何を占いましょうか?」
若そうな男の声だ。聞き覚えはない。
初対面で間違いないんだろうけど、なんか、引っかかりを覚える。
「何ができるの?」
「何でもできますよ」
「へー」
占い師は自信満々に答えた。かなり実力があるようだ。
ま、ルミアーナさんも、良く当たると人気の占い師だ、と言ってたよな。
私は職場の同僚であるクリンクリンとした金髪の女性を思い浮かべた。
ルミアーナ・エレバウトさんは、私と同じ第六師団で働いている、情報通の補佐官だ。
恋人がいない割に、デートコースに詳しかったり、人気スポットに詳しかったり。
いったいどこ情報かも分からないものを毎回毎回、事あるごとに教えてくれる。
そして、それが意外と役に立つ。
ルミアーナさんは不思議が尽きない。
私は夫のラウに配属されている補佐官なのに対して、ルミアーナさんは第六師団配属で副官のカーネリウスさん付き補佐官。
ま、普通はルミアーナさんのように、師団配属なんだけど。
第六師団でラウと働きたい、そう伝えたはずが。ラウに就職したい、と盛大に勘違いされ、まさかの個人配属となったという。
誰だよ、許可した人。
私がラウ以外に所属するのを、ラウが嫌がったという事情もあるとは思うけど。
許可した人の頭の中身を疑いたくもなってくるわ。
それで、占いだ。
占いといえば、運命と宿命の神バルナ様が司る。
赤種の鑑定眼も根幹はバルナ様の力なので、鑑定眼と占い技能は似たところがあるのだ。
「未来が視えるの?」
「いいえ、占いです」
「未来を視るのとは違うの?」
「占いは、その人が持って生まれた運から未来の可能性を診断するんです」
確実な未来ってわけじゃないってことか。それにしても、あやふやというか、はっきりしないな。
なのに、よく当たるってどういうことだろう?
「鑑定とは違うの?」
「鑑定は過去の歴史や現在の状態を判断するものでしょう?」
「うん、そうだね」
赤種の鑑定眼や時空眼は人や物の過去や現在を視る。現在より先の未来は視えない。
「占いはその先、未来の推測です」
「推測なんだ」
「未来は変わりますから」
「へー」
それは努力次第で変わってくるってことなのかな。自分の力で未来を作るって良いよね。
で、そんな感じなのに、よく当たるってどういうことだろう?
「それで、何を占いましょうか?」
「それじゃ、ぜんぶ!」
私は思い切った。ぜんぶだ。
ひとつになんて絞れないし。ひとつ聞いて、あれも聞いておけば良かった!なんて、後で思いたくない。
「ぜんぶ?」
占い師は驚いたそぶりをみせ、ゆったりとした口調で、私の言葉を繰り返す。
「そう、よく占いするもの、ぜんぶで!」
「ひとつずつでは、ないんですね」
水盤の表面を撫でるように手を動かしながら、占い師が確認する。
「次、いつ外出できるか分からないし。また、ここに来れるか分からないから」
「なるほど」
目まで隠れているので、占い師の視線はよく分からないが、どうやら私の頭の上あたりを見やったらしい。
そう。さっきから私と占い師しか言葉を発していないけど、この占い部屋と呼ばれる空間には、三人いる。
無言の三人目は、イスに座り、私を膝の上に座らせ、ガッシリと後ろから私を抱きしめていた。
ちょっと暑い。
そう。私の夫だ。暑苦しい夫が私の背後にぴったりくっついている。
静かにしている代わりに、後ろからの抱きしめ許可を出したので、暑苦しい上に重苦しい夫になっていた。
占い師の人、これを見ていろいろ悟ったんだろうな。さすが未来を推測する占い師、悟りが早いな。
なるほど、って言っただけで、何ひとつ聞いてこないよ。
背後のラウのことだって、一切、触れてこないし。
私もあえて説明してないけど。
「私もいつまでもここにいるとは、限りませんからね」
「だから、ぜんぶで」
「いいでしょう」
よし、希望は通った。
占い師は何やらつぶやきながら、水盤に手をかざす。
詠唱魔法でもないし、ましてや精霊魔法でもない。占い魔法なんて聞いたことないしな。
何の魔法か見極めようと前のめりになったとたん、目の前が暗くなる。視えない。
「ラウ」
そう。私の夫だ。夫の大きくて温かい手が私の目を覆っていた。
「視えないんだけど」
「フィアが、俺以外を熱心に見るなんて耐えられない」
「占いを視ようとしてただけだけど」
「フィアは、俺より占いの方が好きなのか?」
占いに嫉妬しないでくれるかなー?
「俺は占いに負けたくない」
うん。それって、どういう争い?
「勝って、フィアを独り占めするのはこの俺だ」
うん。ラウの独り勝ちでいいから。
「ラウ。後ろから抱きしめていいから、その代わり静かにしてるって約束だったよね」
「うっ」
ようやく、目を覆った手をどかしてもらうと、占い師は手を水盤の横に置いて、静かにこっちを眺めているようだった。
口元をにっこりさせる占い師。
近くの紙の束から一枚を手にとり、おもむろに話し始めた。
「それではまずは、」
私と占い師は、水盤を乗せた小さいテーブルを挟んで、イスに座って対峙していた。
占い師は、黒いローブを頭からスッポリと被っていて、口元しか見えない。
男性なのか女性なのか、髪の色や目の色も不明だ。
いつまでもじーっと占い師を見つめる私に向かって、水盤に手をかざした占い師が声をかけてきた。
「何を占いましょうか?」
若そうな男の声だ。聞き覚えはない。
初対面で間違いないんだろうけど、なんか、引っかかりを覚える。
「何ができるの?」
「何でもできますよ」
「へー」
占い師は自信満々に答えた。かなり実力があるようだ。
ま、ルミアーナさんも、良く当たると人気の占い師だ、と言ってたよな。
私は職場の同僚であるクリンクリンとした金髪の女性を思い浮かべた。
ルミアーナ・エレバウトさんは、私と同じ第六師団で働いている、情報通の補佐官だ。
恋人がいない割に、デートコースに詳しかったり、人気スポットに詳しかったり。
いったいどこ情報かも分からないものを毎回毎回、事あるごとに教えてくれる。
そして、それが意外と役に立つ。
ルミアーナさんは不思議が尽きない。
私は夫のラウに配属されている補佐官なのに対して、ルミアーナさんは第六師団配属で副官のカーネリウスさん付き補佐官。
ま、普通はルミアーナさんのように、師団配属なんだけど。
第六師団でラウと働きたい、そう伝えたはずが。ラウに就職したい、と盛大に勘違いされ、まさかの個人配属となったという。
誰だよ、許可した人。
私がラウ以外に所属するのを、ラウが嫌がったという事情もあるとは思うけど。
許可した人の頭の中身を疑いたくもなってくるわ。
それで、占いだ。
占いといえば、運命と宿命の神バルナ様が司る。
赤種の鑑定眼も根幹はバルナ様の力なので、鑑定眼と占い技能は似たところがあるのだ。
「未来が視えるの?」
「いいえ、占いです」
「未来を視るのとは違うの?」
「占いは、その人が持って生まれた運から未来の可能性を診断するんです」
確実な未来ってわけじゃないってことか。それにしても、あやふやというか、はっきりしないな。
なのに、よく当たるってどういうことだろう?
「鑑定とは違うの?」
「鑑定は過去の歴史や現在の状態を判断するものでしょう?」
「うん、そうだね」
赤種の鑑定眼や時空眼は人や物の過去や現在を視る。現在より先の未来は視えない。
「占いはその先、未来の推測です」
「推測なんだ」
「未来は変わりますから」
「へー」
それは努力次第で変わってくるってことなのかな。自分の力で未来を作るって良いよね。
で、そんな感じなのに、よく当たるってどういうことだろう?
「それで、何を占いましょうか?」
「それじゃ、ぜんぶ!」
私は思い切った。ぜんぶだ。
ひとつになんて絞れないし。ひとつ聞いて、あれも聞いておけば良かった!なんて、後で思いたくない。
「ぜんぶ?」
占い師は驚いたそぶりをみせ、ゆったりとした口調で、私の言葉を繰り返す。
「そう、よく占いするもの、ぜんぶで!」
「ひとつずつでは、ないんですね」
水盤の表面を撫でるように手を動かしながら、占い師が確認する。
「次、いつ外出できるか分からないし。また、ここに来れるか分からないから」
「なるほど」
目まで隠れているので、占い師の視線はよく分からないが、どうやら私の頭の上あたりを見やったらしい。
そう。さっきから私と占い師しか言葉を発していないけど、この占い部屋と呼ばれる空間には、三人いる。
無言の三人目は、イスに座り、私を膝の上に座らせ、ガッシリと後ろから私を抱きしめていた。
ちょっと暑い。
そう。私の夫だ。暑苦しい夫が私の背後にぴったりくっついている。
静かにしている代わりに、後ろからの抱きしめ許可を出したので、暑苦しい上に重苦しい夫になっていた。
占い師の人、これを見ていろいろ悟ったんだろうな。さすが未来を推測する占い師、悟りが早いな。
なるほど、って言っただけで、何ひとつ聞いてこないよ。
背後のラウのことだって、一切、触れてこないし。
私もあえて説明してないけど。
「私もいつまでもここにいるとは、限りませんからね」
「だから、ぜんぶで」
「いいでしょう」
よし、希望は通った。
占い師は何やらつぶやきながら、水盤に手をかざす。
詠唱魔法でもないし、ましてや精霊魔法でもない。占い魔法なんて聞いたことないしな。
何の魔法か見極めようと前のめりになったとたん、目の前が暗くなる。視えない。
「ラウ」
そう。私の夫だ。夫の大きくて温かい手が私の目を覆っていた。
「視えないんだけど」
「フィアが、俺以外を熱心に見るなんて耐えられない」
「占いを視ようとしてただけだけど」
「フィアは、俺より占いの方が好きなのか?」
占いに嫉妬しないでくれるかなー?
「俺は占いに負けたくない」
うん。それって、どういう争い?
「勝って、フィアを独り占めするのはこの俺だ」
うん。ラウの独り勝ちでいいから。
「ラウ。後ろから抱きしめていいから、その代わり静かにしてるって約束だったよね」
「うっ」
ようやく、目を覆った手をどかしてもらうと、占い師は手を水盤の横に置いて、静かにこっちを眺めているようだった。
口元をにっこりさせる占い師。
近くの紙の束から一枚を手にとり、おもむろに話し始めた。
「それではまずは、」
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