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4 騎士と破壊のお姫さま編
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「もちろん、旅行、楽しみにしています」
フィアの一言で、国王との話し合いは終了となった。
公には、第六師団長であり上位竜種である俺の仕事ぶりを労うための『謁見』だった。
が、その実は、破壊の赤種であるフィアを呼び出すためだ。
グランミストとベルンドゥアン、この二家門との話し合いを、俺はずっと断り続けた。
その結果、国王が動く事態となったのだ。
「旅行、旅行、旅行」
俺は隣で楽しそうにしているフィアを見て、複雑な気持ちになる。
フィアは俺との旅行のために、気乗りしない話し合いを了承したんだ。
そんなフィアの気持ちを受けて、嬉しいが半分、心苦しいが半分、俺の胸を占めた。
「あいつら、国王にまで話を持っていきやがって」
そんな俺のつぶやきを気にもせず、フィアは笑顔を見せた。
「旅行、楽しみだね。ラウ」
その日の夜。
夕食の後片付けを終えたフィアが、ソファーに座る俺の横にやってきて、ぽすんと座った。
またもや、昼間の旅行の話を思い出してでもいるんだろうか。表情がとても柔らかい。ニコニコしている。
俺は余計に心配になった。
「本当に本当にいいのか、フィア」
「会うだけでしょ。別にいいよ」
フィアはそっけなく答え、茶菓子のクッキーに手を伸ばす。
ナッツとチョコチップが入ったクッキーと、リンゴにシナモンを混ぜ込んだクッキー。試しに焼いてみたら、どちらも気に入ったようだ。
「本当に本当に大丈夫なんだな、フィア」
「ラウは何の心配をしてるの?」
フィアが両手にクッキーを握りしめて、首を傾げた。
「フィアが嫌な気分になるんじゃないかと思って」
「嫌な気分?」
首を傾げながら、クッキーを見ている。
俺の心配事より、クッキーが気になるらしい。
まぁ、そのクッキーも俺のあれが入ってる。フィアに、たくさん食べてもらった方が俺にとっては都合がいい。
「だってあいつら、ネージュの時は何もしなかったやつらだろ?」
「そうだね」
フィアはついに、リンゴとシナモンのクッキーにかじり付いた。
美味しかったようで、ぱっと目を見張る。かわいい。
「なのに今度は、手のひらを返したようにネージュネージュと言い張って」
「ラウは何が気に入らないの?」
口の中のクッキーをもごもごさせ、フィアがまた訊いてきた。
「自分たちの都合で態度を変えて、私にすりよってくるのが気に食わないの?」
クッキーから視線を外し、俺をじっと見る。
「それとも、私があの人たちに惑わされて、ここからいなくなるかもって思ってるの?」
ぽわんとしていても鋭いんだよな。
「どっちもだ」
そうは答えたが、本当に心配で不安なのは後者だ。
「夫婦なんだから、夫をおいていなくなることはないよね」
「前、別々にしようとしてたじゃないか」
「あれ、ラウが私のものを取り上げて返してくれなかったからでしょ」
「それは、そうだが」
そう。フィアとは以前、別居騒動を起こしている。
逃げられる寸前のところで捕獲して、家に連れ戻せたので、大事には至らなかった。本当に良かった。
あのときは、お互いの気持ちや考えがすれ違って、いろいろな思い込みで行動したのが、マズかったんだと今では分かる。
だから、今、できる限り正直にフィアと向き合おうとはしている。
これがなかなか難しい。
「それに今の私はネージュじゃないから」
「でも、ネージュだっただろ?」
「崖から落ちるまではね」
不安な俺とは反対に、フィアは動揺もなく淡々と話を続ける。
こうやって、フィアや赤種にしか分からないような話も、ときおり、してくれるようになった。
「あのとき、時空の狭間に行って、デュク様に会ってたんだよね」
ゲホ。
してくれるようになったはいいが、スケールが神様レベルだった。
思わず、むせる。
「創造と終焉の神か」
「普通種は時空の狭間になんて行けないでしょ。あのときから、私はネージュじゃなくなった」
そして、ときおり、理解が追いつかない話も出てくるようになった。
「分かりにくいよね」
俺の顔を見て、フィアが小さく笑った。
「簡単に言えば、普通種としての私がネージュ、赤種としての私がクロスフィア。
私は赤種だから、もうネージュではないしネージュには戻れない」
とても寂しそうな笑顔だった。
いつの間にか、フィアが両手に持っていたクッキーも消えていて、フィアは両手をギュッと握りしめていた。
「どっちのお前でもお前はお前だろ。そして、俺の伴侶だ」
「ラウがそう言ってくれて、嬉しい」
俺に抱き寄せられ、フィアがペタッと胸に顔をくっつける。
ドクンドクンと心臓の音がうるさい。
「最近、ネージュとしての記憶が、他人の記憶のようになってきてるんだよね。
考え方、感じ方も普通種とは違ってきてると思う」
俺の胸に顔をうずめているせいで、フィアの表情は分からないが、口調がいつもより暗い。
ふと、フィアが顔をあげる。
「それが理由で、ラウに嫌われたらどうしよう、って思ってた」
なんだその顔は。反則だろう、フィア。
こんな表情を他の男になんて、見せてやるものか。
「俺の大事な奥さんのことを、俺が嫌うわけないだろ」
俺はフィアを大切に大切に抱きしめ直すと、フィアはホッとしたように漏らす。
「良かった」
身体の力が抜けたのか、胸にかかる重みが増した。
同時に、フィアの重みと同じだけ、フィアの言葉が俺の胸に染みていく。
俺は誓いを新たにした。
俺の奥さんに手を出すやつは、誰だろうが、ただじゃおかない。
フィアの一言で、国王との話し合いは終了となった。
公には、第六師団長であり上位竜種である俺の仕事ぶりを労うための『謁見』だった。
が、その実は、破壊の赤種であるフィアを呼び出すためだ。
グランミストとベルンドゥアン、この二家門との話し合いを、俺はずっと断り続けた。
その結果、国王が動く事態となったのだ。
「旅行、旅行、旅行」
俺は隣で楽しそうにしているフィアを見て、複雑な気持ちになる。
フィアは俺との旅行のために、気乗りしない話し合いを了承したんだ。
そんなフィアの気持ちを受けて、嬉しいが半分、心苦しいが半分、俺の胸を占めた。
「あいつら、国王にまで話を持っていきやがって」
そんな俺のつぶやきを気にもせず、フィアは笑顔を見せた。
「旅行、楽しみだね。ラウ」
その日の夜。
夕食の後片付けを終えたフィアが、ソファーに座る俺の横にやってきて、ぽすんと座った。
またもや、昼間の旅行の話を思い出してでもいるんだろうか。表情がとても柔らかい。ニコニコしている。
俺は余計に心配になった。
「本当に本当にいいのか、フィア」
「会うだけでしょ。別にいいよ」
フィアはそっけなく答え、茶菓子のクッキーに手を伸ばす。
ナッツとチョコチップが入ったクッキーと、リンゴにシナモンを混ぜ込んだクッキー。試しに焼いてみたら、どちらも気に入ったようだ。
「本当に本当に大丈夫なんだな、フィア」
「ラウは何の心配をしてるの?」
フィアが両手にクッキーを握りしめて、首を傾げた。
「フィアが嫌な気分になるんじゃないかと思って」
「嫌な気分?」
首を傾げながら、クッキーを見ている。
俺の心配事より、クッキーが気になるらしい。
まぁ、そのクッキーも俺のあれが入ってる。フィアに、たくさん食べてもらった方が俺にとっては都合がいい。
「だってあいつら、ネージュの時は何もしなかったやつらだろ?」
「そうだね」
フィアはついに、リンゴとシナモンのクッキーにかじり付いた。
美味しかったようで、ぱっと目を見張る。かわいい。
「なのに今度は、手のひらを返したようにネージュネージュと言い張って」
「ラウは何が気に入らないの?」
口の中のクッキーをもごもごさせ、フィアがまた訊いてきた。
「自分たちの都合で態度を変えて、私にすりよってくるのが気に食わないの?」
クッキーから視線を外し、俺をじっと見る。
「それとも、私があの人たちに惑わされて、ここからいなくなるかもって思ってるの?」
ぽわんとしていても鋭いんだよな。
「どっちもだ」
そうは答えたが、本当に心配で不安なのは後者だ。
「夫婦なんだから、夫をおいていなくなることはないよね」
「前、別々にしようとしてたじゃないか」
「あれ、ラウが私のものを取り上げて返してくれなかったからでしょ」
「それは、そうだが」
そう。フィアとは以前、別居騒動を起こしている。
逃げられる寸前のところで捕獲して、家に連れ戻せたので、大事には至らなかった。本当に良かった。
あのときは、お互いの気持ちや考えがすれ違って、いろいろな思い込みで行動したのが、マズかったんだと今では分かる。
だから、今、できる限り正直にフィアと向き合おうとはしている。
これがなかなか難しい。
「それに今の私はネージュじゃないから」
「でも、ネージュだっただろ?」
「崖から落ちるまではね」
不安な俺とは反対に、フィアは動揺もなく淡々と話を続ける。
こうやって、フィアや赤種にしか分からないような話も、ときおり、してくれるようになった。
「あのとき、時空の狭間に行って、デュク様に会ってたんだよね」
ゲホ。
してくれるようになったはいいが、スケールが神様レベルだった。
思わず、むせる。
「創造と終焉の神か」
「普通種は時空の狭間になんて行けないでしょ。あのときから、私はネージュじゃなくなった」
そして、ときおり、理解が追いつかない話も出てくるようになった。
「分かりにくいよね」
俺の顔を見て、フィアが小さく笑った。
「簡単に言えば、普通種としての私がネージュ、赤種としての私がクロスフィア。
私は赤種だから、もうネージュではないしネージュには戻れない」
とても寂しそうな笑顔だった。
いつの間にか、フィアが両手に持っていたクッキーも消えていて、フィアは両手をギュッと握りしめていた。
「どっちのお前でもお前はお前だろ。そして、俺の伴侶だ」
「ラウがそう言ってくれて、嬉しい」
俺に抱き寄せられ、フィアがペタッと胸に顔をくっつける。
ドクンドクンと心臓の音がうるさい。
「最近、ネージュとしての記憶が、他人の記憶のようになってきてるんだよね。
考え方、感じ方も普通種とは違ってきてると思う」
俺の胸に顔をうずめているせいで、フィアの表情は分からないが、口調がいつもより暗い。
ふと、フィアが顔をあげる。
「それが理由で、ラウに嫌われたらどうしよう、って思ってた」
なんだその顔は。反則だろう、フィア。
こんな表情を他の男になんて、見せてやるものか。
「俺の大事な奥さんのことを、俺が嫌うわけないだろ」
俺はフィアを大切に大切に抱きしめ直すと、フィアはホッとしたように漏らす。
「良かった」
身体の力が抜けたのか、胸にかかる重みが増した。
同時に、フィアの重みと同じだけ、フィアの言葉が俺の胸に染みていく。
俺は誓いを新たにした。
俺の奥さんに手を出すやつは、誰だろうが、ただじゃおかない。
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