精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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4 騎士と破壊のお姫さま編

4-5

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「もちろん、旅行、楽しみにしています」

 フィアの一言で、国王との話し合いは終了となった。

 公には、第六師団長であり上位竜種である俺の仕事ぶりを労うための『謁見』だった。
 が、その実は、破壊の赤種であるフィアを呼び出すためだ。

 グランミストとベルンドゥアン、この二家門との話し合いを、俺はずっと断り続けた。

 その結果、国王が動く事態となったのだ。

「旅行、旅行、旅行」

 俺は隣で楽しそうにしているフィアを見て、複雑な気持ちになる。

 フィアは俺との旅行のために、気乗りしない話し合いを了承したんだ。
 そんなフィアの気持ちを受けて、嬉しいが半分、心苦しいが半分、俺の胸を占めた。

「あいつら、国王にまで話を持っていきやがって」

 そんな俺のつぶやきを気にもせず、フィアは笑顔を見せた。

「旅行、楽しみだね。ラウ」




 その日の夜。

 夕食の後片付けを終えたフィアが、ソファーに座る俺の横にやってきて、ぽすんと座った。

 またもや、昼間の旅行の話を思い出してでもいるんだろうか。表情がとても柔らかい。ニコニコしている。

 俺は余計に心配になった。

「本当に本当にいいのか、フィア」

「会うだけでしょ。別にいいよ」

 フィアはそっけなく答え、茶菓子のクッキーに手を伸ばす。

 ナッツとチョコチップが入ったクッキーと、リンゴにシナモンを混ぜ込んだクッキー。試しに焼いてみたら、どちらも気に入ったようだ。

「本当に本当に大丈夫なんだな、フィア」

「ラウは何の心配をしてるの?」

 フィアが両手にクッキーを握りしめて、首を傾げた。

「フィアが嫌な気分になるんじゃないかと思って」

「嫌な気分?」

 首を傾げながら、クッキーを見ている。
 俺の心配事より、クッキーが気になるらしい。

 まぁ、そのクッキーも俺のあれが入ってる。フィアに、たくさん食べてもらった方が俺にとっては都合がいい。

「だってあいつら、ネージュの時は何もしなかったやつらだろ?」

「そうだね」

 フィアはついに、リンゴとシナモンのクッキーにかじり付いた。
 美味しかったようで、ぱっと目を見張る。かわいい。

「なのに今度は、手のひらを返したようにネージュネージュと言い張って」

「ラウは何が気に入らないの?」

 口の中のクッキーをもごもごさせ、フィアがまた訊いてきた。

「自分たちの都合で態度を変えて、私にすりよってくるのが気に食わないの?」

 クッキーから視線を外し、俺をじっと見る。

「それとも、私があの人たちに惑わされて、ここからいなくなるかもって思ってるの?」

 ぽわんとしていても鋭いんだよな。

「どっちもだ」

 そうは答えたが、本当に心配で不安なのは後者だ。

「夫婦なんだから、夫をおいていなくなることはないよね」

「前、別々にしようとしてたじゃないか」

「あれ、ラウが私のものを取り上げて返してくれなかったからでしょ」

「それは、そうだが」

 そう。フィアとは以前、別居騒動を起こしている。
 逃げられる寸前のところで捕獲して、家に連れ戻せたので、大事には至らなかった。本当に良かった。

 あのときは、お互いの気持ちや考えがすれ違って、いろいろな思い込みで行動したのが、マズかったんだと今では分かる。

 だから、今、できる限り正直にフィアと向き合おうとはしている。

 これがなかなか難しい。

「それに今の私はネージュじゃないから」

「でも、ネージュだっただろ?」

「崖から落ちるまではね」

 不安な俺とは反対に、フィアは動揺もなく淡々と話を続ける。

 こうやって、フィアや赤種にしか分からないような話も、ときおり、してくれるようになった。

「あのとき、時空の狭間に行って、デュク様に会ってたんだよね」

 ゲホ。

 してくれるようになったはいいが、スケールが神様レベルだった。

 思わず、むせる。

「創造と終焉の神か」

「普通種は時空の狭間になんて行けないでしょ。あのときから、私はネージュじゃなくなった」

 そして、ときおり、理解が追いつかない話も出てくるようになった。

「分かりにくいよね」

 俺の顔を見て、フィアが小さく笑った。

「簡単に言えば、普通種としての私がネージュ、赤種としての私がクロスフィア。
 私は赤種だから、もうネージュではないしネージュには戻れない」

 とても寂しそうな笑顔だった。

 いつの間にか、フィアが両手に持っていたクッキーも消えていて、フィアは両手をギュッと握りしめていた。

「どっちのお前でもお前はお前だろ。そして、俺の伴侶だ」

「ラウがそう言ってくれて、嬉しい」

 俺に抱き寄せられ、フィアがペタッと胸に顔をくっつける。
 ドクンドクンと心臓の音がうるさい。

「最近、ネージュとしての記憶が、他人の記憶のようになってきてるんだよね。
 考え方、感じ方も普通種とは違ってきてると思う」

 俺の胸に顔をうずめているせいで、フィアの表情は分からないが、口調がいつもより暗い。

 ふと、フィアが顔をあげる。

「それが理由で、ラウに嫌われたらどうしよう、って思ってた」

 なんだその顔は。反則だろう、フィア。

 こんな表情を他の男になんて、見せてやるものか。

「俺の大事な奥さんのことを、俺が嫌うわけないだろ」

 俺はフィアを大切に大切に抱きしめ直すと、フィアはホッとしたように漏らす。

「良かった」

 身体の力が抜けたのか、胸にかかる重みが増した。
 同時に、フィアの重みと同じだけ、フィアの言葉が俺の胸に染みていく。

 俺は誓いを新たにした。

 俺の奥さんに手を出すやつは、誰だろうが、ただじゃおかない。
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