214 / 384
4 騎士と破壊のお姫さま編
5-7
しおりを挟む
六月に入り、師団の欠員補充がようやく終わった。
非常事態で途中採用、しかも微妙な二ヶ月遅れという状況ではあるものの、新人採用も研修も順調のようだ。
私が関係する第六師団も第一塔も、新人採用はなかったので、私の周りに変化はない。
慌ただしくする他の師団を横目に見ながら、第六師団は淡々と業務をこなしている。
三番目が潜んでいると思われる地、辺境の中立エリアの捜索は第一塔と第七師団が、今も必死になって行っているそうだ。
「けっきょく、三番目はまだ見つかってないんだよね」
「辺境はうちの管轄ではないし、中立エリアは自由に探索できないからな」
「見つかりにくいから、あそこに潜んでるってことだもんね」
本部へ続く道を歩きながら、ラウと三番目の話をしていると、突然、ラウが立ち止まった。
「フィア」
「なぁに、ラウ?」
突然、どうしたんだろう、と思いながら、私はラウを見上げる。
ラウの方は真剣な表情で、私を見下ろす。自然と視線が合った。
「茶会とはいえ、俺以外に目をやってはダメだぞ」
それ、朝も言ってたよね。朝だけじゃなく、第六師団を出る前も言ってたよね。
「どこ見てればいいの?」
「俺だ」
そうは言われても。
「ラウ、交流会にいないよね」
そう。今、向かっているのは、新入師団員のための交流会。まぁ、お茶会みたいなものを想像している。
なんで想像なのかというと、交流会が開催されるのは初めてなため、前例がないから。過去の資料がまったくないのだ。
「ちっ。あいつ、交流会なんて開催しやがって。わざわざ親睦なんか深めなくてもいいものを」
ラウがここにいない主催者に文句を言い捨てる。
今日の交流会は、新入師団員同士横のつながりを持ちやすくするためのものだった。
武道大会の騒動を受けて、師団内の派閥化が危険視される中、試験的に行うことになったそうだ。
もちろん、師団ごとに機密があるので、情報漏洩の教育についても十分に受けた上での、交流会となる。
「そんなに師団内の繋がりが危ないと思うなら、固めるような人事をやるなよな」
ラウがブツブツ言いながらも、私の手を取って、また歩き始めた。
ラウの意見は、まぁ、その通りなんだよね。
だって、第四師団こそ、そういう師団なんだから。
当然、今回のような危険があるのは分かっていたはず。
ラウのブツブツを聞いているうちに、本部の建物に到着した。
ラウとはここで別れて、私は交流会の会場へ、ラウは第二師団、第四師団との打ち合わせへ。
手を離そうとした矢先、私の目の前に、ラウが何かを差し出した。
これは、
「私とラウの記録、画?!」
魔道具で映像記録ができるんだから、肖像記録ももちろんできる。
ラウが差し出したのは、肖像記録の記録画だった。
まさか、
「交流会中、これを眺めていろと?」
私と目が合って、にんまり笑うラウ。
というか、いつの間にこんなの作ったの?!
「はっ。また、記録班?!」
キョロキョロする私の頭が一撫でされた。
「メランド卿、よろしく頼む。また後でな、フィア」
一声かけて、颯爽と歩き去るラウ。
あの様子だと絶対にもっとあるな。私の記録画。
さて、交流会。
その中身は、今年採用となったばかりの新人のみを集めた『お茶会』だった。
ま、そんなところだとは思ったけど。
新人交流会なので、参加は就職一年未満の新人のみ。
当然、ラウは参加不可。再就職のメモリアは参加可だったので、いっしょに参加する運びとなった。
「なにせ初めての試みで。時間もなくて準備も大変で」
案内してくれた係の人が、そうボヤいていた割には、なかなか考えて用意してある。
お茶とお菓子の他、軽食が用意されていて、立食も座食もできる形式。自由に飲食や歓談ができるようになっている。
あちこちに係員がいて、お茶やお菓子などの提供や配膳を行う他、参加者を様子見するそぶりも見せていた。
「師団員同士の出会いの場としての開催も、検討されていますので。反応もしっかり観察させていただいてます」
案内の人がそう説明してくれたけど、観察という言葉を使っているだけで、内容は監視だ。
まぁ、交流会でケンカや嫌がらせが起きたら、開催側も困るしね。
「お一人、ま…………だ、到着されてない方がいますので。もう少々お待ちください」
一礼して、案内係の人が去っていって、しばらくしてから交流会が始まった。
「クリムゾンのクロエル様、お初にお目にかかります」
これで何人目だろう。
何人もの人が代わる代わる、挨拶に来る。
うん、ちょっと疲れるな。
お茶飲んでお菓子食べてまったりする会、ではなかったな、これ。
交流会なんだから、挨拶して回っている新人さんの行動は正しい。
正しいと思うからこそ、邪険にもできず、私は何度目か分からないくらいの同じ挨拶を返す。
「初めまして。クロスフィア・クロエル・ドラグニールです。よろしくお願いしますね」
ありがたいのは、皆、会話が長く続かないこと。
破壊の赤種という珍しい存在なので、意外と挨拶したい人が多い。
だから、長々と話をしていると、挨拶の順番待ちの人からの視線が刺さる。見事に刺さる。ざっくり刺さる。
さすがに、それに耐えて長話ができる新人はいなかった。
おかげで、一つ二つ、話題が出たところで会話が終わる。ふぅ。お菓子を食べる暇もないなんて。
そんな私を見て、隣に座るノルンガルスさんが、ケーキを口に運びながら話しかけてきた。
「クロエル先輩、お疲れのようですね」
ノルンガルスさんは、私と同じ、第一塔塔長室所属の同僚。次々と挨拶に来る他の新人さんとは一線を画す。
「想像と違う。誰にも話しかけられないと思ってたのに」
「皆さん、絶対に話をしにきますって!」
「そうなの?」
「ドラグニール師団長がそばにいないなんて、滅多にありませんから!」
「そこか」
私は手元の記録画を眺めながら、つぶやいた。
「あの、えーっと、お久しぶりです」
「クロエル先輩、第八師団の方々です」
挨拶待ちの列が途切れたので、いそいそと口にケーキを入れたとたんに、これだ。
同じタイミングで食べ始めたノルンガルスさんは、さっと半分食べ終わっている。
私は口をもぐもぐさせながら、顔をあげた。やってきたのは二人。どちらも知っている顔。
「あ、グランミストさん」
「ごめんなさいいい。会場の場所が分からず、またまた、皆さんにご迷惑をかけまして」
総師団長の娘さん、リナーシア・グランミストさんだ。
あ、始まりが少し遅れたのは、この人のせいか。場所が分からなかったというか、迷子になってたどり着けなかったんだな。
「クロエル先輩、顔、顔。またかー、みたいな顔してますよ」
むぅ。ぱくん。ケーキを食べてごまかしてみる。そして、グランミストさんの隣にはもう一人。
「初めまして。クロエル様」
「お久しぶり、と、初めまして、ですね。クロスフィア・クロエル・ドラグニールです。よろしくお願いしますね」
私は表情を引き締め、外向きの笑顔を作り、二人に話しかけた。
「グランミストさんに、グランフレイムさん」
挨拶に来たもう一人は、マリージュだった。キラキラした目で私を見るマリージュは、相変わらずキラキラした光を纏っていた。
非常事態で途中採用、しかも微妙な二ヶ月遅れという状況ではあるものの、新人採用も研修も順調のようだ。
私が関係する第六師団も第一塔も、新人採用はなかったので、私の周りに変化はない。
慌ただしくする他の師団を横目に見ながら、第六師団は淡々と業務をこなしている。
三番目が潜んでいると思われる地、辺境の中立エリアの捜索は第一塔と第七師団が、今も必死になって行っているそうだ。
「けっきょく、三番目はまだ見つかってないんだよね」
「辺境はうちの管轄ではないし、中立エリアは自由に探索できないからな」
「見つかりにくいから、あそこに潜んでるってことだもんね」
本部へ続く道を歩きながら、ラウと三番目の話をしていると、突然、ラウが立ち止まった。
「フィア」
「なぁに、ラウ?」
突然、どうしたんだろう、と思いながら、私はラウを見上げる。
ラウの方は真剣な表情で、私を見下ろす。自然と視線が合った。
「茶会とはいえ、俺以外に目をやってはダメだぞ」
それ、朝も言ってたよね。朝だけじゃなく、第六師団を出る前も言ってたよね。
「どこ見てればいいの?」
「俺だ」
そうは言われても。
「ラウ、交流会にいないよね」
そう。今、向かっているのは、新入師団員のための交流会。まぁ、お茶会みたいなものを想像している。
なんで想像なのかというと、交流会が開催されるのは初めてなため、前例がないから。過去の資料がまったくないのだ。
「ちっ。あいつ、交流会なんて開催しやがって。わざわざ親睦なんか深めなくてもいいものを」
ラウがここにいない主催者に文句を言い捨てる。
今日の交流会は、新入師団員同士横のつながりを持ちやすくするためのものだった。
武道大会の騒動を受けて、師団内の派閥化が危険視される中、試験的に行うことになったそうだ。
もちろん、師団ごとに機密があるので、情報漏洩の教育についても十分に受けた上での、交流会となる。
「そんなに師団内の繋がりが危ないと思うなら、固めるような人事をやるなよな」
ラウがブツブツ言いながらも、私の手を取って、また歩き始めた。
ラウの意見は、まぁ、その通りなんだよね。
だって、第四師団こそ、そういう師団なんだから。
当然、今回のような危険があるのは分かっていたはず。
ラウのブツブツを聞いているうちに、本部の建物に到着した。
ラウとはここで別れて、私は交流会の会場へ、ラウは第二師団、第四師団との打ち合わせへ。
手を離そうとした矢先、私の目の前に、ラウが何かを差し出した。
これは、
「私とラウの記録、画?!」
魔道具で映像記録ができるんだから、肖像記録ももちろんできる。
ラウが差し出したのは、肖像記録の記録画だった。
まさか、
「交流会中、これを眺めていろと?」
私と目が合って、にんまり笑うラウ。
というか、いつの間にこんなの作ったの?!
「はっ。また、記録班?!」
キョロキョロする私の頭が一撫でされた。
「メランド卿、よろしく頼む。また後でな、フィア」
一声かけて、颯爽と歩き去るラウ。
あの様子だと絶対にもっとあるな。私の記録画。
さて、交流会。
その中身は、今年採用となったばかりの新人のみを集めた『お茶会』だった。
ま、そんなところだとは思ったけど。
新人交流会なので、参加は就職一年未満の新人のみ。
当然、ラウは参加不可。再就職のメモリアは参加可だったので、いっしょに参加する運びとなった。
「なにせ初めての試みで。時間もなくて準備も大変で」
案内してくれた係の人が、そうボヤいていた割には、なかなか考えて用意してある。
お茶とお菓子の他、軽食が用意されていて、立食も座食もできる形式。自由に飲食や歓談ができるようになっている。
あちこちに係員がいて、お茶やお菓子などの提供や配膳を行う他、参加者を様子見するそぶりも見せていた。
「師団員同士の出会いの場としての開催も、検討されていますので。反応もしっかり観察させていただいてます」
案内の人がそう説明してくれたけど、観察という言葉を使っているだけで、内容は監視だ。
まぁ、交流会でケンカや嫌がらせが起きたら、開催側も困るしね。
「お一人、ま…………だ、到着されてない方がいますので。もう少々お待ちください」
一礼して、案内係の人が去っていって、しばらくしてから交流会が始まった。
「クリムゾンのクロエル様、お初にお目にかかります」
これで何人目だろう。
何人もの人が代わる代わる、挨拶に来る。
うん、ちょっと疲れるな。
お茶飲んでお菓子食べてまったりする会、ではなかったな、これ。
交流会なんだから、挨拶して回っている新人さんの行動は正しい。
正しいと思うからこそ、邪険にもできず、私は何度目か分からないくらいの同じ挨拶を返す。
「初めまして。クロスフィア・クロエル・ドラグニールです。よろしくお願いしますね」
ありがたいのは、皆、会話が長く続かないこと。
破壊の赤種という珍しい存在なので、意外と挨拶したい人が多い。
だから、長々と話をしていると、挨拶の順番待ちの人からの視線が刺さる。見事に刺さる。ざっくり刺さる。
さすがに、それに耐えて長話ができる新人はいなかった。
おかげで、一つ二つ、話題が出たところで会話が終わる。ふぅ。お菓子を食べる暇もないなんて。
そんな私を見て、隣に座るノルンガルスさんが、ケーキを口に運びながら話しかけてきた。
「クロエル先輩、お疲れのようですね」
ノルンガルスさんは、私と同じ、第一塔塔長室所属の同僚。次々と挨拶に来る他の新人さんとは一線を画す。
「想像と違う。誰にも話しかけられないと思ってたのに」
「皆さん、絶対に話をしにきますって!」
「そうなの?」
「ドラグニール師団長がそばにいないなんて、滅多にありませんから!」
「そこか」
私は手元の記録画を眺めながら、つぶやいた。
「あの、えーっと、お久しぶりです」
「クロエル先輩、第八師団の方々です」
挨拶待ちの列が途切れたので、いそいそと口にケーキを入れたとたんに、これだ。
同じタイミングで食べ始めたノルンガルスさんは、さっと半分食べ終わっている。
私は口をもぐもぐさせながら、顔をあげた。やってきたのは二人。どちらも知っている顔。
「あ、グランミストさん」
「ごめんなさいいい。会場の場所が分からず、またまた、皆さんにご迷惑をかけまして」
総師団長の娘さん、リナーシア・グランミストさんだ。
あ、始まりが少し遅れたのは、この人のせいか。場所が分からなかったというか、迷子になってたどり着けなかったんだな。
「クロエル先輩、顔、顔。またかー、みたいな顔してますよ」
むぅ。ぱくん。ケーキを食べてごまかしてみる。そして、グランミストさんの隣にはもう一人。
「初めまして。クロエル様」
「お久しぶり、と、初めまして、ですね。クロスフィア・クロエル・ドラグニールです。よろしくお願いしますね」
私は表情を引き締め、外向きの笑顔を作り、二人に話しかけた。
「グランミストさんに、グランフレイムさん」
挨拶に来たもう一人は、マリージュだった。キラキラした目で私を見るマリージュは、相変わらずキラキラした光を纏っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
218
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる