279 / 384
6 討伐大会編
1-2
しおりを挟む
テラのあれ発言で、私以外の全員に緊張が走ったものの、
ゴツン!
「いてててててててててて」
エルヴェスさんの拳によって、緊張が終息する。
「ちょっと、チビッコ! ヨケーなこと、言わないでくれる?!」
何がなんだか分からないから、ありがたいのか、そうでないのかも、よく分からない。
頭を押さえるテラをぼーっと眺めていると、エルヴェスさんが口を滑らせた。
「ブアイソウが、ほわほわちゃんにナイショで、すんごくエッチなこと考えているんダカラ!」
「おい! エルヴェス!」
余計なことを言ってるのは、エルヴェスさんの方だった。
図星なのか間違いなのか、慌てるラウ。
「違うだろ! フィアに誤解されるだろうが!」
「ハァーア? アレのついでにアレコレしようと思ってるでしょー?」
「エルヴェス、アレとかアレコレとか言うな! 言い方!」
慌て方が怪しくもないけど、とにかく、私はラウを落ち着かせた。話を先に進ませてほしい。
ラウの手をギュッと握りしめたまま、うん、こうしておけばラウは少しはおとなしいから、私は皆に問いかけた。
もじもじして、柔らかいとか温かいとかうっとりつぶやくラウを無視して。
「だから、『あれ』って何なの?」
「討伐大会ですわ!」
ルミアーナさんがキッパリ答える。最初から、ルミアーナさんに聞けば良かった。
ルミアーナさんは私を『推し』と崇める人の中で、一番優秀で正常な人。加えて神級の推し活技能なる不思議な技能の持ち主だった。
「おいおい、四番目。討伐大会って何?みたいな顔するなよ」
「アー、ブアイソウのやつ、説明すっぽかしたわねー」
説明なんて受けてないし。
それより、エルヴェスさん。さっきからずっと、ラウのことをブアイソウってふつーに呼んでるし。
ラウはラウでずっともじもじしたまま。
「フィアが、とってもかわいすぎるのがいけないんだ」
「それ、何の理由にもなってないから」
まぁ、おとなしくさせるため、ずっと手を握りっぱなしなのが原因だけど。
「エレバウト、さっきの説明に追加しろ」
「承知いたしました、師団長!」
ルミアーナさんはまたしても、キッパリと答えた。
そうだよ、最初からぜんぶ、ルミアーナさんに聞けば良かったんだ。
こうして、ようやく、私の知りたいことの説明が始まった。
「年に一度、魔獣の活動が一番活発な時期に、混沌の樹林で魔獣の掃討を行うのですが」
私はこくこく頷いた。さっきの説明にあったやつだね。
ルミアーナさんはいったん声を小さくしたかと思ったら、元気よく、というかいつもの調子に戻って話し始めた。
「どうせなら、ついでに討伐数を競おうと国対抗大会を開催するようになったんですのよ!」
「で、それで討伐大会になったと」
どう考えても、ついで過ぎるよね!
誰が考えたか言い出したのかは知らないけど、とんでもない人だったに違いない。
「ちなみに、開催のきっかけは創造の赤種様だったそうですわ!」
「テラー」
眉をひそめて、目の前に座るテラを見た。
テラは相当慌てたのか、手に持っていたお菓子を放り出す。
「僕じゃない! 僕の先代の一番目、しかも今の僕より幼い時の話だ!」
「連帯責任」
先代だろうと一番目の責任なんだから、つまり、テラの責任だ。
バンとテーブルを叩くテラ。早口でまくし立てる。
「そんなものあるか! それに、先代が子どものころといえば、娯楽に乏しい時代だったんだから、仕方ないだろ!」
「魔獣狩りを娯楽扱いする子どもって、物騒すぎるよね」
うっ、とたじろぐテラ。どうやら物騒な子どもだという理解はあるらしい。
まぁ、テラだって似たようなものだし。
物騒すぎる子どもの一番目、感情の神に付き従う三番目。
なんだ、私が一番まともじゃないの。
「ついで上等。ドッチにしろ、討伐と浄化は必要なのよー、ほわほわちゃん」
返答に困っているテラをエルヴェスさんがフォローした。
さっきまでグーで殴っていたのに、今度はパーでテラの頭をパンパン叩いている。
「くるくるちゃん、討伐大会の説明もヨロシク」
エルヴェスさんがルミアーナさんに注文をつけると、ルミアーナさんは「お任せくださいまし」と頷いて、話を再開させた。
「各国、厳選十名からなる討伐チームを結成しまして、三日間合計の討伐数で、勝敗が決まるんですわ」
「へー」
「初日はそれぞれが国と接している場所から樹林に入り、中央部で合流。そして、混沌の樹林で魔獣討伐をしながら、過ごしますの」
「混沌の樹林の中で寝泊まりするんだ」
赤の樹林だって日帰りで行って帰ってきていたというのに。三日間、混沌の樹林に入りっぱなしで大丈夫なんだろうか。
疑問が顔に出ていたようで、ルミアーナさんが「大丈夫ですわ!」と声をかけてくる。
「詳しくは、今月発行のルミ印『すぐ解る討伐大会』をご覧くださいまし。この一冊ですべて解決しますので!」
「宣伝もぶちこんできた」
「クロスフィアさんには、この特別装丁版を進呈いたしますわ!」
「ありがとう、ルミアーナさん」
相変わらず、準備がいい。
私は差し出されるがまま、丁寧に装丁された本を受け取ってしまった。
そして、べったりとくっつくラウから繰り出される言い訳の嵐。
「つまり、アレというのは討伐大会のことで、アレコレというのは討伐大会に向けての準備のことなんだ、フィア」
「すごく言い訳がましいけど、そうだったんだね」
せっかく特別装丁版をもらったのだから、家に帰って読もうかな。
そう思っている私の周りで、話が進む。
「混沌の樹林中央部の開けた場所で、野営となりますので、念入りな準備が必要なんですわ!」
「あー、なるほど」
寝泊まりするといっても、樹林の中。寝るための建物なんてあるはずがない。
「こことここのページに、詳しく書いてありますわよ」
と、指でさししめしてくれるルミアーナさんの助言に従い、私は本のページをめくる。
カーネリウスさんやミラマーさんも私のそばにやってきて、興味深く本を覗きこんでいた。
「確かに詳しいですね」
「よくできているな」
二人も驚くような出来。さすがはルミアーナさんが作っている本『ルミ印』。
私たちがルミ印の本を見て、野営についての話題で盛り上がっている最中、私にべったりとくっつくラウが、またもや、言い訳をしてきた。
それも、特大のとんでもない言い訳を。
「野外でかわいいフィアの寝込みを襲おうだなんて、邪なことは絶対に考えてないからな、フィア」
「これ、絶対に考えてるやつだ」
ともあれ、一番気になっていた魔獣増加の原因などなどについても、テラに話が聞けたことだし、討伐大会の話も聞けた。幹部全員で情報共有もできた。
今日の会議、みたいなものはこれで終わりで良さそうだった。
「じゃあ、これで終わりだね」
私が終わり宣言をすると、ラウはそうだなと言って、私を抱きしめたまま立ち上がる。
「次はあっちだな」
て、まだあるの?
私はラウに抱き上げられた状態で、次のあっちに連れて行かれたのだった。
ゴツン!
「いてててててててててて」
エルヴェスさんの拳によって、緊張が終息する。
「ちょっと、チビッコ! ヨケーなこと、言わないでくれる?!」
何がなんだか分からないから、ありがたいのか、そうでないのかも、よく分からない。
頭を押さえるテラをぼーっと眺めていると、エルヴェスさんが口を滑らせた。
「ブアイソウが、ほわほわちゃんにナイショで、すんごくエッチなこと考えているんダカラ!」
「おい! エルヴェス!」
余計なことを言ってるのは、エルヴェスさんの方だった。
図星なのか間違いなのか、慌てるラウ。
「違うだろ! フィアに誤解されるだろうが!」
「ハァーア? アレのついでにアレコレしようと思ってるでしょー?」
「エルヴェス、アレとかアレコレとか言うな! 言い方!」
慌て方が怪しくもないけど、とにかく、私はラウを落ち着かせた。話を先に進ませてほしい。
ラウの手をギュッと握りしめたまま、うん、こうしておけばラウは少しはおとなしいから、私は皆に問いかけた。
もじもじして、柔らかいとか温かいとかうっとりつぶやくラウを無視して。
「だから、『あれ』って何なの?」
「討伐大会ですわ!」
ルミアーナさんがキッパリ答える。最初から、ルミアーナさんに聞けば良かった。
ルミアーナさんは私を『推し』と崇める人の中で、一番優秀で正常な人。加えて神級の推し活技能なる不思議な技能の持ち主だった。
「おいおい、四番目。討伐大会って何?みたいな顔するなよ」
「アー、ブアイソウのやつ、説明すっぽかしたわねー」
説明なんて受けてないし。
それより、エルヴェスさん。さっきからずっと、ラウのことをブアイソウってふつーに呼んでるし。
ラウはラウでずっともじもじしたまま。
「フィアが、とってもかわいすぎるのがいけないんだ」
「それ、何の理由にもなってないから」
まぁ、おとなしくさせるため、ずっと手を握りっぱなしなのが原因だけど。
「エレバウト、さっきの説明に追加しろ」
「承知いたしました、師団長!」
ルミアーナさんはまたしても、キッパリと答えた。
そうだよ、最初からぜんぶ、ルミアーナさんに聞けば良かったんだ。
こうして、ようやく、私の知りたいことの説明が始まった。
「年に一度、魔獣の活動が一番活発な時期に、混沌の樹林で魔獣の掃討を行うのですが」
私はこくこく頷いた。さっきの説明にあったやつだね。
ルミアーナさんはいったん声を小さくしたかと思ったら、元気よく、というかいつもの調子に戻って話し始めた。
「どうせなら、ついでに討伐数を競おうと国対抗大会を開催するようになったんですのよ!」
「で、それで討伐大会になったと」
どう考えても、ついで過ぎるよね!
誰が考えたか言い出したのかは知らないけど、とんでもない人だったに違いない。
「ちなみに、開催のきっかけは創造の赤種様だったそうですわ!」
「テラー」
眉をひそめて、目の前に座るテラを見た。
テラは相当慌てたのか、手に持っていたお菓子を放り出す。
「僕じゃない! 僕の先代の一番目、しかも今の僕より幼い時の話だ!」
「連帯責任」
先代だろうと一番目の責任なんだから、つまり、テラの責任だ。
バンとテーブルを叩くテラ。早口でまくし立てる。
「そんなものあるか! それに、先代が子どものころといえば、娯楽に乏しい時代だったんだから、仕方ないだろ!」
「魔獣狩りを娯楽扱いする子どもって、物騒すぎるよね」
うっ、とたじろぐテラ。どうやら物騒な子どもだという理解はあるらしい。
まぁ、テラだって似たようなものだし。
物騒すぎる子どもの一番目、感情の神に付き従う三番目。
なんだ、私が一番まともじゃないの。
「ついで上等。ドッチにしろ、討伐と浄化は必要なのよー、ほわほわちゃん」
返答に困っているテラをエルヴェスさんがフォローした。
さっきまでグーで殴っていたのに、今度はパーでテラの頭をパンパン叩いている。
「くるくるちゃん、討伐大会の説明もヨロシク」
エルヴェスさんがルミアーナさんに注文をつけると、ルミアーナさんは「お任せくださいまし」と頷いて、話を再開させた。
「各国、厳選十名からなる討伐チームを結成しまして、三日間合計の討伐数で、勝敗が決まるんですわ」
「へー」
「初日はそれぞれが国と接している場所から樹林に入り、中央部で合流。そして、混沌の樹林で魔獣討伐をしながら、過ごしますの」
「混沌の樹林の中で寝泊まりするんだ」
赤の樹林だって日帰りで行って帰ってきていたというのに。三日間、混沌の樹林に入りっぱなしで大丈夫なんだろうか。
疑問が顔に出ていたようで、ルミアーナさんが「大丈夫ですわ!」と声をかけてくる。
「詳しくは、今月発行のルミ印『すぐ解る討伐大会』をご覧くださいまし。この一冊ですべて解決しますので!」
「宣伝もぶちこんできた」
「クロスフィアさんには、この特別装丁版を進呈いたしますわ!」
「ありがとう、ルミアーナさん」
相変わらず、準備がいい。
私は差し出されるがまま、丁寧に装丁された本を受け取ってしまった。
そして、べったりとくっつくラウから繰り出される言い訳の嵐。
「つまり、アレというのは討伐大会のことで、アレコレというのは討伐大会に向けての準備のことなんだ、フィア」
「すごく言い訳がましいけど、そうだったんだね」
せっかく特別装丁版をもらったのだから、家に帰って読もうかな。
そう思っている私の周りで、話が進む。
「混沌の樹林中央部の開けた場所で、野営となりますので、念入りな準備が必要なんですわ!」
「あー、なるほど」
寝泊まりするといっても、樹林の中。寝るための建物なんてあるはずがない。
「こことここのページに、詳しく書いてありますわよ」
と、指でさししめしてくれるルミアーナさんの助言に従い、私は本のページをめくる。
カーネリウスさんやミラマーさんも私のそばにやってきて、興味深く本を覗きこんでいた。
「確かに詳しいですね」
「よくできているな」
二人も驚くような出来。さすがはルミアーナさんが作っている本『ルミ印』。
私たちがルミ印の本を見て、野営についての話題で盛り上がっている最中、私にべったりとくっつくラウが、またもや、言い訳をしてきた。
それも、特大のとんでもない言い訳を。
「野外でかわいいフィアの寝込みを襲おうだなんて、邪なことは絶対に考えてないからな、フィア」
「これ、絶対に考えてるやつだ」
ともあれ、一番気になっていた魔獣増加の原因などなどについても、テラに話が聞けたことだし、討伐大会の話も聞けた。幹部全員で情報共有もできた。
今日の会議、みたいなものはこれで終わりで良さそうだった。
「じゃあ、これで終わりだね」
私が終わり宣言をすると、ラウはそうだなと言って、私を抱きしめたまま立ち上がる。
「次はあっちだな」
て、まだあるの?
私はラウに抱き上げられた状態で、次のあっちに連れて行かれたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
219
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる