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7 帝国動乱編

2-0 進化はそっと陰から見守る

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 私はまたもや呼び出されていた。

「うん、なんで私はこんなところに、また来ちゃったんだろう」

「こんなところって言うなよ、四番目」

 私の発言にすかさず突っ込むテラ。

 テラとはこの前、赤種会議をしたばかり。だから私はテラに用はない。

 だいたい、テラに用があるときは、テラを呼び出すか、姿見を使った通信魔法もどきを使えば、会話ができるのだから。

 どちらかと言えば、今回は、テラも私と同じく呼び出された側。
 憮然とした顔で私の目の前の席についていた。ちょこんと腰掛ける姿はどう見ても十歳児だ。

 まぁ、憮然としたいの私の方なんだけどな。

 そう思いながら、真横に意識を向ける。意識を向けるだけで視線は向けない。面倒なことになる。

「ラウもくっついてきたし」

「言葉通りくっついてるな」

 呼び出されたのは私なのに、自然とラウもくっついてきて、私にくっついたまま着席していた。

 完全に人数外で、招かれざる人物。

 のはずなのに。

「これ見て誰も何も言わないし」

 そう。ここの人たちは呼ばれていない人がやってきても、咎めることも引き留めることも追い出すことも、一切何もしないのだ。

 そんなことってある?

「当たり前だ。そんな怖いことするか」

 私の疑問をテラは当然のように、頭ごなしに否定する。

「どこの世界に、新婚期間中の竜種から奥さんを引き離すやつがいるんだよ。新婚開始と終了間際はとくに、だ」

 そう言って、チラリとラウに目をやった。

「できることなら、二人だけで、誰にも害を与えないところにいてほしいもんだよ」

「テラ、酷い」

「酷くない。だいたいだな、四番目は黒竜に目を付けられた時点で、人生が終わってるんだ。諦めろ」

 それ、前にも言われたな。人生終了宣言。

 でも、私にだって反論はある。たくさんある。

 テラに言い返そうと、口を開いたその瞬間を狙ってか、穏やかな声が私たちにかけられた。

「そろそろ話を始めてもいいかな?」

 上座に座るその人物は、この国のトップ、エルメンティアで一番高貴なる人。

「テラ君にクロエル補佐官」

 その高貴なるエルメンティアの国王は、穏やかな表情で私たちを見つめていた。

 はぁ。

 また面倒な『お願い』とかじゃないといいけど。




 今回も話し合いの場は応接室だった。

 そして今回も、侍従やら女官やら警護やらいろいろな人がキラキラした目で私を見ては、私にくっつくラウからの一睨みで顔を伏せるの繰り返しで。

 はぁ。

 いい加減、この状況が辛い。

「スヴェートから書簡が届いたんだよ」

「こっちにも届いた。同じ内容か?」

 ため息をつく私のそばで、テラと国王がさっきから書簡の話をしていた。気安いな口調で会話をする二人。

 うん、スヴェートがどうとか言ってるけど。またあそこの国か。頭が痛い。

「どう考えても何か企んでいるよな」

 だろうね。

 武道大会でも、レストスでも、討伐大会でも、スヴェートが関係してたよね。けっきょく、どれも皇女の独断だとか言ってるんだろうけど。

「企みはともかく、エルメンティアとしてどう対応するか。テラ君やクロエル補佐官の意見を聞きたい」

「どう思う、四番目」

「その前に、私だけ書簡の内容を知らないんだけど?」

 私の何気ない質問に二人はポンと手を打つ。見事にピタリと揃った仕草が小憎らしい。

「あー」

「言うの、忘れてたな」

 説明もしないで意見を聞こうとするなよ。

 私はイラッとした。




「つまり、討伐大会の騒動はスヴェートの失態が原因だから、挽回するために、式典はスヴェートでやらせてもらいたいってこと?」

「簡単に言えば、そういうことになるね」

 説明を聞いた私は呆れてしまった。
 どう考えたって何か企んでいるでしょ、これ。

 私の顔を見て、まぁまぁと宥めるように、テラは指を一本立てた。

「エルメンティアの利点としては、正式なルートでスヴェートに人員を送れるということ」

 さらにもう一本立てる。

「何かがあった場合は、第三国の目もあるから言い逃れもできないこと」

「で?」

「で?ってなんだよ」

「なんでわざわざ私の意見を聞くかなーって思って」

 こんなところに呼び出す前から、ある程度、方針というか方向性は決まっているはず。しかも了承の方で。

「私の意見を聞かなくても、大神殿側はスヴェートでの式典開催を了承してるんでしょ?」

「なんでそう思うんだ?」

 はぁ、そんなの当然でしょ。

「神官長、お金にうるさいから。経費がすべてスヴェート持ちなら、喜んで飛びつきそう」

 ゴホゴホゴホゴホ。

 なぜか、テラと国王、二人揃ってむせて咳き込んだ。何この二人。仲良しか何か?

「いや、費用面的には利点があるというだけで、結論は出てないから」

「あくまでも主催や運営は大神殿。とはいえ、国は国で意見を出すことになるし、まだ結論は出ていないんだよ」

 本当かなぁ。私は疑いの目で二人を見る。
 むせて咳き込んだ以外、二人は慌てることなく普通に会話をしていた。でも怪しい。何か臭う。

「大神殿側は、テラ君、どうなってるんだい?」

「他の参加国の反応次第だな」

 テラは国王の質問に何か考え込みながらも、さらっと返事をする。

「だけど、スヴェート開催は費用面以外にも利点がある。参加国が賛同もしくは判断を大神殿に任せるとなると、スヴェート開催が有力だ」

 ならば、ほぼ決まりじゃないの。

「大神殿側の費用面以外の利点は?」

「国王は知らない方がいいぞ」

「残念ながら、エルメンティア王室は赤種と竜種とともに歩むと決めている。何があろうとも、王室は怯まないよ」

「分かった。それじゃぁ、説明する」

 こうして、テラの説明が始まった。
 私と国王は黙ってテラの話を聞く。

 そういえば、ラウは最初から最後まで、私にくっついて幸せそうにするだけだった。
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