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7 王女殿下と木精編
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「フォセル嬢と婚約したんだってね。婚約おめでとう」
「あ? あぁ」
クラウドがサッと顔色を悪くした。
軽く唇を噛み、視線を少し逸らしている。
どうやら、触れてほしくなかった話題だったようだけど。
なんで?
フォセル嬢とは、学院時代からの付き合いで、フォセル嬢もクラウドのことを慕っていて、クラウドもフォセル嬢には親切で。いても、私のことよりフォセル嬢のことを気にかけてばかりで。
どこからどう見ても、誰がどう見ても、お似合いの恋人同士。
その二人が婚約したんだから、もう少し、なんというか、喜んだり照れたりしても良さそうな物なのに。
私はクラウドの態度に違和感を覚えた。
クラウドの方は短く肯定しただけで、黙り込んでしまう。
こうなったら、話題に出したついでだ。フォセル嬢のことをあれこれと聞き出してやる。
アクアとの仮契約の件以降、私は直接、フォセル嬢と会って話したりする機会がなかった。
あのどす黒い魔力が気にはなっていても、王太子殿下からも誰からも話を聞けないままだったから。
「フォセル嬢、最近、無理してない?」
一言、言葉が出ると後から後からどんどん出てくる。
「以前より疲れやすくなっていたり、肌荒れしてたり、変なもの食べてたり。感情の上がり下がりが大きかったり、怒りっぽくなったり、とくに問題ない? 大丈夫?」
ちょっと言い過ぎたか。
ビクンと怯みような仕草を見せたクラウドの様子から、私は自分がやり過ぎたことを悟る。
普段、そんなにフォセル嬢を気にかけてもいないのに、突然の質問。明らかに不審がられても致し方ない。
クラウドは、少し慌てた様子で返事を返してくる。
「お前じゃないんだから、へ、変なものなんて食べるかよ」
「私だって、変なものは食べないけど」
というか、反応するところって、変なものを食べたか食べないかってところだけなわけ?
随分、部分的に反応するなと思って、私はクラウドの言葉を聞き流した。
クラウドの反応も言葉も聞き逃してはいけなかったのに。私は後でこのことを後悔することになる。
クラウドの慌てた様子は続くことなく、今度は難しい顔で別の話を私に振ってきた。
「エルシアはその、俺が政略で、親の意向で婚約したのをなんとも思わないのか?」
「え?」
目が点になるとはおそらく、こういったことなんだろう。突然、脈絡のない話をされ、私は驚いて思考が止まってしまった。
脈絡、なくはないか。
クラウドとフォセル嬢の婚約の話だったんだし。
しかし。
政略という言葉がクラウドの口から出てきたことに、私は改めて驚いた。
恋人同士じゃなかったの?
恋愛結婚の間違いだよね?
そう聞き返したかったけど、出来なかった。
クラウドの目が何かを訴えようと、あまりにも必死なような気がして。
そういえば、最初に私が婚約の話題を出したときも反応がおかしかったわ。
愛する人と婚約できて嬉しいとか、気恥ずかしいとか、そんな雰囲気はまるでなく、違和感を覚えたから。
私は問いただすのは諦め、クラウドの質問に答えることにした。
質問に答えるといっても、直接、答えることはしない。自分の境遇を説明して、自分はこういう考えだということを言外に示すだけ。
「私も政略で婚約してるから。自分の後ろ盾を得るためだし、身の安全を守るためにも必要な措置だったもの」
もちろん、婚約と婚姻を勘違いして、書類にサインをしてしまったことには触れない。
そんなことを喋ったら最後、クラウドに何を言われるか分からないから。
私が澄ました顔で自分の事情を説明をすると、クラウドは、はぁぁぁ? お前、正気かよ?、みたいな顔をする。他人の結婚事情なんて放っておいてほしい。
「ずいぶん、割り切ってるな。エルシアは、愛情を注いでくれる相手と結婚したいとは思わないのか?」
「え?」
「そんな契約的な相手ではなく。自分のことだけを想い、愛してくれるような相手だよ」
え? 何言ってるの、この人。
と、一瞬、思ってしまった。貴族のくせに政略結婚云々よりも恋愛結婚を推してくるなんて。
まぁ、よくよく考えるとクラウドは『運命の恋』の愛読者。しかも、クラウドのお姉さんは『真実の愛』『運命の恋』に感化されて結婚した人だったわ。
小説に感化されて、そしてお姉さんの影響もあって、政略結婚を否定する発言をしているのではないか。私はそう結論づけた。
恋愛小説での結婚のやり取りに、憧れを持っても良いけど、現実にそのまま置き換えるには危険が伴う。
あー、お姉さんはそこを押し通したんだったっけ。
それでも忠告くらいはしておこうか。
「クラウド、大丈夫? 恋愛小説の読み過ぎじゃないの?」
「いや。エルシアに恋愛感情が理解できると思った俺が間違ってた」
せっかく、私が心配してあげているというのに、酷い言われよう。
「何それ。私、他人の恋バナは大好物なんだけど!」
「自分のはないのかよ!」
その上、怒鳴られるし。
道端でするには大声すぎる会話を、私とクラウドは続けていた。
しかし、そろそろ終わりにしないと。
そう思った矢先、
「まぁ、お前はそういうのには縁がなさそうだよな」
私をバカにするような台詞を最後に、クラウドは片手を挙げる。続いて「またな」と言って、クラウドは第三騎士団の訓練場がある方向に歩いていった。
まったく。なんだったんだか。
「あ? あぁ」
クラウドがサッと顔色を悪くした。
軽く唇を噛み、視線を少し逸らしている。
どうやら、触れてほしくなかった話題だったようだけど。
なんで?
フォセル嬢とは、学院時代からの付き合いで、フォセル嬢もクラウドのことを慕っていて、クラウドもフォセル嬢には親切で。いても、私のことよりフォセル嬢のことを気にかけてばかりで。
どこからどう見ても、誰がどう見ても、お似合いの恋人同士。
その二人が婚約したんだから、もう少し、なんというか、喜んだり照れたりしても良さそうな物なのに。
私はクラウドの態度に違和感を覚えた。
クラウドの方は短く肯定しただけで、黙り込んでしまう。
こうなったら、話題に出したついでだ。フォセル嬢のことをあれこれと聞き出してやる。
アクアとの仮契約の件以降、私は直接、フォセル嬢と会って話したりする機会がなかった。
あのどす黒い魔力が気にはなっていても、王太子殿下からも誰からも話を聞けないままだったから。
「フォセル嬢、最近、無理してない?」
一言、言葉が出ると後から後からどんどん出てくる。
「以前より疲れやすくなっていたり、肌荒れしてたり、変なもの食べてたり。感情の上がり下がりが大きかったり、怒りっぽくなったり、とくに問題ない? 大丈夫?」
ちょっと言い過ぎたか。
ビクンと怯みような仕草を見せたクラウドの様子から、私は自分がやり過ぎたことを悟る。
普段、そんなにフォセル嬢を気にかけてもいないのに、突然の質問。明らかに不審がられても致し方ない。
クラウドは、少し慌てた様子で返事を返してくる。
「お前じゃないんだから、へ、変なものなんて食べるかよ」
「私だって、変なものは食べないけど」
というか、反応するところって、変なものを食べたか食べないかってところだけなわけ?
随分、部分的に反応するなと思って、私はクラウドの言葉を聞き流した。
クラウドの反応も言葉も聞き逃してはいけなかったのに。私は後でこのことを後悔することになる。
クラウドの慌てた様子は続くことなく、今度は難しい顔で別の話を私に振ってきた。
「エルシアはその、俺が政略で、親の意向で婚約したのをなんとも思わないのか?」
「え?」
目が点になるとはおそらく、こういったことなんだろう。突然、脈絡のない話をされ、私は驚いて思考が止まってしまった。
脈絡、なくはないか。
クラウドとフォセル嬢の婚約の話だったんだし。
しかし。
政略という言葉がクラウドの口から出てきたことに、私は改めて驚いた。
恋人同士じゃなかったの?
恋愛結婚の間違いだよね?
そう聞き返したかったけど、出来なかった。
クラウドの目が何かを訴えようと、あまりにも必死なような気がして。
そういえば、最初に私が婚約の話題を出したときも反応がおかしかったわ。
愛する人と婚約できて嬉しいとか、気恥ずかしいとか、そんな雰囲気はまるでなく、違和感を覚えたから。
私は問いただすのは諦め、クラウドの質問に答えることにした。
質問に答えるといっても、直接、答えることはしない。自分の境遇を説明して、自分はこういう考えだということを言外に示すだけ。
「私も政略で婚約してるから。自分の後ろ盾を得るためだし、身の安全を守るためにも必要な措置だったもの」
もちろん、婚約と婚姻を勘違いして、書類にサインをしてしまったことには触れない。
そんなことを喋ったら最後、クラウドに何を言われるか分からないから。
私が澄ました顔で自分の事情を説明をすると、クラウドは、はぁぁぁ? お前、正気かよ?、みたいな顔をする。他人の結婚事情なんて放っておいてほしい。
「ずいぶん、割り切ってるな。エルシアは、愛情を注いでくれる相手と結婚したいとは思わないのか?」
「え?」
「そんな契約的な相手ではなく。自分のことだけを想い、愛してくれるような相手だよ」
え? 何言ってるの、この人。
と、一瞬、思ってしまった。貴族のくせに政略結婚云々よりも恋愛結婚を推してくるなんて。
まぁ、よくよく考えるとクラウドは『運命の恋』の愛読者。しかも、クラウドのお姉さんは『真実の愛』『運命の恋』に感化されて結婚した人だったわ。
小説に感化されて、そしてお姉さんの影響もあって、政略結婚を否定する発言をしているのではないか。私はそう結論づけた。
恋愛小説での結婚のやり取りに、憧れを持っても良いけど、現実にそのまま置き換えるには危険が伴う。
あー、お姉さんはそこを押し通したんだったっけ。
それでも忠告くらいはしておこうか。
「クラウド、大丈夫? 恋愛小説の読み過ぎじゃないの?」
「いや。エルシアに恋愛感情が理解できると思った俺が間違ってた」
せっかく、私が心配してあげているというのに、酷い言われよう。
「何それ。私、他人の恋バナは大好物なんだけど!」
「自分のはないのかよ!」
その上、怒鳴られるし。
道端でするには大声すぎる会話を、私とクラウドは続けていた。
しかし、そろそろ終わりにしないと。
そう思った矢先、
「まぁ、お前はそういうのには縁がなさそうだよな」
私をバカにするような台詞を最後に、クラウドは片手を挙げる。続いて「またな」と言って、クラウドは第三騎士団の訓練場がある方向に歩いていった。
まったく。なんだったんだか。
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