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【第三章】竜を想いし永遠に
20.竜を想いし永遠に(1)
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サーシャはあれから毎日リハビリをして、いつか兄の手伝いができるように――そう言っていた。
患者が元気になってくれることほど嬉しいことはない。
「ねぇ、アーさん」
「なぁに? カンパネラ」
私はいつものように自分用の書庫で本を読んでいた。私が眠っていた期間に発行された本に全て目を通すようにしている」
「観劇のコンサートって、興味ありません?」
カンパネラは2枚のチケットを持って、ニヤリと笑った。
「……! あるわ!」
実は私、観劇の大ファンなのだ。
観劇は夜に行われるから、見た目子どもである私が一人で行っては駄目だといつも言われてきた。
けれど、今日はお供にカンパネラがいる。
即座にお父様とお母様に報告をし、コートを羽織り、外行きの服を着た。
背の高いカンパネラは、燕尾服をきっちりと着こなしていた。
「……お前は本当に何を着ても似合うわね」
「えっ、アーさん、それは褒めてくれてるんですか?」
「ええ」
例えば、待ちゆく人に『この人、竜なんですよ』と言ったらコッチが頭を疑われるほど、彼は綺麗に人間に擬態していた。
更に人間の中でも、美形に。
「さぁ。アーさん。お手を」
白い手袋を付け、床に膝をついた彼が、私に手を差し伸べてくる。
その手を私はとった。
◆
どうやらとても人気のある観劇らしい。
まだ始まっていないのに、劇場の近くには人が群がっている。
劇場の前では、当日チケットを求めて立ち往生する人々もいた。。
「そういえば、なんでお前が観劇のチケットなんて持っていたの?」
「ホーエンハイムさんからもらったんです」
「あら、じゃあ後でお礼を言わないとね。もしかすると彼女と行く予定だったのかもしれないし」
私とカンパネラは劇場の近くの喫茶店で時間を潰すことにした。
ちょうどメニューがアフタヌーンからイブニング用に変わるところだった。私は紅茶を、カンパネラはホットミルクを頼んだ。
「カンパネラって紅茶や珈琲って苦手よね」
「種類には寄るんですけどね。花からできた紅茶なら好きなんですけど、そうじゃないものは苦手だったりします。苦味に敏感なので」
「なるほど。竜は舌が敏感と」
「あの、以前から思っていたんですが、アーさん。前から俺の細かいところを記録してますけど……なんでです?」
「いつか竜の本を出そうかと思って」
「俺、個体の竜の本で、いいんですか?」
「ええ。もちろん」
もしも別の竜がいるなら、その竜にその本を読んでほしい。
そして仲間がいるということを報せてあげたい。
だから私は密かにカンパネラの趣味や趣向、能力などを記録につけているのだ。
「俺みたいなのが参考になれば……」
カンパネラはちょっぴり照れていた。
これが可愛いという感情なのだろう。舞踏会に出したら女性達の修羅場が見れること間違いなしだ。
この喫茶店でも、ちらほらとカンパネラを見ている者がいる。
けれどその人達は、私の姿を見て、がっくりと肩を落とすのだ。
――ん? 私、もしかしてカンパネラの子どもだと思われてる……?
カンパネラは20歳満たない年齢の姿で、私は12歳の姿だ。
流石に親子では通せないだろう……と思いながら紅茶をすすっていたら――
「失礼、レディ。そして紳士様。ご相席を宜しいでしょうか?」
ハスキーな声が上から降ってきた。
そこに立つ人は――15、6歳くらいの美青年だった。
烏の濡羽色の黒い髪に、同じ色の長いまつげが、目元に影を落とす。
琥珀色の瞳は、吸い込まれるように美しかった。
それに何よりも私が魅力に感じたのは、彼の丁寧な仕草と、通った声だった。
患者が元気になってくれることほど嬉しいことはない。
「ねぇ、アーさん」
「なぁに? カンパネラ」
私はいつものように自分用の書庫で本を読んでいた。私が眠っていた期間に発行された本に全て目を通すようにしている」
「観劇のコンサートって、興味ありません?」
カンパネラは2枚のチケットを持って、ニヤリと笑った。
「……! あるわ!」
実は私、観劇の大ファンなのだ。
観劇は夜に行われるから、見た目子どもである私が一人で行っては駄目だといつも言われてきた。
けれど、今日はお供にカンパネラがいる。
即座にお父様とお母様に報告をし、コートを羽織り、外行きの服を着た。
背の高いカンパネラは、燕尾服をきっちりと着こなしていた。
「……お前は本当に何を着ても似合うわね」
「えっ、アーさん、それは褒めてくれてるんですか?」
「ええ」
例えば、待ちゆく人に『この人、竜なんですよ』と言ったらコッチが頭を疑われるほど、彼は綺麗に人間に擬態していた。
更に人間の中でも、美形に。
「さぁ。アーさん。お手を」
白い手袋を付け、床に膝をついた彼が、私に手を差し伸べてくる。
その手を私はとった。
◆
どうやらとても人気のある観劇らしい。
まだ始まっていないのに、劇場の近くには人が群がっている。
劇場の前では、当日チケットを求めて立ち往生する人々もいた。。
「そういえば、なんでお前が観劇のチケットなんて持っていたの?」
「ホーエンハイムさんからもらったんです」
「あら、じゃあ後でお礼を言わないとね。もしかすると彼女と行く予定だったのかもしれないし」
私とカンパネラは劇場の近くの喫茶店で時間を潰すことにした。
ちょうどメニューがアフタヌーンからイブニング用に変わるところだった。私は紅茶を、カンパネラはホットミルクを頼んだ。
「カンパネラって紅茶や珈琲って苦手よね」
「種類には寄るんですけどね。花からできた紅茶なら好きなんですけど、そうじゃないものは苦手だったりします。苦味に敏感なので」
「なるほど。竜は舌が敏感と」
「あの、以前から思っていたんですが、アーさん。前から俺の細かいところを記録してますけど……なんでです?」
「いつか竜の本を出そうかと思って」
「俺、個体の竜の本で、いいんですか?」
「ええ。もちろん」
もしも別の竜がいるなら、その竜にその本を読んでほしい。
そして仲間がいるということを報せてあげたい。
だから私は密かにカンパネラの趣味や趣向、能力などを記録につけているのだ。
「俺みたいなのが参考になれば……」
カンパネラはちょっぴり照れていた。
これが可愛いという感情なのだろう。舞踏会に出したら女性達の修羅場が見れること間違いなしだ。
この喫茶店でも、ちらほらとカンパネラを見ている者がいる。
けれどその人達は、私の姿を見て、がっくりと肩を落とすのだ。
――ん? 私、もしかしてカンパネラの子どもだと思われてる……?
カンパネラは20歳満たない年齢の姿で、私は12歳の姿だ。
流石に親子では通せないだろう……と思いながら紅茶をすすっていたら――
「失礼、レディ。そして紳士様。ご相席を宜しいでしょうか?」
ハスキーな声が上から降ってきた。
そこに立つ人は――15、6歳くらいの美青年だった。
烏の濡羽色の黒い髪に、同じ色の長いまつげが、目元に影を落とす。
琥珀色の瞳は、吸い込まれるように美しかった。
それに何よりも私が魅力に感じたのは、彼の丁寧な仕草と、通った声だった。
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