【完結】竜と悪役令嬢だった魔女

六花さくら

文字の大きさ
22 / 77
【第三章】竜を想いし永遠に

21.竜を想いし永遠に(2)

しおりを挟む
「相席……?」

 よく見渡せば、喫茶店の席は全て埋まっている。
 あぁ、そういうことか。

「どうぞ。良いわよね、カンパネラ」
「ええ。アーさんが言うなら」

 彼は私に返事をすると、その後ろから黒い人がぬっと現れた。
 表すならば――黒い大きな影のような。

 体長はカンパネラよりも高く、190cm近い高身長。
 銀色の長髪を一つに結び、肌は青白く、生気のないように見えた。

 最初、体調が悪いのかと思ったけれど、違った。
 そういうメイクをしているのだ。

「アーさん、今日のパンフレットって持ってます?」
「ええ。『竜を想いし永遠に』のパンフレットよね。えっと」

 カンパネラが何を言いたいかわかった。

 私たちの目の前に立っている人物――彼らは私たちが今から観る演劇の俳優だ。しかもメインとサブ、どちらも一緒という贅沢ずくめである。

「いやぁ、驚かせてすみません」

 少年のような子は笑って紅茶を注文し、黒い影のような男は珈琲を注文した。

「今日で千秋楽なんです」

 美少年はそう言った。

「レディも今日の舞台を見に来てくださるんですか?」
「え……えぇ……」

 私はパンフレットはまだ全部見れていないけれど、主演の子――つまり目の前に立っている美少年は――女性らしい。

 確かに第二次性徴がまだな男性と言い切れなくもないくらい、男性っぽく寄せている。

 でも、やはり役者だからだろうか。細かい仕草が、今まで出会ってきた貴族たちの中でも郡を抜いて美しい。
 彼――いや、彼女の目線、手、口元、すべてに目を奪われてしまう。

「レディ。ここで出会えたのは運命だ。貴方様は、かの有名な魔女様ではないでしょうか?」
「か、かの有名な!?」

 そういえば、イヴァンに連れ去られたときも、私は魔女と呼ばれていた。

――誰よ。
 私が魔女と風潮しているのは……と憤慨する気分を抑え込んで……。

「もしかして、偶然ではなく……私のことを知って……?」

「はい。失礼ながら。どうかボクらの願いを叶えてほしくて」

 魔法なんてこの世界にはない。竜はいるけれど。
 私は医者でもない。医師の真似事はするけれど、正確な医師免許を持っているわけでもない。だから名乗るとしたら薬師くらいだ

「私はただの小娘です。願いなんて大層なものを叶えることはできません」

「……では、話を聞くことだけでも」

 彼女は話を続ける。

 まぁ、話すくらいならタダだ。
 どうせまだ時間はある。私は彼と彼女の話に付き合うことにした。

「まず、ボクは女性です。……しかし、だんだんと第二次性徴が過ぎて……胸が大きくなったり、喉仏が出ていなかったりと、男性のフリをして演技をしても、男性のふりをした女性になってしまうのです」

 つまり、男型おとこがたになってしまって、素の演技ができず困っていると。

「それで、お連れの男性は?」

 私は影のような男に話を振った。
 男が口を開く。
 とても透き通った、綺麗な声が耳に届いた。

「……私は、彼女の意思を尊重したい。そして、この時が止まってしまえばいい。そう思ってしまうんです」

 時が止まる――それは永遠のテーマだ。

 不老不死と同じくらい深いテーマである。

 例えば、初めて好きな人と結ばれた時。
 舞台を成功させた時。
 パーティーで成功を収めた時。

 人はその一瞬の輝きを、切り取って閉じ込めたりしたがる。

 何故なら記憶は退化してしまうから。

 記憶というのは色褪せる。
 その瞬間を完璧に覚えていたとしても、どこかでほころびがでる。

「残念ながら、それは薬ではどうも解決できない問題ね」
「やはりそうですか……」
「けれど、気持ちはよくわかります。私も時を止めたいと思ったことは何度もありますから」

 私は不老だ。

 けれど厳密に言えば老化と幼化を繰り返しているだけ。竜のように寿命が長いというわけじゃない。
 だからこの世界に不老不死は見つかっていない。

 時を止める力もそうだ。
 できればこの一瞬、一日を永遠に味わいたい。
 この一瞬のために産まれてきた。そんなの誰だって感じる瞬間がある。

「魔女様に言われて、はっきりと気持ちに区切りをつけられました。ありがとうございます」

 そう言って女性は笑った。悲しそうな笑顔で。

「アナスタシア。それが私の名ですわ」

「おや、申し訳ない。名乗るのを忘れていましたね。ボクはダリヤともうします。そして連れはマルク。どうか今日の舞台を楽しんでいただけることを祈っております」

 そう言って、彼らは離席をした。

「なんだか、最近不思議なことが多いですね。アーさんを魔女って呼ぶ人が多かったり」
「カンパネラもそう思う? 私も思っていたのよ」

 まず、私を魔女と広めているのは誰だ。

 患者の誰かだろうか。

 でも医者と呼ぶのはいいけれど、魔女と呼ばれるのは少し悲しい。
 まぁ12歳の少女が傷口を躊躇いなく縫合していたら、魔女と言いたくなるのかもしれないけれど。

「……あ、そろそろ時間よ。カンパネラ、舞台に行きましょう」

 私は彼に手を差し伸べる。

 彼は微笑んで『はい』と言って、私の手をとった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...