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【第六章】姉と妹
51.姉と妹(2)
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春が近づき、コートも必要なくなってきた頃。
我が家宛に一通の招待状が届いた。
「……姉様、アナスタシアに見られないように」
父は私に黙って招待状を破棄しようとした。
手紙にハサミを入れようとした時――
「お父様」
私は父の部屋に入った。そして招待状を破棄する姿を見てしまった。
「まったく、一言くらい言ってくれればいいのに」
私は怒って招待状をとりあげた。
そして差出人を見る。
『エカチェリーナ・ノヴィコフ』より。
その名前を見て、父が招待状を破棄しようとした理由がわかった。
「勝手に破棄しようとしたことはすまない。……姉様が傷つくかと思って」
部屋には父と私しかいない。
だから父は私のことを昔の愛称で、姉様と呼んだ。
「いいえ。ありがとう。でもこのくらいでへこたれるほど私は弱くないわ」
私は微笑んだ。
けれど、手が震えていた。
あの時のことを思い出す。
パーティーで、たくさんの人の中で婚約破棄されたことを。
『ノヴィコフ』
その名字は私から王子を奪った女――ソフィアの生家のものだった。
手紙の中には季節の言葉と、要約すると『お茶会をするのでどうぞ来てください』という文言が書かれていた。
前のアナスタシアは死んだことになっている。
けれど、そのアナスタシアから王子を無理やり奪ったノヴィコフ男爵家――いや、今は位が上がって伯爵になっている――が、シャターリア侯爵家に茶会の手紙を寄越すとは。
よっぽど愚かなのか、馬鹿なのか。
「お父様、私、この茶会に参加するわ」
「ね、姉様!? しかし、相手はノヴィコフです。何を考えてこれを寄越したのか……」
「何も考えてないんじゃないかしら」
私は呆れながら言葉を吐いた。
『エドアルト様ぁ』
と甘ったるい声で王子を呼ぶあの女の子とは忘れもしない。
憎いといった感情は一切無いが、嫌いという感情は山盛りある。
「護衛をつけよう。10人くらい」
「お父様、ただの令嬢たちの茶会で10人も護衛を連れて行ってたら、ただの馬鹿です」
「しかしだなぁ……うーん」
「私はカンパネラを連れていきます。彼は護衛として十分な存在です」
「そうだなぁ。カンパネラなら……。うん、わかった。カンパネラには念を入れて話をしておこう」
うんうん、と頷く父。
「それはやめてほしいわ。……婚約破棄のことをしたら、あの子、何しでかすかわからないもの」
アーさんを傷つけたやつら! 敵! と思いかねない。
カンパネラは普段優しい瞳をしているけれど、怒った時や機嫌の悪い時は、とても冷たい目をする。
感情を隠すのが苦手な子なのだ。
だから、彼には黙っておく。
ただ、お茶会に誘われた、それだけを言おう。
「じゃあ、招待状の返信を書いてくるわね。大丈夫、お父様。心配しないで」
そうして、私は父の部屋を出た。
扉を閉じる時、父の寂しそうな目が見えたけれど、見なかったことにする。
さて、エカチェリーナ・ノヴィコフ令嬢は、何の用があって、因縁のあるシャターリア家に手紙を出したのか。
無知なのか、馬鹿なのか、私を笑い者にする気なのかーーそれとも何か考えているのか。
私はその日のうちに手紙を書いて、送ってもらった。
◆
そして一週間後、お茶会の日が来た。
集められた令嬢は五人。私とエカチェリーナ嬢と、子爵の娘が3人。
年齢は皆12歳~14歳程。
問題のエカチェリーナ嬢もどうやら私(の見た目年齢)と同じ12歳のようだった。
お茶会は彼女の家の温室で行われた。
温室には様々な花が咲き誇っていた。
ジギタリス、イヌサフラン、彼岸花、水仙に鈴蘭。そして、トリカブト。
全て毒を持つ花ばかりだった。
「綺麗な花ですわね。あまり見たことのない花ばかりですが」
「えぇ、うふふ、あたしの趣味ですの。この温室では、どんな季節でも対応できるように庭師に丁寧に育てて貰ってるのですわ」
にっこりと微笑むエカチェリーナ嬢。
毒を持つ花を育てるのが趣味――流石あの姉の妹。ロクでもないな、と思った。
そして最近の社交界や、恋愛話に花を咲かせ、気づけばもう日が落ちかけていた。
「それでは、本日はお招きいただき、ありがとうございました」
他の令嬢が頭を下げて、馬車に乗って帰る。
私も同じ様に帰ろうとした時、エカチェリーナ嬢に話しかけられた。
「アナスタシア様、どうか、二人っきりになれませんか? ご相談がありますの」
彼女のルビー色の瞳は、ソフィアによく似ていた――けれど、その目に宿る信念のような強い光は、ソフィアと全く違っていた。
私は少し考えて、話を聞くだけ聞いてみようと思った。
我が家宛に一通の招待状が届いた。
「……姉様、アナスタシアに見られないように」
父は私に黙って招待状を破棄しようとした。
手紙にハサミを入れようとした時――
「お父様」
私は父の部屋に入った。そして招待状を破棄する姿を見てしまった。
「まったく、一言くらい言ってくれればいいのに」
私は怒って招待状をとりあげた。
そして差出人を見る。
『エカチェリーナ・ノヴィコフ』より。
その名前を見て、父が招待状を破棄しようとした理由がわかった。
「勝手に破棄しようとしたことはすまない。……姉様が傷つくかと思って」
部屋には父と私しかいない。
だから父は私のことを昔の愛称で、姉様と呼んだ。
「いいえ。ありがとう。でもこのくらいでへこたれるほど私は弱くないわ」
私は微笑んだ。
けれど、手が震えていた。
あの時のことを思い出す。
パーティーで、たくさんの人の中で婚約破棄されたことを。
『ノヴィコフ』
その名字は私から王子を奪った女――ソフィアの生家のものだった。
手紙の中には季節の言葉と、要約すると『お茶会をするのでどうぞ来てください』という文言が書かれていた。
前のアナスタシアは死んだことになっている。
けれど、そのアナスタシアから王子を無理やり奪ったノヴィコフ男爵家――いや、今は位が上がって伯爵になっている――が、シャターリア侯爵家に茶会の手紙を寄越すとは。
よっぽど愚かなのか、馬鹿なのか。
「お父様、私、この茶会に参加するわ」
「ね、姉様!? しかし、相手はノヴィコフです。何を考えてこれを寄越したのか……」
「何も考えてないんじゃないかしら」
私は呆れながら言葉を吐いた。
『エドアルト様ぁ』
と甘ったるい声で王子を呼ぶあの女の子とは忘れもしない。
憎いといった感情は一切無いが、嫌いという感情は山盛りある。
「護衛をつけよう。10人くらい」
「お父様、ただの令嬢たちの茶会で10人も護衛を連れて行ってたら、ただの馬鹿です」
「しかしだなぁ……うーん」
「私はカンパネラを連れていきます。彼は護衛として十分な存在です」
「そうだなぁ。カンパネラなら……。うん、わかった。カンパネラには念を入れて話をしておこう」
うんうん、と頷く父。
「それはやめてほしいわ。……婚約破棄のことをしたら、あの子、何しでかすかわからないもの」
アーさんを傷つけたやつら! 敵! と思いかねない。
カンパネラは普段優しい瞳をしているけれど、怒った時や機嫌の悪い時は、とても冷たい目をする。
感情を隠すのが苦手な子なのだ。
だから、彼には黙っておく。
ただ、お茶会に誘われた、それだけを言おう。
「じゃあ、招待状の返信を書いてくるわね。大丈夫、お父様。心配しないで」
そうして、私は父の部屋を出た。
扉を閉じる時、父の寂しそうな目が見えたけれど、見なかったことにする。
さて、エカチェリーナ・ノヴィコフ令嬢は、何の用があって、因縁のあるシャターリア家に手紙を出したのか。
無知なのか、馬鹿なのか、私を笑い者にする気なのかーーそれとも何か考えているのか。
私はその日のうちに手紙を書いて、送ってもらった。
◆
そして一週間後、お茶会の日が来た。
集められた令嬢は五人。私とエカチェリーナ嬢と、子爵の娘が3人。
年齢は皆12歳~14歳程。
問題のエカチェリーナ嬢もどうやら私(の見た目年齢)と同じ12歳のようだった。
お茶会は彼女の家の温室で行われた。
温室には様々な花が咲き誇っていた。
ジギタリス、イヌサフラン、彼岸花、水仙に鈴蘭。そして、トリカブト。
全て毒を持つ花ばかりだった。
「綺麗な花ですわね。あまり見たことのない花ばかりですが」
「えぇ、うふふ、あたしの趣味ですの。この温室では、どんな季節でも対応できるように庭師に丁寧に育てて貰ってるのですわ」
にっこりと微笑むエカチェリーナ嬢。
毒を持つ花を育てるのが趣味――流石あの姉の妹。ロクでもないな、と思った。
そして最近の社交界や、恋愛話に花を咲かせ、気づけばもう日が落ちかけていた。
「それでは、本日はお招きいただき、ありがとうございました」
他の令嬢が頭を下げて、馬車に乗って帰る。
私も同じ様に帰ろうとした時、エカチェリーナ嬢に話しかけられた。
「アナスタシア様、どうか、二人っきりになれませんか? ご相談がありますの」
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私は少し考えて、話を聞くだけ聞いてみようと思った。
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