【完結】竜と悪役令嬢だった魔女

六花さくら

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【第六章】姉と妹

53.姉と妹(4)

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「初対面の相手に、随分と物騒なことをおっしゃるのですね」
 私は思ったことを正直に伝えた。

 カーチャはクスクスと笑い
「だって本当のことだもの」と言った。

「貴方とソフィア王妃は血の繋がった姉妹なのでは?」
 私は聞き返した。
 もしかして、こちらの反応を窺って、姉を殺したいなんてことを言ったのかもしれないと思って。

 私の言葉を聞いたソフィアは、ワナワナと震えていた。その瞳には憎悪の炎が宿っている。
「ええ。憎たらしいくらい、あの女と同じ血が混ざっているわ。父も母もお姉ちゃんと同じ。だからこそ、あたしはあの姉が憎くてたまらないのよ」

 彼女の瞳に偽りはなかった。
 本気で姉を恨んでいるようだ。

「……どうして、そこまで姉上を恨んでいらっしゃるのですか?」
「それは……」

 ソフィアは唇を噛んだ。
 そこから血がにじみでて、唇の色が真っ赤に染まる。

「……昔から、お姉ちゃんは人のものが好きだった。あたしが持っているぬいぐるみや人形も彼女にとられたわ。そして、母から受け継いだ宝石すらも、姉は駄々をこねて奪っていったの」

 カーチャの話はよくある話だと思った。

 自分よりも年下が生まれたから、子ども返りをして、親の気をひこうとする。
 よく聞くのは『お姉ちゃんだから我慢しなさい』とたしなめられる方だけど……。

「お姉ちゃんが人のものを欲しがることは、知ってるわよね、アーニャ」
 目の前の人物に誤魔化しは効かないと思った。
 まぁ、噂にはなっているし、この席についたときから彼女の罠にはかかってしまっていたのだ。
「えぇ。そうね」

 私はソフィアのことを思い出す。
 彼女は『私の婚約者』である王子を奪い取った。

 エドアルトは恋の熱に浮かされたように、ソフィアを庇い、抱きしめ、正式な婚約者である私を公衆門前で侮辱し、婚約破棄をした。

 そして現在。国王と王妃による散財によって、国は狂ってしまっている。

「ねぇ、アーニャ。お姉ちゃんと、国王がいなくなれば、この国はまともになるとは思わない?」
 カーチャは薄く笑いながら言った。

「……ええ。王妃と国王の散財さえなければ、飢餓に苦しむ人達は減るでしょうね。けれど、まだ次代の王子が育っておりません。ジークフリード様はまだ8歳。彼はまだ幼すぎる」

「王位継承者は謎の死を迎えていったものね。王位を継げるのは、ジークハルト王子か、そのほかの王子か。全員まだ幼子ですが……」 

 そこまで考えているのか。この少女は。

 この国を狂わせている姉ソフィアと、同じ血を持つ子とは思えなかった。

「ジークフリード王子には、王位を継承してもらって、エドアルト国王には宰相と共に裏の補佐に回ってもらうっていうのはどうかしら」

 カーチャはニコニコとした笑顔でとんでもないことを言いだした。
 ここはカーチャの家だから問題ないのかもしれないが、公衆で言ったら反逆罪に問われかねない。

「私はエドアルト国王も信用しておりませんが……」

 あの馬鹿王子に、幼い王子の補佐ができるのか?

 いや、今の私の頭の中では感情論が渦巻いている。

 幼い頃のエドアルトは賢い子だった。努力家で、立派な王子になるのだと口癖のように言っていた。
 国の成り立ちも、流通についても、民のことも考え、王がどうあるべきであるかも、全て努力して学んでいた。
 彼がおかしくなったのは、ソフィアと出会ってからだ。
 溺れるように金を使い、金銀財宝を彼女に送った。
 彼女のドレス一着で、一家は10年は楽に暮らせるだろう。

 貧困で薬を買えず、死んだものもいた。
 ホーエンハイムのように高い金で薬を買い、安く売る医者もいる。
 だけど、そんな奇異な医者はホーエンハイムくらいだ。

 誰だって自分の金が惜しい。命が惜しい。

 だから国民の怨嗟は国の主である、国王と王妃に向けられていた。

「あたしはね、昔からお姉ちゃんのことが大嫌いだったの。あたしにそっくりな容姿も、あの甘ったるい声も、馬鹿みたいな喋り方も、嫌い。嫌い。大嫌い」
 彼女の持つティーカップの柄が割れる。
 相当強い力で持っていたのだろう。

「でも、真っ向から殺したら、あたしは反逆者になっちゃうわ。それに12歳のあたしが、大人の――しかも、城を護衛する騎士たちの力に敵うとは思えない。あんなお姉ちゃんと刺し違えるなんて、絶対に嫌。一緒に死にたくないわ」

「貴方はソフィア様だけに死んでほしいと」

「そう。そうよ。アーニャ。あたし、あのお姉ちゃんに死んでほしいの。できれば病死がいいわ。ねぇ、ねぇ、アーニャ。お願いがあるの」

 この流れ、ロクな願いじゃないなと思った。

「アナスタシア! アーニャ! シャターリアの魔女様! 願いを叶える薬か、毒薬をちょうだい。そして、お姉ちゃんを殺して、この国を変えましょ!」


 本当にろくでもない願いだった。
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