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【第九章】この国の未来のためにできること
74.この国の未来のためにできること(6)
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それから、いろんなことが、ほんとうにいろんなことが、たくさんあった。
まず、ソフィア元王妃は斬首され、命を落とした。
死ぬ直前の最後の言葉も『みんな、みんな不幸になってしまえばいいわぁ』という彼女らしい言葉だった。
残念だけど、彼女の最後の言葉は私が成就させてあげない。
次に、この国を誰が統一するのか――つまり、王を誰にするのかという問題があった。
本来なら竜の王子であるカンパネラが継ぐのが決まりなのだけれど――
『竜が竜の国を仕切るならともかく、人間の国を仕切るなんて、やっぱおかしいですよ』とカンパネラに突っぱねられてしまった。
カンパネラは『元々、俺、あんまり人が好きじゃないんですよね。アーさんや、ファウストさんや、ホーエンハイムさんは違いますけど』と笑って言っていたし、政治を今から習わせるのも大変だ。
それに彼の言う通り、人間の世界は人間が統治するべきだ。
だから私はファウストから教わった魔法で大人の姿になった。
そして竜に選ばれた聖女として、この国を仕切る王妃になったのだ。
それからはもう大変。大変。大変なんて二言で言い表せないくらいだった。
エドアルトはどこかで汗水垂らして働いているんだろうけれど、500回くらいぶん殴ってもおかしくないくらい職務が溜まっていた。
エドアルトの政治では、高い金で安い宝石を買いまくっていたのだ。
そんな案件が腐るほどあった。
だからその契約書を破棄するのに奮闘したり、他国との貿易を結んだり。
あと薬価を下げて、医者には特別報酬を与えて、どんな患者でも拒まず受け入れろと命令をした。
これで貧民が苦しむことはない。
もしそんなマネをする医者が現れたら、ホーエンハイムという強い味方が、私に密告してくれる。
また、好き勝手して領土を放置していた領主たちを取り締まったりもした。
彼らは王族に賄賂を渡すことで、仕事をしなかった。
だからそこに忠告をした。
すると、何件もの領土に活気が湧いた。
◆
そうして、そうして、10年の時が過ぎた。
「……もうやだ。もうやだ」
私は忙殺されていた。
たくさんの人が私を聖女と崇めて助けてくれたけど、肝心な判断は私がしなければいけない。
判を押すとか、最終決定をするとか。
「アーさんは背負いすぎなんですよ」
カンパネラはそう言って、私の肩をもんでくれる。
「あー、効く。効く」
「ほんとおばあちゃんですねぇ」
「怒るわよ」
見た目年齢は20代でも、中身は600歳を越えているのだ。
おばあちゃんと呼ばれても仕方がないけど、愛する人には言われたくない。
「まぁ、でも、今日は念願の日ですよ」
「……そうね」
「不安ですか?」
「いいえ。彼には私が直接教育したから、大丈夫だと思うわ」
今日は、国民にとってめでたい日になる。
新しい王が誕生する日なのだ。
私は代理の女王だった。
けれど、今日、やっとこの座を降りることができる。
彼が新王になって、仕事に潰されてしまわないように、なるべく仕事は片付けておいてあげた。
新しい王は――ジークフリードだ。
反対の声はたくさんあった。
暴君であった両親の子を再び王にするなんて、と。
ここ1年はそれでいろんな人と揉めた気がする。
そして、もう一つ。
反対の声としてあがったのが、ジークフリードの妻が、なんとあの『エカチェリーナ・ノヴィコフ』であることだ。
かつて暴君だった国王の息子と、その王妃の妹。
再び悪逆政権になってしまうのではないかと国民は危惧していた。
けれど、私としてはジークフリードを支えてくれるのが、カーチェなら心強い。
あの子は芯の強い子だ。
姉のソフィアとは違い、悪いことを悪いと言えて、良いことを良いとハッキリ言える。
アネさん女房だけど、ジークフリードはカーチェにベタ惚れだった。
前にこっそりカーチェに聞いたことがある。
エドアルドとソフィアの子だけど、本当に彼を愛しているの? と。
女王としての立場で聞いたのではなく、友人として訊いた。
すると、彼女は顔を赤く染めて
「お慕いしておりますわ。ちょっと素直過ぎるところがあるので、そこはさりげなく軌道修正させてますが」
という答えが返ってきた。
二人はなんと恋愛婚で、ちゃんと愛がある。
だけど、進むべき道を正しい道へ軌道修正する力を、カーチェは持っている。彼女なら愛に溺れたりしない。
だから、私は安心して玉座を降りることにした。
戴冠の式、たくさんの民に見守られて、私は彼に王冠を与えた。
こうして、私の長い長い政治は終わった。
◆
「で、アーさん。これからどうしますか?」
「……そうねぇ。もう政治はうんざりだから、どこか海の見える場所に小さな屋敷を買いたいわ。それで、二人でゆっくり暮らしましょ」
私達の人生は、まだまだ長い。
竜と不老の女の人生だ。
私は現在、ファウストから教わった魔法で、30代前半の年齢になっている。
でも魔法を解けば、22歳の姿になる。
「あ、カンパネラ。私ね、三年後くらいに眠りにつきたいの。今度は10年くらい眠るかもしれないわ」
「そう、ですか……。寂しいですけど、ずっと起きるのを待ってますよ」
「寝ている間、浮気しちゃだめよ?」
「アーさん以上の人なんていませんって」
私たちは笑いあった。
「でも、なんで今すぐじゃなくて、三年後なんですか?」
「驚かない?」
「もうアーさんが何を言おうと驚きません」
カンパネラは、はいはいやれやれとため息を吐く。
「赤ちゃんができたの」
前置きをしたのにも関わらず、さすがのカンパネラも驚いて、すっ転んでいた。
まず、ソフィア元王妃は斬首され、命を落とした。
死ぬ直前の最後の言葉も『みんな、みんな不幸になってしまえばいいわぁ』という彼女らしい言葉だった。
残念だけど、彼女の最後の言葉は私が成就させてあげない。
次に、この国を誰が統一するのか――つまり、王を誰にするのかという問題があった。
本来なら竜の王子であるカンパネラが継ぐのが決まりなのだけれど――
『竜が竜の国を仕切るならともかく、人間の国を仕切るなんて、やっぱおかしいですよ』とカンパネラに突っぱねられてしまった。
カンパネラは『元々、俺、あんまり人が好きじゃないんですよね。アーさんや、ファウストさんや、ホーエンハイムさんは違いますけど』と笑って言っていたし、政治を今から習わせるのも大変だ。
それに彼の言う通り、人間の世界は人間が統治するべきだ。
だから私はファウストから教わった魔法で大人の姿になった。
そして竜に選ばれた聖女として、この国を仕切る王妃になったのだ。
それからはもう大変。大変。大変なんて二言で言い表せないくらいだった。
エドアルトはどこかで汗水垂らして働いているんだろうけれど、500回くらいぶん殴ってもおかしくないくらい職務が溜まっていた。
エドアルトの政治では、高い金で安い宝石を買いまくっていたのだ。
そんな案件が腐るほどあった。
だからその契約書を破棄するのに奮闘したり、他国との貿易を結んだり。
あと薬価を下げて、医者には特別報酬を与えて、どんな患者でも拒まず受け入れろと命令をした。
これで貧民が苦しむことはない。
もしそんなマネをする医者が現れたら、ホーエンハイムという強い味方が、私に密告してくれる。
また、好き勝手して領土を放置していた領主たちを取り締まったりもした。
彼らは王族に賄賂を渡すことで、仕事をしなかった。
だからそこに忠告をした。
すると、何件もの領土に活気が湧いた。
◆
そうして、そうして、10年の時が過ぎた。
「……もうやだ。もうやだ」
私は忙殺されていた。
たくさんの人が私を聖女と崇めて助けてくれたけど、肝心な判断は私がしなければいけない。
判を押すとか、最終決定をするとか。
「アーさんは背負いすぎなんですよ」
カンパネラはそう言って、私の肩をもんでくれる。
「あー、効く。効く」
「ほんとおばあちゃんですねぇ」
「怒るわよ」
見た目年齢は20代でも、中身は600歳を越えているのだ。
おばあちゃんと呼ばれても仕方がないけど、愛する人には言われたくない。
「まぁ、でも、今日は念願の日ですよ」
「……そうね」
「不安ですか?」
「いいえ。彼には私が直接教育したから、大丈夫だと思うわ」
今日は、国民にとってめでたい日になる。
新しい王が誕生する日なのだ。
私は代理の女王だった。
けれど、今日、やっとこの座を降りることができる。
彼が新王になって、仕事に潰されてしまわないように、なるべく仕事は片付けておいてあげた。
新しい王は――ジークフリードだ。
反対の声はたくさんあった。
暴君であった両親の子を再び王にするなんて、と。
ここ1年はそれでいろんな人と揉めた気がする。
そして、もう一つ。
反対の声としてあがったのが、ジークフリードの妻が、なんとあの『エカチェリーナ・ノヴィコフ』であることだ。
かつて暴君だった国王の息子と、その王妃の妹。
再び悪逆政権になってしまうのではないかと国民は危惧していた。
けれど、私としてはジークフリードを支えてくれるのが、カーチェなら心強い。
あの子は芯の強い子だ。
姉のソフィアとは違い、悪いことを悪いと言えて、良いことを良いとハッキリ言える。
アネさん女房だけど、ジークフリードはカーチェにベタ惚れだった。
前にこっそりカーチェに聞いたことがある。
エドアルドとソフィアの子だけど、本当に彼を愛しているの? と。
女王としての立場で聞いたのではなく、友人として訊いた。
すると、彼女は顔を赤く染めて
「お慕いしておりますわ。ちょっと素直過ぎるところがあるので、そこはさりげなく軌道修正させてますが」
という答えが返ってきた。
二人はなんと恋愛婚で、ちゃんと愛がある。
だけど、進むべき道を正しい道へ軌道修正する力を、カーチェは持っている。彼女なら愛に溺れたりしない。
だから、私は安心して玉座を降りることにした。
戴冠の式、たくさんの民に見守られて、私は彼に王冠を与えた。
こうして、私の長い長い政治は終わった。
◆
「で、アーさん。これからどうしますか?」
「……そうねぇ。もう政治はうんざりだから、どこか海の見える場所に小さな屋敷を買いたいわ。それで、二人でゆっくり暮らしましょ」
私達の人生は、まだまだ長い。
竜と不老の女の人生だ。
私は現在、ファウストから教わった魔法で、30代前半の年齢になっている。
でも魔法を解けば、22歳の姿になる。
「あ、カンパネラ。私ね、三年後くらいに眠りにつきたいの。今度は10年くらい眠るかもしれないわ」
「そう、ですか……。寂しいですけど、ずっと起きるのを待ってますよ」
「寝ている間、浮気しちゃだめよ?」
「アーさん以上の人なんていませんって」
私たちは笑いあった。
「でも、なんで今すぐじゃなくて、三年後なんですか?」
「驚かない?」
「もうアーさんが何を言おうと驚きません」
カンパネラは、はいはいやれやれとため息を吐く。
「赤ちゃんができたの」
前置きをしたのにも関わらず、さすがのカンパネラも驚いて、すっ転んでいた。
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