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1章
07 周波数
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教子は集中を途切れさせないように苦労しつつも、
ドアまでワッシワッシ、とカニ歩きで徐々に距離を詰めてゆく。
そして、それを抜け目なく観察する会長以下5名の生徒会役員。
傍からみると女子高生のグループがただふざけてるようにも見えるが、
教子にとっては必死の作業だ。
5人の、いや5頭からの射るような視線にさらされながら教子は・・・
ようやく、廊下に繋がるドアまで残り2メートルほどの地点までたどり着いた。
警戒は、おこたらない。
にらみ合いはまだ続いている。
一瞬でもスキを見せれば、すぐに喰らいついてくるだろう。
そして1頭でも激発すれば、すかさず残りの4頭も飛びかかってくる。
そうなったら、一巻のお終い。
1.5メートル・・
1メートル・・
ゴールまで、あとちょっと。
猛獣には慣れっこの教子でも、さすがに人間の頭脳を持った獣に囲まれたのは生まれて初めてだ。
ホントなら今すぐにでも背中を見せて逃げ出したかった。
ドアまで50センチ。
すぐそこだ。
もうあとは、扉を開けて一目散に逃げだすだけ。
教子がドアノブの位置を探ろうと、一瞬、ほんの一瞬だけ「群れ」から視線を外した。
その瞬間-------------
紫苑 「瑞穂!左手のバンドよ!」
紫苑は文字通りその動物的な勘で、先ほどの妙な一撃の出どころを察していた。
瑞穂 「!・・はっ!」
数メートル離れたところにいた瑞穂が、教子めがけて瞬間移動のように距離を詰める。
走る、というより地面に倒れ込みながら、ラグビーのタックルのような低空飛行で教子に突進してくる。
恐ろしいほどのスピード。
教子「っ!」
予備動作ゼロでいきなりの全速。
人体の力学的に完全にあり得ない動き。
しかし。
いくら人外の速度と言えど、数メートルの距離を走って縮めるのと。
教子が左手のクリッカーを数ミリ絞るのと。
その差は埋めることは如何ともしがたかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どんな動物にも、それぞれに対応した『周波数』がある。
カラスは数十種類の鳴き声を使いわけて群れの仲間と交信し、
イルカは超音波で仲間とコミュニケーションをとり、
ハチは羽をブンブン鳴らしてメスに求愛する。
遺伝子が定めた音には、絶対あらがえない。
その種族を種族たらしめているもの。
本能にプログラミングされているからだ。
それは人間でも、同じ。
ザラザラした金切り音は神経を逆撫でし、
逆に耳に快い音は、気分までしっとりと落ち着かせることができる。
音の力。
音は耳から入って大脳新皮質を突き抜けて、辺縁系を素通りして、
動物脳とよばれる小脳を直接揺さぶる。
それは潜在意識に刷り込まれているもので、意思の力でどうこうできるものじゃない。
さっき近くに行った時に匂いでわかった。
紫苑会長の正体はおそらく、「ネコ科のなにか」だ。
-----------父との会話が蘇ってくる。
『これが、アムールトラ。ネコ科の中でも最大の種だ。
綺麗だろ?ウチのサーカスの目玉なんだよ。』
『コイツの扱い方は難しいようで簡単だ。』
『鳴き声にビビらず、目つきに臆さず、
周波数を合わせて響かせるように"クリック"してやればいい。』
『ネコは耳が良いからな。簡単にしびれるぞ。ハッハッハ!』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アムールトラを「しびれさせる」周波数は・・・・・
・・・・・・これ。
教子 「クリック!」
-------------------------------カチッ-----------------------------------
紫苑 「はぁぁぁぁぁんっっっ!!!!♥♥♥♥♥♥♥♥」
ボゴンッッッッッッ!!!!
カオル「きゃあっ!?」
こずえ「うおっ!!?」
瑞穂 「なにごと!?」
アケミ「・・・・!!」
教子 「ひぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」
教子は凄まじい轟音と衝撃に思わず身をすくめた。
まわりの"動物"たちも突然の事態にあわてふためいている。
紫苑の前にあった、200kgはあろうかという会長用の大きな樫の机が、50cmほどその位置をずらしていた。
そしてその側板は、メッコリと歪んでいる。
歪んだ部分から煙が立ち上ってきそうだった。
突然、紫苑が素っ頓狂な大声を上げて机を思いっきり蹴飛ばしたのだ。
・・・・・いや、蹴飛ばしたのではない。
またしても得体のしれない甘い衝撃が-------しかも先ほどとは比べ物にならないほどの強さの-------体の内側で爆発して、四肢を一気にこわばらせた結果、足が机にぶつかったのだ。
・・・・それにしても一体全体どういう怪力なのだろうか?
頑丈なアンティークデスクがひしゃげるほどのキック。
軽トラックが衝突したぐらいじゃないと、こうはならない。
わかってたけど・・
やっぱり、この人達は・・
いや、コイツらは・・・
・・・・・・人間じゃない!
紫苑は床にもんどりうって倒れて、自身の体をかき抱きながら身をよじらせている。
甘い衝撃の余韻に浸っているのだ。
紫苑 「んにゃ・・・はぁ・・うぅん・・にゃあ・・・♥♥♥♥♥」
紫苑 「はぁん・・・マタタビぃ・・・好きなのマタタビぃ・・・♥♥♥♥♥」
カオル「か、会長!しっかりしてください!正気に戻って!」
だらしなく開かれた口元からはヨダレが垂れて、目の焦点が定まっていない。
官能的な超絶美女の怪しい痴態。
高校生にしてはオトナっぽすぎる赤いレースの下着が丸見えだ。
もしも教子が男子柔道部だったら、鼻血を出しながらむしゃぶりついてそのまま寝技の攻防に持ち込んでいるところだろう。
・・・・・・・・・いや、だから。
それどころじゃないんだってば。
紫苑 「あぁん!♥もっと下も撫でてぇ!♥アゴだけじゃ我慢できないのぉ!!♥♥」
カオル「会長!?会長!!??」
こずえ「こーゆー触って音が出る人形って昔流行ったよなー。」
瑞穂 「こずえ!あなたはAEDを持ってきなさい!」
アケミ「・・・・・・・」
ボスが倒れたことで一気に統率を失う生徒会室の獣たち。
教子「・・・・・」
教子はもう今日の出来事をどのように理解すればよいのかわからない。
まあ、とりあえず、いまのところは・・・・・・
教子 「・・・皆様!本日はお疲れ様でございました!」
教子 「それでは!!」
教子 「ごきげんよう!!!!!!」
・・・・・・逃げよう。
教子は、ドアノブを乱暴にひっつかむと、
扉をひっぺがすように勢いよく開けて、
そのまま後ろも見ずに走り去ってしまった。
(第1章・終)
ドアまでワッシワッシ、とカニ歩きで徐々に距離を詰めてゆく。
そして、それを抜け目なく観察する会長以下5名の生徒会役員。
傍からみると女子高生のグループがただふざけてるようにも見えるが、
教子にとっては必死の作業だ。
5人の、いや5頭からの射るような視線にさらされながら教子は・・・
ようやく、廊下に繋がるドアまで残り2メートルほどの地点までたどり着いた。
警戒は、おこたらない。
にらみ合いはまだ続いている。
一瞬でもスキを見せれば、すぐに喰らいついてくるだろう。
そして1頭でも激発すれば、すかさず残りの4頭も飛びかかってくる。
そうなったら、一巻のお終い。
1.5メートル・・
1メートル・・
ゴールまで、あとちょっと。
猛獣には慣れっこの教子でも、さすがに人間の頭脳を持った獣に囲まれたのは生まれて初めてだ。
ホントなら今すぐにでも背中を見せて逃げ出したかった。
ドアまで50センチ。
すぐそこだ。
もうあとは、扉を開けて一目散に逃げだすだけ。
教子がドアノブの位置を探ろうと、一瞬、ほんの一瞬だけ「群れ」から視線を外した。
その瞬間-------------
紫苑 「瑞穂!左手のバンドよ!」
紫苑は文字通りその動物的な勘で、先ほどの妙な一撃の出どころを察していた。
瑞穂 「!・・はっ!」
数メートル離れたところにいた瑞穂が、教子めがけて瞬間移動のように距離を詰める。
走る、というより地面に倒れ込みながら、ラグビーのタックルのような低空飛行で教子に突進してくる。
恐ろしいほどのスピード。
教子「っ!」
予備動作ゼロでいきなりの全速。
人体の力学的に完全にあり得ない動き。
しかし。
いくら人外の速度と言えど、数メートルの距離を走って縮めるのと。
教子が左手のクリッカーを数ミリ絞るのと。
その差は埋めることは如何ともしがたかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どんな動物にも、それぞれに対応した『周波数』がある。
カラスは数十種類の鳴き声を使いわけて群れの仲間と交信し、
イルカは超音波で仲間とコミュニケーションをとり、
ハチは羽をブンブン鳴らしてメスに求愛する。
遺伝子が定めた音には、絶対あらがえない。
その種族を種族たらしめているもの。
本能にプログラミングされているからだ。
それは人間でも、同じ。
ザラザラした金切り音は神経を逆撫でし、
逆に耳に快い音は、気分までしっとりと落ち着かせることができる。
音の力。
音は耳から入って大脳新皮質を突き抜けて、辺縁系を素通りして、
動物脳とよばれる小脳を直接揺さぶる。
それは潜在意識に刷り込まれているもので、意思の力でどうこうできるものじゃない。
さっき近くに行った時に匂いでわかった。
紫苑会長の正体はおそらく、「ネコ科のなにか」だ。
-----------父との会話が蘇ってくる。
『これが、アムールトラ。ネコ科の中でも最大の種だ。
綺麗だろ?ウチのサーカスの目玉なんだよ。』
『コイツの扱い方は難しいようで簡単だ。』
『鳴き声にビビらず、目つきに臆さず、
周波数を合わせて響かせるように"クリック"してやればいい。』
『ネコは耳が良いからな。簡単にしびれるぞ。ハッハッハ!』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アムールトラを「しびれさせる」周波数は・・・・・
・・・・・・これ。
教子 「クリック!」
-------------------------------カチッ-----------------------------------
紫苑 「はぁぁぁぁぁんっっっ!!!!♥♥♥♥♥♥♥♥」
ボゴンッッッッッッ!!!!
カオル「きゃあっ!?」
こずえ「うおっ!!?」
瑞穂 「なにごと!?」
アケミ「・・・・!!」
教子 「ひぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」
教子は凄まじい轟音と衝撃に思わず身をすくめた。
まわりの"動物"たちも突然の事態にあわてふためいている。
紫苑の前にあった、200kgはあろうかという会長用の大きな樫の机が、50cmほどその位置をずらしていた。
そしてその側板は、メッコリと歪んでいる。
歪んだ部分から煙が立ち上ってきそうだった。
突然、紫苑が素っ頓狂な大声を上げて机を思いっきり蹴飛ばしたのだ。
・・・・・いや、蹴飛ばしたのではない。
またしても得体のしれない甘い衝撃が-------しかも先ほどとは比べ物にならないほどの強さの-------体の内側で爆発して、四肢を一気にこわばらせた結果、足が机にぶつかったのだ。
・・・・それにしても一体全体どういう怪力なのだろうか?
頑丈なアンティークデスクがひしゃげるほどのキック。
軽トラックが衝突したぐらいじゃないと、こうはならない。
わかってたけど・・
やっぱり、この人達は・・
いや、コイツらは・・・
・・・・・・人間じゃない!
紫苑は床にもんどりうって倒れて、自身の体をかき抱きながら身をよじらせている。
甘い衝撃の余韻に浸っているのだ。
紫苑 「んにゃ・・・はぁ・・うぅん・・にゃあ・・・♥♥♥♥♥」
紫苑 「はぁん・・・マタタビぃ・・・好きなのマタタビぃ・・・♥♥♥♥♥」
カオル「か、会長!しっかりしてください!正気に戻って!」
だらしなく開かれた口元からはヨダレが垂れて、目の焦点が定まっていない。
官能的な超絶美女の怪しい痴態。
高校生にしてはオトナっぽすぎる赤いレースの下着が丸見えだ。
もしも教子が男子柔道部だったら、鼻血を出しながらむしゃぶりついてそのまま寝技の攻防に持ち込んでいるところだろう。
・・・・・・・・・いや、だから。
それどころじゃないんだってば。
紫苑 「あぁん!♥もっと下も撫でてぇ!♥アゴだけじゃ我慢できないのぉ!!♥♥」
カオル「会長!?会長!!??」
こずえ「こーゆー触って音が出る人形って昔流行ったよなー。」
瑞穂 「こずえ!あなたはAEDを持ってきなさい!」
アケミ「・・・・・・・」
ボスが倒れたことで一気に統率を失う生徒会室の獣たち。
教子「・・・・・」
教子はもう今日の出来事をどのように理解すればよいのかわからない。
まあ、とりあえず、いまのところは・・・・・・
教子 「・・・皆様!本日はお疲れ様でございました!」
教子 「それでは!!」
教子 「ごきげんよう!!!!!!」
・・・・・・逃げよう。
教子は、ドアノブを乱暴にひっつかむと、
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そのまま後ろも見ずに走り去ってしまった。
(第1章・終)
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