わからせ! もののけ生徒会の調教師1年生

水都 おこめ

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2章

13 車内

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ガタンゴトン・・ガタンゴトン・・


おっさん「ぐーーーーー、ぐーーーーー・・・」


くたびれたおっさんが眠る、夕方の慶応線、後方より3両目。


瑞穂 「・・・・」

教子 「・・・・」

教子は、瑞穂と電車に揺られていた。

無言だ。

先ほどのアケミとの時間と同じように。



しかし、ちょっとだけ違う。

瑞穂と2人きりは、アケミの時と違って、ちょっとだけ、きまずい。

と言っても、プレッシャーを感じるほどではないが・・


瑞穂 「・・・・」

教子 「・・・・」


やはり、アケミと違い、ちょっとだけ、壁を感じる。



それは、瑞穂の持つ獣人もののけとして消し去ることのできない人間への敵愾心てきがいしんからか・・・

それとも、教子の持つ『クリック』という能力への畏怖からか・・・

ただ単に知り合って間もないからか。

それらの中のどれなのか、もしくは全部なのか、教子にはわからなかった。




・・・でも、そんなものだろう。

人間同士でさえ、初対面は気後れするものだ。当たり前だけど。

未知の存在に関する、単純な警戒心。

教子はそれくらいのものだと思うことにした。

瑞穂 「・・・・」

教子 「・・・・」

だって瑞穂は、どうみても常識人だ。

紫苑トラこずえゴリラとは違う。

アケミと同じように、ゆっくり、ゆっくりと分かりあっていけばいい。

まだ、入学したばかり。

生徒会に入会したばかり。

これから、順番に打ち解けていこう。

少し前までの、灰色なだけだった無味無臭の人生と比べれば、日常生活のスパイスが増えたようなものだ。

やりがいがある。





というか・・・・瑞穂先輩はむしろ仲間に引き入れなくては。

凶暴な猛獣たちしおんこずえから守ってくれるように・・・

うん。

常識人な先輩に可愛がられる。これ大切。

先輩ガチャは職場において何よりも大切って、お父さんも言ってたしね。








そしてさらに、先輩がどうこう、とか関係なく・・



・・教子は、瑞穂の陶器とうきのような白い肌と、いたばかりのようなつややかなビロードの黒髪を見る。


・・・やっぱ美人だし。



でへへ、と教子はニヤけて、自分が改めて美女だらけの楽園に入ってしまったのだという幸福を噛みしめる。

すでに、性別がどうとかの疑問は遠く彼方へ置き去りにしてきた。



さよなら・・・昨日までの私。

そして、こんにちは・・アケミと先輩方びじょとの素晴らしき青春ゆりの日々。

桃色サファリパーク。

おいでよ、ど●ぶつの百合。






でへへ・・よろしくおなしゃっす・・とニンマリ笑って青春ゆりの神様に願掛けをする教子を、瑞穂は一瞬気持ち悪そうな目で見ると、


瑞穂 「・・ねえ、ちょっと訊いていい?」

教子 「デュフフ…ファ---…ブルスコ…ファーー・・・・・あっ、はい?なんですか?」


急に、教子に尋ねてきた。



瑞穂 「私の正体はなんだか、わかる?」

瑞穂 「私の中身・・・・知ってるんでしょ?」

教子 「・・・・」



いきなり、美女からこんなことを聞かれてちょっとエロチックだな、と思ったが、教子は普通に答えた。



教子 「はい・・」

教子 「キツネ・・・ですよね?」

瑞穂 「ご名答。さすがね。」



妖狐。

教子の脳内に、昔なにかの日本画で見た、数本の尾を持つ真っ白で高貴な美しい化け狐の姿が思い出される。

目の前の瑞穂は、姿こそまるっきり違えど、その気品のある美しい雰囲気はまさしく、そのような絵画の通りだった。



瑞穂は、基本的に無駄な動作というものをしない。

髪をかき上げる時も、頬に手を当てる時も。

舞踊っぽいというか、茶道っぽいというか、弓道っぽいというか、教子にはよくわからないけど・・・動作の端々にいたるまで、とにかく楚々として洗練されている。


瑞穂 「・・・・」

瑞穂は、用が無くなると、何もしゃべらない。

教子との会話を終えて、絵画の中の住人に戻ってしまったかのように。


特に今は、夕日も差し込んで・・・・本当に絵画のような、セピア調でモノクロームな光景だ。

アケミと一緒の時とは違うけど、まぁ、これはこれでいいな・・と教子はそう素直に思った。



おっさん「ぐーーーーーーーー、ぐーーーーーーー・・・・・」

・・・・・目の前では、おっさんが大口を開けてガーゴー寝てるけど。










瑞穂 「ね、ちょっと見せてみてくれない?それ」

瑞穂がまた、絵画の中から飛び出してきて、教子のクリッカーを指さす。

教子 「あ、はい・・どうぞ。」

スッ、と教子は左手首を差し出した。

瑞穂 「ふうん・・これが、ねぇ・・」

瑞穂 「これを"かちっ"てしただけで、あの会長があんな風になるんだ・・・」

教子 「はい。キツネさん用の周波数も、もちろんあるますよ。ぐふ♪」

瑞穂 「・・・やらないでよね」

教子 「やりません!やりません!」

瑞穂が、ちょっと目力を強くして、きっ・・と教子を目で牽制けんせいした。

顔が整ってる分、美しくて怖い。

美人がニラむと超怖い・・・・教子はまた一つ賢くなった。




しかし・・この狭い車内で・・こんな近くに・・

瑞穂の整った顔立ちが間近にある。

教子は瑞穂のちょっとシリアスになった顔をまじまじと見る。

それだけで、ちょっとラッキーだと思える。



瑞穂は、身長も体格も、教子とほとんどかわらない。

人間の女の子としても小柄な方だ。



アケミとも、こずえとも、また違った、いい匂い。

真っ白なお花畑を思わせる、清純で清廉な匂い。

柔軟剤なしで、まっしろ、ぽん!

教子の脳内になんとなく、洗剤のCMが再生された。




顔立ちは、目も鼻もクチビルもすべてが小づくりで、整っている。

日本人形のようなかわいらしさだ。

それは、中身の潔癖さと清純さが外側に美しい芳香となってにじみ出ているようで・・。

大きなお友達向けのアイドルになったら、その方面の方々から絶大な支持をうけるだろう。

これはこれで・・・・と、思いかけた教子は例によってアケミかのじょ(?)の姿を思い出し、自身の妄念を振り払った。






瑞穂 「人間の・・・」

教子 「え?」

突然。

ほんとうに、突然。

瑞穂が訥々とつとつと語りだした。


瑞穂 「人間の叡智というのは・・本当に、恐ろしい」

教子 「え・・?」

瑞穂 「人間がその気になれば、どんな動物だって、簡単に皆殺しにできる・・地球上から根絶させることができる」

教子 「・・・」

瑞穂 「いくら獣人わたしたちが人外だと言っても・・・せいぜい腕力が強いくらいなのにね」

教子 「・・・」





瑞穂 「人間は、そんな道具すら作り出すこともできる」

瑞穂が、やや真剣な怖れが宿った目で教子の左手首を見る。

教子 「・・・」

教子は、もう、瑞穂の独白ひとりごとを黙って聞いてあげることしかできない。

瑞穂 「恐ろしいわ。本当に」

教子 「・・・」

瑞穂 「・・約束して」

教子 「・・え?」

瑞穂 「約束して。絶対に、この力を、簡単に、私たちを弄ぶように使わないって」

教子 「・・・」

教子は、今日知り合った先輩の、突然の懇願に一瞬どうすればいいかわからなかった。

瑞穂 「・・・」

教子 「・・・」

瑞穂 「・・・」

教子 「・・・」

しかし。

教子 「・・・もちろんですよ」

教子 「もちろん、そんなこと、しません」

もちろん、答えなんて決まってる。

瑞穂 「・・・・」

瑞穂 「ありがとう・・・」





電車が停車駅に着き、停まるためにその速度を落としていく。

瑞穂は、自然な動作でドアに寄っていく。

ここで降りるのだろう。





駅につく。

急な懇願、からの、急な別れ。

教子はふと、『きつね』という字と孤独こどくの『孤』という字は似てるな、と思った。

とりとめのない思い。



・・けれど。

瑞穂 「・・・・・(ニコッ」

教子 「!」

瑞穂 「それじゃ、明日からよろしくね。」

教子 「は、はいっ!」

教子 「こちらこそ、よろしくお願いいたしますっ」


最後に瑞穂は、ちゃんと笑って、よろしくと言ってくれた。

だから、大丈夫だろう。



この生徒会の人たちは、いい人ばっかりだ。

みんな少しだけ、寂しげだけど・・。

教子は、自分の役割がだんだんわかってきたような気がしてきた。

ひとりの人間として、この獣人たちにできるだけ真剣に、丁寧に、接していく。



教子が、先輩に向かって狭い車内で、ペコリと体を折ってお別れの挨拶をした。

瑞穂も、狭い車内でちょっとだけ挨拶を返す、口元をかすかにほほ笑ませて。


瑞穂 「・・・また明日」

教子 「はい、また明日」
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