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2章
12 駅前
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下校時の駅ビル。
アケミとイチャコラしていた(つもりの)教子は、瑞穂とこずえに偶然遭遇した。
こずえ「おー、お前らもうそんなおアツい仲になったのかー・・・近頃の若いモンは早いね~♪」
瑞穂 「そんなワケないでしょ。同性同士なんだから・・・・・え、そうよね?そうだと言ってほしいんだけど」
教子 「・・・・・あー、はは・・ども・・」
アケミ「・・・・」
ちきしょう、せっかくアケミとイイ雰囲気だったっつーに・・
桃色のいい旅夢気分に浸っていた教子は現実に引き戻されて、露骨に不貞腐れる。
ま、先輩たちだし一応挨拶はしとかなきゃな・・・・
教子がチッ、と舌打ちしつつも向き直ろうとすると、
その瞬間、
アケミ「・・・・(タタッ」
教子 「あっ・・」
スッ・・とアケミが離れていく。
教子 「アケミ・・・」
駅の改札に、アケミは1人で歩き出す。
チラ、と一瞬だけ御主人様に名残惜しそうな一瞥をくれて。
その眼は、とっても申し訳なさそうで、アケミの長いまつ毛がしっとりと濡れてるように見えて、妖艶な色気があった。
うっ・・これはこれで・・さっきのエンジェゥアケミとはまた違った妖しげな魅力があってイイ・・
・・って、今はそうじゃない。
アケミは、遠ざかってゆく。
教子はその背中にアケミの申し訳なさとしょぼん(´・ω・`)とした雰囲気をヒシヒシと感じていた。
調教師の教子でなくともわかっただろう。
教子 「・・・・」
だって、アケミはあんなにも、純粋で、良い子なんだから。
黙ってサヨナラなんて、当のアケミが一番寂しいよね。わかってるよ。
アケミにも、いろいろ事情がある。
今日知り合ったばっかだし。
これから、どんどん仲良くなって、知り合っていこう。
焦ることはない。
教子 「・・・アケミー!じゃあねー!また明日ー!」
そのまま去ろうとしたアケミだが、
ご主人様の声に、ピタッと立ち止まり、
チラ、とこちらを振り返る。
アケミ「・・・・・(ニコッ」
教子 「!」
教子 「・・・・・ハ ァ ハ ァ」
去り際にアケミが再び見せてくれた屈託のない忠犬スマイルに、また湯沸かし器のように一瞬でテンションを上げる教子。
アケミは最後の最後まで、教子の心に微笑みと温かさを残して去ってくれた。
長身でなまめかしい肢体が、通行人の無遠慮な視線に晒されながら、改札を通り駅のホームへと消えてゆく。
教子が声をかけるとアケミは、なんとなくお尻を、尻尾の代わりにフリフリと振って喜びを表現したように見えた。
決して、教子がそういう劣情の炎に満ちた目でアケミを見ていたためにそう感じたのではない。
多分。
駅ビルの中は、夕暮れの時間帯ということもあり、多くの人が行き交っている。
こずえ「ったく、愛想わりーよなー、あのバカ犬」
瑞穂 「・・・・」
あ、そうだ。この人たちがいたんだ。
ようやく教子はこずえと瑞穂に意識をうつし、振り返った。
教子「お二人とも、なにしてたんですか?」
こずえ「クレープって知ってるか?駅前にうまい店あるんだよ」
こずえは、山賊が戦利品を運ぶように両手にクレープを持って食べていた。
教子 「そのお店はともかく、クレープの存在を知らない女子高生は存在しないと思います」
瑞穂 「1度に8個くらい食べるからお店の人も焼くのが大変よ。待つ方もね」
教子 「一応、校則では買い食い禁止ですよ」
こずえ「コーソク?それ、クレープよりうまいか?どこで食える?」
教子 「あ、なんでもないですもういいです」
少年漫画の主人公が現実世界に存在したら、こんな感じのウザったさだろうな、と教子は思った。
クレープを食べながら歩くこずえと、瑞穂と教子は、さきほどアケミが消えた改札に向かって歩き出す。
こずえ「・・また、あの、『プリッツ』ってやつ?あの気持ちイイのやってくれよぉ~♪なぁ~いいだろぉ~?♪」
片手のクレープを食べ終えたこずえは、ムチムチした太い腕をガバッ、と迷惑ナンパ野郎のように教子の肩に回してささやいた。
アケミとはまた違った、なんだか濃厚で甘ったるい体臭がする。
これはこれで・・と思いかけた教子は、アケミの姿を思い出して邪念を振り払った。
教子 「はは・・・あんまりやりすぎると廃人になっちゃいますよ・・そして『クリック』ですから」
なにげなく腕を回してるだろうに、教子にしてみれば万力のような強さだ。
あまり近くに寄らないでほしい。
そして、背中にあたるゴムまりのような感触が半端ない。
小さめのバランスボールですかあんたのは?と突っ込みたくなる。
今のところ こずえ≧アケミ>>会長>(超えられない壁)>カオル>瑞穂
といったところだろうか。
いや、なんのランキング?
そして私はどこに?圏外?
アウト・オブ・眼中?
こずえ「あれ、なんかビリビリして気持ちい~よな~♥」
瑞穂 「あんたがハマったらガチのおさるさんになっちゃうわよ・・」
教子 「こずえさんって申し訳ないですけど、近距離パワー型っていうか、ちょっと頭のほうが残念ですよね」
教子がごく率直な感想を述べる。
うん、事実なのだからしょうがない。隠すのは本人のためじゃないし。
すると、瑞穂が少しふぅ・・とため息をつき、
瑞穂 「こずえはクレープ食べる時もバカみたいに注文するし、バカみたいに食べるし、授業中もバカみたいに寝るし、成績も地頭も悪い全方向型のバカなのだけれど・・」
瑞穂 「・・・まあ、面白いわよ。こずえは」
瑞穂はやさしくつぶやき、これまた優しい目でこずえを見やる。
整った横顔が古風で清楚で美しい。昭和の名女優のようだ。
教子は、瑞穂とこずえとの間に、同学年というだけではない特別な絆を感じていた。
この2人の間柄も、気になるな・・・色々と。
他愛もないことを話しながら、3人は改札をくぐった。
改札内にも、カフェやらパン屋やら、たくさんのテナントが入居している。
駅の近くに勤務するビジネスマンへ、朝食を提供する場所だ。
こずえ「・・・お!"バナナクリームマリトッツォ"だって!なんだこれ!?」
こずえ「すんませーん!これくださーい!」
店員 「はーい、お持ち帰りのお時間は・・・って、きゃー!出たー!店長ー!!」
店長 「あわわ!し、品切れです!というか当店は本日をもって閉業いたします!長らくのご愛顧ありがとうございました!!」
店長があわてて出てきて、いそいそとシャッターを閉め始める。
こずえ「ちっ、なんだよー。閉店かよー」
瑞穂 「・・・・」
教子 「・・・・」
構内に入居しているたくさんのテナント。
よく見たらそのすべてに『こずえお断り』の張り紙が貼られていた。
ご丁寧に赤字の丸付きで。
教子 「もしかしてこずえさん、って飲食店クラッシャーとか呼ばれてたりします?」
瑞穂 「・・・・こずえは、史上最年少でバカ竜王とバカ名人を制したバカ界の七冠王なの」
瑞穂 「馬鹿頭と馬鹿力を併せ持ったバカ・ハイブリッド……バカ界の二刀流選手よ。バカMVPを満票で受賞したこともあるわ」
こずえ「いいじゃんかよぉ~♪あと一個くらい残ってるだろぉ~?アタシもバナナ仲間に入れてくれよぉ~♪」
店長が全力で閉めようとしたシャッターを片手の2本の指で無造作に押さえるこずえ。
それだけで、合金製のシャッターがミシミシとイヤな音を立て始める。
店長 「たっ、助けてくれー!誰か―!店が破壊されるー!」
店員 「もしもし!?警察ですか!?怪力のJKにお店を壊されそうなんです!いやバールとかじゃなくて素手で!」
教子 「そして、こずえさんって多分バナナが大好物ですよね?」
瑞穂 「好物というより飲み物、いや、もはやこずえにとっては気体といっていいでしょうね」
瑞穂 「皮膚呼吸するように常に全身からバナナ分を吸収しているの。こずえがフルーツパーラーの前を通っただけで黄色いバナナがすべて黒くシナびてしまうわ」
瑞穂 「恐らくこの地球上の大気組成が一夜にしてすべてバナナに変わり、人類の悉くがバナナに埋もれて死に絶えたとしても、こずえだけは生き残るでしょう」
こずえ「バナナなら鼻からでも食えるぜ。耳でもいけるかも」
自身の命まで覚悟したカフェ店長の決死の抵抗により、マリトッツォを諦めざるをえなかったこずえが戻ってきて言い放つ。
教子 「獣人じゃなくてもはや怪異ですね」
瑞穂 「怪異はこの物語には出てこないわ。パクリだと思われるしね」
こずえ「教子!このおバカさんめ!♪」
教子 「ハハハこずえさんにだけは言われたくないですマジで」
・・・・そうか。バナナか。
バナナが決め手だったのか。
と、教子がこずえの顔面の下方約30cm、つまり胸部をぼんやりと眺めながら、「帰ったら最寄りのスーパーで特売のバナナを買い占めよう」とかそんなとりとめもないことを考えていた時、
こずえ「んしょっ!・・っと」
こずえがいきなり無造作にジャンプして、駅構内の柱の鉄骨に掴まった。
教子 「ちょっ!?こずえさん!?」
こずえ「えっほ♪えっほ♪」
そのまま鉄骨をスルスルと忍者のように登ってゆく。
エレベーターのような淀みない速さだ。
瑞穂 「また始まったわね・・」
教子 「な、なにしてんすか!?」
瑞穂 「そう・・・見ての通りこずえは、猿の獣人よ。」
瑞穂 「定期的に高い所に登らないと、気が済まないの。本能なんでしょうね」
教子 「いや、ヤバいっすね色々と・・」
瑞穂 「生徒会内でも随一の怪力を誇るわ。おそらくカラダのエネルギーを常に発散しておかないと爆発してしまうと、自分でもわかっているのでしょう」
瑞穂 「何年か前の新人なんか、こずえの何気ないくしゃみで吹き飛ばされて、そのまま病院送りになったわ」
教子 「・・・・・」
可憐な美女だらけだと思っていた夢の学園ライフにいきなり水を差す存在が現れて、教子はどうしようかと思った。
そうこうしてる間にも、こずえは柱を登り切り、今度は天井の梁の鉄骨を雲梯の要領でワッシワッシとつかんで、教子の遥か上空を水平移動している。
まるで、というよりもはやサルそのものでしかない。
着てるのはもちろん学園指定のセーラー服なので、数百人の駅利用客すべてにパンモロを見せつける豪快な痴女と化してしまっている。
こずえ「バナナ、バナナ、バナナ~♪バナナ~を~食べると~♪」
こずえ「あたま、あたま、あたま~♪あたま~が~良くなる~♪」
駅の利用客が異変に気づき出した。
「あれはなんだ!?」
「鳥か!?」
「飛行機か!?」
「いや、痴女だ!!」
「ち、痴女だー!!上空数十メートルでパンモロしてるすごい痴女がいるぞー!!」
上はパンモロ、下は大騒ぎ。
東大生でも解答できないようなナゾナゾである。
教子 「これ、警察か消防呼んだ方がいいですか?それとも猟友会?」
瑞穂 「いつもの事よ。遊び疲れたら帰ってくるでしょ」
諦めに満ちた目でこずえを見やる瑞穂。
瑞穂「フッ、そうよね・・・こずえは恒久的かつ不可侵な分散型のバカ・ネットワークを持つバカ界のブロックチェーンだものね・・・」
慈愛に満ちた目でこずえを見やる瑞穂。
視線は、こずえを通り越してその先の未来を見据えているようでもある。
教子は、やはりこの2人は、生徒会と関係なしに、なにか特別な過去を共有する親友なんだな、と思った。
そして、親友なら止めてやれよ、とも思った。
かなり強く思った。
構内放送 「エー、業務連絡、業務連絡。南口改札の天井の梁に捕まり、雲梯の要領でパンモロしまくってるモノスゴい痴女がいるとのコト。係員は対応してください。」
警備員1 「また出やがったな!怪力の痴女め!!」
警備員2 「くそっ、いつもいつも俺たちをコケにしやがって!」
警備員3 「今日こそ捕まえてやる!!」
警備員4 「御用だ!御用だ!」
呆然と立ち尽くす教子の隣を、刺又とテーザー銃を構えた警備員の集団が血相を変えて駆け抜けてゆく。
教子「こずえさん、というより、もはや私たちの身柄も含め色々と大丈夫なんですかね?」
みずほ「フッ、そうよね・・・こずえは立ってよし、寝てよしのバカ界のオールラウンダーだものね・・・・」
教子の声が届いているのかいないのか、マザー・テレサの目でこずえを見やる瑞穂。
すべてを包み込むような、それでいてどこか寂しげな目である。
教子 「あの、どうします?これ?」
瑞穂 「さぁ?いつものことよ・・・どうにかするでしょ」
瑞穂 「私は帰るわね。ああなったらしばらくは戻ってこないから」
教子 「マジすか?・・・じゃあ私も帰りますけど」
教子は、騒がしさを増す駅の喧騒をよそに、瑞穂と2人で電車に乗り込んだ。
・・・バカな先輩のやったことで取り調べとか、学校や親に連絡とか、絶対やだし。
アケミとイチャコラしていた(つもりの)教子は、瑞穂とこずえに偶然遭遇した。
こずえ「おー、お前らもうそんなおアツい仲になったのかー・・・近頃の若いモンは早いね~♪」
瑞穂 「そんなワケないでしょ。同性同士なんだから・・・・・え、そうよね?そうだと言ってほしいんだけど」
教子 「・・・・・あー、はは・・ども・・」
アケミ「・・・・」
ちきしょう、せっかくアケミとイイ雰囲気だったっつーに・・
桃色のいい旅夢気分に浸っていた教子は現実に引き戻されて、露骨に不貞腐れる。
ま、先輩たちだし一応挨拶はしとかなきゃな・・・・
教子がチッ、と舌打ちしつつも向き直ろうとすると、
その瞬間、
アケミ「・・・・(タタッ」
教子 「あっ・・」
スッ・・とアケミが離れていく。
教子 「アケミ・・・」
駅の改札に、アケミは1人で歩き出す。
チラ、と一瞬だけ御主人様に名残惜しそうな一瞥をくれて。
その眼は、とっても申し訳なさそうで、アケミの長いまつ毛がしっとりと濡れてるように見えて、妖艶な色気があった。
うっ・・これはこれで・・さっきのエンジェゥアケミとはまた違った妖しげな魅力があってイイ・・
・・って、今はそうじゃない。
アケミは、遠ざかってゆく。
教子はその背中にアケミの申し訳なさとしょぼん(´・ω・`)とした雰囲気をヒシヒシと感じていた。
調教師の教子でなくともわかっただろう。
教子 「・・・・」
だって、アケミはあんなにも、純粋で、良い子なんだから。
黙ってサヨナラなんて、当のアケミが一番寂しいよね。わかってるよ。
アケミにも、いろいろ事情がある。
今日知り合ったばっかだし。
これから、どんどん仲良くなって、知り合っていこう。
焦ることはない。
教子 「・・・アケミー!じゃあねー!また明日ー!」
そのまま去ろうとしたアケミだが、
ご主人様の声に、ピタッと立ち止まり、
チラ、とこちらを振り返る。
アケミ「・・・・・(ニコッ」
教子 「!」
教子 「・・・・・ハ ァ ハ ァ」
去り際にアケミが再び見せてくれた屈託のない忠犬スマイルに、また湯沸かし器のように一瞬でテンションを上げる教子。
アケミは最後の最後まで、教子の心に微笑みと温かさを残して去ってくれた。
長身でなまめかしい肢体が、通行人の無遠慮な視線に晒されながら、改札を通り駅のホームへと消えてゆく。
教子が声をかけるとアケミは、なんとなくお尻を、尻尾の代わりにフリフリと振って喜びを表現したように見えた。
決して、教子がそういう劣情の炎に満ちた目でアケミを見ていたためにそう感じたのではない。
多分。
駅ビルの中は、夕暮れの時間帯ということもあり、多くの人が行き交っている。
こずえ「ったく、愛想わりーよなー、あのバカ犬」
瑞穂 「・・・・」
あ、そうだ。この人たちがいたんだ。
ようやく教子はこずえと瑞穂に意識をうつし、振り返った。
教子「お二人とも、なにしてたんですか?」
こずえ「クレープって知ってるか?駅前にうまい店あるんだよ」
こずえは、山賊が戦利品を運ぶように両手にクレープを持って食べていた。
教子 「そのお店はともかく、クレープの存在を知らない女子高生は存在しないと思います」
瑞穂 「1度に8個くらい食べるからお店の人も焼くのが大変よ。待つ方もね」
教子 「一応、校則では買い食い禁止ですよ」
こずえ「コーソク?それ、クレープよりうまいか?どこで食える?」
教子 「あ、なんでもないですもういいです」
少年漫画の主人公が現実世界に存在したら、こんな感じのウザったさだろうな、と教子は思った。
クレープを食べながら歩くこずえと、瑞穂と教子は、さきほどアケミが消えた改札に向かって歩き出す。
こずえ「・・また、あの、『プリッツ』ってやつ?あの気持ちイイのやってくれよぉ~♪なぁ~いいだろぉ~?♪」
片手のクレープを食べ終えたこずえは、ムチムチした太い腕をガバッ、と迷惑ナンパ野郎のように教子の肩に回してささやいた。
アケミとはまた違った、なんだか濃厚で甘ったるい体臭がする。
これはこれで・・と思いかけた教子は、アケミの姿を思い出して邪念を振り払った。
教子 「はは・・・あんまりやりすぎると廃人になっちゃいますよ・・そして『クリック』ですから」
なにげなく腕を回してるだろうに、教子にしてみれば万力のような強さだ。
あまり近くに寄らないでほしい。
そして、背中にあたるゴムまりのような感触が半端ない。
小さめのバランスボールですかあんたのは?と突っ込みたくなる。
今のところ こずえ≧アケミ>>会長>(超えられない壁)>カオル>瑞穂
といったところだろうか。
いや、なんのランキング?
そして私はどこに?圏外?
アウト・オブ・眼中?
こずえ「あれ、なんかビリビリして気持ちい~よな~♥」
瑞穂 「あんたがハマったらガチのおさるさんになっちゃうわよ・・」
教子 「こずえさんって申し訳ないですけど、近距離パワー型っていうか、ちょっと頭のほうが残念ですよね」
教子がごく率直な感想を述べる。
うん、事実なのだからしょうがない。隠すのは本人のためじゃないし。
すると、瑞穂が少しふぅ・・とため息をつき、
瑞穂 「こずえはクレープ食べる時もバカみたいに注文するし、バカみたいに食べるし、授業中もバカみたいに寝るし、成績も地頭も悪い全方向型のバカなのだけれど・・」
瑞穂 「・・・まあ、面白いわよ。こずえは」
瑞穂はやさしくつぶやき、これまた優しい目でこずえを見やる。
整った横顔が古風で清楚で美しい。昭和の名女優のようだ。
教子は、瑞穂とこずえとの間に、同学年というだけではない特別な絆を感じていた。
この2人の間柄も、気になるな・・・色々と。
他愛もないことを話しながら、3人は改札をくぐった。
改札内にも、カフェやらパン屋やら、たくさんのテナントが入居している。
駅の近くに勤務するビジネスマンへ、朝食を提供する場所だ。
こずえ「・・・お!"バナナクリームマリトッツォ"だって!なんだこれ!?」
こずえ「すんませーん!これくださーい!」
店員 「はーい、お持ち帰りのお時間は・・・って、きゃー!出たー!店長ー!!」
店長 「あわわ!し、品切れです!というか当店は本日をもって閉業いたします!長らくのご愛顧ありがとうございました!!」
店長があわてて出てきて、いそいそとシャッターを閉め始める。
こずえ「ちっ、なんだよー。閉店かよー」
瑞穂 「・・・・」
教子 「・・・・」
構内に入居しているたくさんのテナント。
よく見たらそのすべてに『こずえお断り』の張り紙が貼られていた。
ご丁寧に赤字の丸付きで。
教子 「もしかしてこずえさん、って飲食店クラッシャーとか呼ばれてたりします?」
瑞穂 「・・・・こずえは、史上最年少でバカ竜王とバカ名人を制したバカ界の七冠王なの」
瑞穂 「馬鹿頭と馬鹿力を併せ持ったバカ・ハイブリッド……バカ界の二刀流選手よ。バカMVPを満票で受賞したこともあるわ」
こずえ「いいじゃんかよぉ~♪あと一個くらい残ってるだろぉ~?アタシもバナナ仲間に入れてくれよぉ~♪」
店長が全力で閉めようとしたシャッターを片手の2本の指で無造作に押さえるこずえ。
それだけで、合金製のシャッターがミシミシとイヤな音を立て始める。
店長 「たっ、助けてくれー!誰か―!店が破壊されるー!」
店員 「もしもし!?警察ですか!?怪力のJKにお店を壊されそうなんです!いやバールとかじゃなくて素手で!」
教子 「そして、こずえさんって多分バナナが大好物ですよね?」
瑞穂 「好物というより飲み物、いや、もはやこずえにとっては気体といっていいでしょうね」
瑞穂 「皮膚呼吸するように常に全身からバナナ分を吸収しているの。こずえがフルーツパーラーの前を通っただけで黄色いバナナがすべて黒くシナびてしまうわ」
瑞穂 「恐らくこの地球上の大気組成が一夜にしてすべてバナナに変わり、人類の悉くがバナナに埋もれて死に絶えたとしても、こずえだけは生き残るでしょう」
こずえ「バナナなら鼻からでも食えるぜ。耳でもいけるかも」
自身の命まで覚悟したカフェ店長の決死の抵抗により、マリトッツォを諦めざるをえなかったこずえが戻ってきて言い放つ。
教子 「獣人じゃなくてもはや怪異ですね」
瑞穂 「怪異はこの物語には出てこないわ。パクリだと思われるしね」
こずえ「教子!このおバカさんめ!♪」
教子 「ハハハこずえさんにだけは言われたくないですマジで」
・・・・そうか。バナナか。
バナナが決め手だったのか。
と、教子がこずえの顔面の下方約30cm、つまり胸部をぼんやりと眺めながら、「帰ったら最寄りのスーパーで特売のバナナを買い占めよう」とかそんなとりとめもないことを考えていた時、
こずえ「んしょっ!・・っと」
こずえがいきなり無造作にジャンプして、駅構内の柱の鉄骨に掴まった。
教子 「ちょっ!?こずえさん!?」
こずえ「えっほ♪えっほ♪」
そのまま鉄骨をスルスルと忍者のように登ってゆく。
エレベーターのような淀みない速さだ。
瑞穂 「また始まったわね・・」
教子 「な、なにしてんすか!?」
瑞穂 「そう・・・見ての通りこずえは、猿の獣人よ。」
瑞穂 「定期的に高い所に登らないと、気が済まないの。本能なんでしょうね」
教子 「いや、ヤバいっすね色々と・・」
瑞穂 「生徒会内でも随一の怪力を誇るわ。おそらくカラダのエネルギーを常に発散しておかないと爆発してしまうと、自分でもわかっているのでしょう」
瑞穂 「何年か前の新人なんか、こずえの何気ないくしゃみで吹き飛ばされて、そのまま病院送りになったわ」
教子 「・・・・・」
可憐な美女だらけだと思っていた夢の学園ライフにいきなり水を差す存在が現れて、教子はどうしようかと思った。
そうこうしてる間にも、こずえは柱を登り切り、今度は天井の梁の鉄骨を雲梯の要領でワッシワッシとつかんで、教子の遥か上空を水平移動している。
まるで、というよりもはやサルそのものでしかない。
着てるのはもちろん学園指定のセーラー服なので、数百人の駅利用客すべてにパンモロを見せつける豪快な痴女と化してしまっている。
こずえ「バナナ、バナナ、バナナ~♪バナナ~を~食べると~♪」
こずえ「あたま、あたま、あたま~♪あたま~が~良くなる~♪」
駅の利用客が異変に気づき出した。
「あれはなんだ!?」
「鳥か!?」
「飛行機か!?」
「いや、痴女だ!!」
「ち、痴女だー!!上空数十メートルでパンモロしてるすごい痴女がいるぞー!!」
上はパンモロ、下は大騒ぎ。
東大生でも解答できないようなナゾナゾである。
教子 「これ、警察か消防呼んだ方がいいですか?それとも猟友会?」
瑞穂 「いつもの事よ。遊び疲れたら帰ってくるでしょ」
諦めに満ちた目でこずえを見やる瑞穂。
瑞穂「フッ、そうよね・・・こずえは恒久的かつ不可侵な分散型のバカ・ネットワークを持つバカ界のブロックチェーンだものね・・・」
慈愛に満ちた目でこずえを見やる瑞穂。
視線は、こずえを通り越してその先の未来を見据えているようでもある。
教子は、やはりこの2人は、生徒会と関係なしに、なにか特別な過去を共有する親友なんだな、と思った。
そして、親友なら止めてやれよ、とも思った。
かなり強く思った。
構内放送 「エー、業務連絡、業務連絡。南口改札の天井の梁に捕まり、雲梯の要領でパンモロしまくってるモノスゴい痴女がいるとのコト。係員は対応してください。」
警備員1 「また出やがったな!怪力の痴女め!!」
警備員2 「くそっ、いつもいつも俺たちをコケにしやがって!」
警備員3 「今日こそ捕まえてやる!!」
警備員4 「御用だ!御用だ!」
呆然と立ち尽くす教子の隣を、刺又とテーザー銃を構えた警備員の集団が血相を変えて駆け抜けてゆく。
教子「こずえさん、というより、もはや私たちの身柄も含め色々と大丈夫なんですかね?」
みずほ「フッ、そうよね・・・こずえは立ってよし、寝てよしのバカ界のオールラウンダーだものね・・・・」
教子の声が届いているのかいないのか、マザー・テレサの目でこずえを見やる瑞穂。
すべてを包み込むような、それでいてどこか寂しげな目である。
教子 「あの、どうします?これ?」
瑞穂 「さぁ?いつものことよ・・・どうにかするでしょ」
瑞穂 「私は帰るわね。ああなったらしばらくは戻ってこないから」
教子 「マジすか?・・・じゃあ私も帰りますけど」
教子は、騒がしさを増す駅の喧騒をよそに、瑞穂と2人で電車に乗り込んだ。
・・・バカな先輩のやったことで取り調べとか、学校や親に連絡とか、絶対やだし。
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